31. 補給作戦
僕らは家に帰ってから、食卓についてセリーナさん特製の手料理をいただいていた。
「セリーナさん。 今日は突然すみませんでした」
「あら、カインちゃん。 どういたしまして。 貴方達はいろいろと事情がありそうで大変ね」
「それにしても、この料理は美味しいですね。 何ていう名前の料理なんですか?」
僕はコミュ障と誤解されたままなのは嫌なので、積極的にと話題を振ってみた。
その時いきなりドアを開けて、フィリアさんが飛び込んできた。
そして僕の首根っこを掴んで持ち上げると、そのまま家から飛び出した。
「ちょっと来て、 大事な要件があるの」
ご飯はまだ僕の口の中だし、反動でご飯のお皿をひっくり返してしまった。 口の中は食べかけのご飯でいっぱいなので声が出せない。
大事な要件って、何だよ! まさか、名前を知らなかったことでお仕置き? ……いやさすがにそれは無いか。
なんだか分からないが、連れ去るにしても、やることが極端だと思う。
そのまま僕は口をもぐもくさせながらギルドへと連行された。
フィリアさん、もう少し僕の扱いを丁寧にしてほしいです。
「何で貴方はスプーンを持っているの?」
「ご飯を食べている途中だっがからです。 途中で捨てるわけにいかないじゃないですか~」
「成程わかったわ。 そのまま手に持ったままで話を聞いて頂戴」
「……」
「ええと、ここから1日ほどの所にダンジョンがあるのを知ってるわね? 今日そこで落石事故があったのよ。 それで10名程が落石の向う側に閉じ込められしまってね、救出までに数日かかりそうなのよ。 貴方には落石の向う側へ行って食料を届けてほしいのよ」
「なんで僕なんですか? というか、急すぎるし強引すぎますよ~」
「貴方なら通れそうな穴があるからなの。 閉じ込められた人達がパニックになりそうで困っているの」
「僕が通れるなら、他の子供だって通れそうですよね、それに小動物に運搬させてもいいし」
「ギリギリ人が通れるサイズだし、試しに訓練済の犬を使ってみたけれど逃げ帰って来てしまったわ。 それに貴方は空間倉庫持ちでしょう?」
いきなりの指摘にドキッとして狼狽えてしまった。
「……な、何で知ってるんですか?」
「……やはりそうだったのね、マスターの言う通りだったわ」
「ぐふっ、 僕に鎌を掛けたんですね。 悪どい、ギルド悪どい。 こんないたいけな9才児を騙すなんて」
「……ごめんね。 貴方たちのことは調べさせてもらったから。 それに山の中でサバイバルなんて手ぶらじゃできないもの。 貴方は、良い意味で異常だったからね。 何者かを調べておく必要があったのよ」
「調べられてたのか……」
「ええ当然です。 貴方はアレン君だったかしら? 空間倉庫が産出されるクローク伯爵領の、エミリお嬢様も」
「……」
「私たちギルドは、貴方達の事情について干渉するつもりはないし、知っているのは私とマスターだけ。 でも今回の協力要請で、その秘密を交渉の材料にするつもりもないし、助けてくれたら何でも一つ願い事を聞いてあげる準備があるの」
「どんな願い事でも、ですか……」
どんなことでも、という言葉で故郷の母を思い出してしまった。
そして、うっかりフィリアさんの胸元を見てしまった。
「えええっ! それはまだ早いんじゃないかしら?」
フィリアさんは、なぜか混乱してしまった。
「それはともかく空間倉庫を持っていたら何なんですか?」
「……食料と水を中へ運搬してほしいの。 そうすれば閉じ込められた人達も落ち着くと思うのよ」
「そんなことをしたら、僕が空間倉庫持ちだって皆にバレるじゃないですか」
「大丈夫。 ギルドから空間倉庫を貸与して貰ったことにするから」
「えっと、ちょっと待ってください。 ……貸与して貰ったことにするって言いましたか?」
「そうよ。 今はまだ、空間倉庫を近隣のギルドから借りてくるための手続き中なの。 空間倉庫が届くまでには、まだまだ時間がかかりそうなの」
「う~ん。 何か釈然としない気がするけど、……本当に僕しか中へ入れないのですか?」
「そうね。 小さい体の実力者は、私が知る限り貴方だけね。 貴方はある意味異常に優秀なのよ」
「僕は異常なのか……。 そんなに僕に頼りたい状況なんですか?」
「ええ、非常に困っているのよ。 何とか助けてもらいたいのよ。 お願いします」
そこまで頼られれば何とかしたくなってしまう。 僕であれば勝算があるということだ。
ならば、丁度いい。 キャサリンさんの件を頼むことにしよう。
「……分りました。 僕にできるならご協力しましょう。 願い事を聞いて貰うという約束を忘れないでくださいね」
「わかったわ。覚悟しておくわ」
「まぁ長くて大変だから覚悟しておいてください。 それで、荷物はどこに?」
「……」
「あ! マスター室まで運ばせるからそこで待ってて」
僕は奥のマスター室で待つことになった。
そこへは次々と食料や水などの物資が運ばれて来た。
どう考えても僕の空間倉庫では無理な量だ。
「こんなに入らないですよ。 僕の空間倉庫には1立米ぐらいしか入らないですよ」
「入らない分は、現地で何回か往復してもらうことになるわね」
「何回か、ですか……。 くっ、頑張れるだけやってみます」
「それじゃ、物資を入れてみてくれない?」
「わかりました。 今入ってる物はどこへ置けばいいでしょか?」
「そうね、この棚に置いてちょうだい」
僕は空間倉庫に入っている水や非常食、武器、魔道具類、サバイバル装備などを出して棚へ置いた。 ただ、お金だけは出さないで置いた。 結構な金額なので用心したのだ。
「いろいろと入っているのね。 空間倉庫はいいわね」
「じゃ中へ入れますね」
僕は、依頼された水と食料、それに薬などの物資の一部を空間倉庫へ詰め込んだ。
「詰め込みましたが、これ以上は無理です」
「それではすぐに現地へ向かいましょう。 空間倉庫へ入りきらない物は、後で誰かにダンジョンまで持って来てもらいます」
「あ、ちょっと待ってください。 ダンジョンは怖いですから念のためにサバイバル装備を着て行きます。 あと携帯武器も持っていきたいです」
「わかったわ、準備が出来たら行きましょう」
僕とフィリアさん、そして荷物を運んでくれる冒険者と護衛の冒険者たちはダンジョンへ向かった。
そしてダンジョンへ通じる入口へと入り、そのまま奥へと進んでいき大きな岩が崩れ落ちて、通路が塞がっている場所に到着した。
ダンジョンでの落石とのことだったが、実際のダンジョンは非常に強固なので変だとは思っていた。 実際の落石現場はダンジョンの入口へと通じる洞窟だった。
その通路を塞いでいる大岩の下には小さな岩が挟まっていて小さな隙間が開いていた。
どうやら僕はそこに入って行くことになりそうだ。
「お~い そちらの状況どうなの~~!」
大きな声でフィリアさんが穴に向かって叫ぶ。
「まだ大丈夫だぁ~。 水を、水を何とかしてくれ~」
少し小さめの声が穴から帰って来た。 この感じだと、かなり遠いんじゃないだろうか。
「今から、空間倉庫を持った子が行くからまっててね~~~!」
「おお~、まってるぞぉ~~~」
フィリアさんに促されて、僕は穴の中へ入り、這いつくばって匍匐前進を始めた。
これって、思ったよりもキツイ。
STR値やVIT値などのステータスが低い子供じゃ到底無理な仕事だ。 僕はそれらが32もあり大人並みのステータスになっている。 その僕でもキツイと思うのだ。 これは確かに僕にしか出来ない仕事なのかもしれない。
かれこれ30分は進んだだろうか、大きい広間に出た。
ここら辺から少しづづダンジョンらしくなってきている。 洞窟の壁が所々うっすらと光り、その広間はある程度見通すことができた。
周囲を注意深く見回すと、広間の隅にノミネズミという体長50cmぐらいの魔物が一匹いるのが見えた。
げっ! 魔物いるじゃん。 ヤバイ!
と思った途端にソイツは襲ってきた。
ノミネズミの噛みつき攻撃が、お腹に直撃しそうになったが寸前で身をねじって躱した。
即座に僕は振り返り、携帯ナイフをサバイバル装備から引き抜きノミネズミの次の攻撃に備えた。
ノミネズミの二回目の攻撃は、僕の右腕を狙ってきたが、これは予測していたので簡単に回避できた。
余裕が出来たので、サバイバル装備から携帯着火装置を取り出した。
僕は右手にはナイフを持ち、左手に携帯着火装置を持っている。 そして僕は着火装置に魔力を通して小さい火を出した。 携帯着火装置は、通す魔力の量である程度火力を調整できるし、これは魔力を持っている者なら誰でもできることだ。
ノミネズミは火を警戒したのか少しだけ後退した。
僕はチャンスとばかりに前に進み出てナイフを振るった。
そのナイフをノミネズミが回避する。
僕が再度ナイフを振るう。
ノミネズミが回避する。
このパタンを何回か繰り替えした後で、僕はわざとナイフを取り落して見せた。
ノミネズミは、それを隙だと思ったのか僕に飛びかかってきた。
よし、罠にかかったな!
僕はカウンター気味にノミネズミへと着火装置を突き出して火力を最大化させた。
ジュゥ~~~
ぎぃぃぃ~~~
肉が火で焼ける音と、ノミネズミの絶叫が聞こえて勝負が決した。
魔物とソロで戦うのは初めての経験だった。
戦いが終わり安堵のため息をついた。
僕は息を整えてからナイフを拾ってノミネズミを解体し、体内から魔石を取り出した。
魔石は通常の魔石だった。
通常の魔石は1時間もすれば効力を失ってしまうので、魔物を倒した者がその場でレベル上げするために使うのが普通だ。 今回閉じ込められた人々は、そのようなレベル上げ目的でギルド主催のツアーに参加した人々である。
ちなみに、魔石の中でも稀に取れる魔核魔石は、数年単位で効力を維持できるのでお貴族様とかが買い上げて自分のレベルアップに使用したり、魔力タンク用等の素材となったりするから高価だ。
先ほどの戦闘で、僕は魔石を手に入れたが、魔核魔石でないと売れないし、未だレベル上げが解放される年齢に達していないから何の価値もない。
奥で待っている人の誰かにプレゼントしてあげよう。
僕はそう思って、広場の向う側の奥へと続く次の穴へと入って行った。
そして、かれこれ20分。
漸く穴から出たら、そこには12名の若い冒険者達が待っていた。
「おお~、来てくれたな。 ありがとう。 しかしちょっと時間がかかったな。 途中何かあったか?」
「はい、穴がめちゃくちゃ狭かったです。 あと途中でノミネズミが出て、討伐に手間取りました」
「ええっ? ノミネズミが? 君は大丈夫だったか?」
「はい、何とか。 見ればわかる通り、ボロボロですけどね。 それで物資はどこへ出します?」
「お、おぅ。 ここへ出してくれ。 ありがとうな、本当にありがとうな」
僕は水、食料、薬、衣類、火を出す魔道具など、必要物資を次々と空間倉庫から出してあげた。
「う~ん、有難いのだが、ちょっとばかり少ないな。 今日はこれで終わりなのか?」
「いえ、借りてきた空間倉庫が小さいので。 ……今日はあと数回往復することになってます」
「そうか。 ……すまないね、本当にすまないね。 もう少し頑張って物資の搬入をお願いするよ」
「ところで、この魔石使いますか? 僕にはまだ使えないので、良かったら使ってください」
「おお、ありがたく貰うよ。 こんな小さい子に色々させてしまって申し訳ない……」
「そうですよね、フィリアさんにちゃんと言ってやってくださいね」
「ええっ! いや、それはちょっと怖くてできんかもしれん。 ……ごめんね」
「ですよね~。 じゃもう一度物資を取りに行ってきます。 片道1時間はかかるので、気長に待っていてください」
その後3往復してその日はそれでダウンしてしまった。
ダウンした時にステータスを確認したところ、HPが30も減っていたことがわかった。
どう考えてもこんなのは児童にさせるような仕事じゃないな!
僕は毒づきながらも、次の日も2回往復して何とか物資を運び終えた。
そして数日後、またもフィリアさんにギルドへ連行された。
「やっと空間倉庫が届いたわ。 容量は貴方のと同じサイズね。 いろいろと時期的なズレもあるけど、何とか誤魔化しましょうね」
「わかりました。 それで早速、約束のお願いなんですが」
「えっ? 今から? ちょっと待って心の準備が、それに部屋も掃除しないと……」
「……」
「フィリアさんが何を考えてるのか分かりませんが、僕たちは一度コインロード王国へ帰ろうと思ってます。 それで同行してくれる保護者の手配をお願いしたいんですよ」
「保護者? あれっ、私に興味があったんじゃないの?」
「興味が? どうしてそう思ったんですか?」
「だって、私の胸をいやらしい目でじっと見てたじゃない」
「いやらしい目って、……そんなはずないです。 胸を見たのは、ちょっと母の雰囲気に似てたからなんです」
「……貴方のお母さん? ……ああ、そうだったの。 理解できるような気もするけど、……そういうところは、貴方も普通の子供だったのね」
「当たり前ですよ。 僕の事を何だって思ってたんですか」
「……」
「……まぁいいです。 それよりも、同行してくれる保護者の手配をお願いしますね」
「そうね、………よし、決めた! 私が直々に同行しましょう!」
「ええっ???? なんでまた? サブマスターの仕事はどうするんですか?」
「それよ! 今回の件で責任を取らされるはずだし、その前に辞めてしまおうかと。 それに、……空間倉庫の件とか色々と誤魔化さないと不味いでしょ? そのために一番いいのは当事者が居なくなることよ。 とりあえずトンズラね!」
「う~ん、確かに色々と詮索されるのは困りますね。 でも逃げ出してしまって、マスターは大変なんじゃ?」
「いいのよ、あの人はそういうの得意だから」
なるほど、あの人なら旨くやりそうだ。 僕たちが居ない方があの人も都合がよいかもしれない。
「……わかりました。 それにしても、フィリアさんって保護者っていうイメージじゃないですよね。 心配だな~」
「なんなの? わたしってどういうイメージなの?」
「言っても怒らない?」
「その位で私が怒るわけないわよ。 ほら言ってごらんなさい、ほらほら!」
「そ、そういう所が不安になるんだけど。 ……あえて言えば」
「あえて言えば?」
「あえて言えば、切れやすくて怖い綺麗なお姉さんで、ショタコンでロリコンかな」
「おまえぇ~~~ ショタコンっていうなぁ~~~!」
「冗談です ごめんなさい。 すみません。 許しってください。 怒らないって言ったじゃないか~」
「それとこれでは全くちがう~~」
いや違わないぞ! そういう所が問題なんだぞ!
そう思ったのだけど、僕はそのままその場から逃げてしまった。
そんな僕に優しく微笑んでいるフィリアさんがちらりとみえた。
ショタコンは冗談としても、ちょっとした挑発でもフィリアさんは切れやすいのかもしれない。
本当のところ、どこまで本気かはわかなないのだけれど、先行きに少々不安があるには違いない。
それから1か月ほど経過し、ダンジョンでの遭難者たちは無事に救出されて、今日はフィリアさんの退職日となった。
フィリアさんと僕とで相談して、その1週間前から旅の仲間となる護衛依頼をギルドに出していたが、誰も申し込んでくれていない。
結構高い金額を提示していたのにこれにはガッカリだ。
どうしようかと僕とフィリアさんで悩んでいると、そこへあの強面の冒険者が通りかかった。
「おぅ、 スティンガ、元気でやってる?」
「さ、サブマスター。 もちろん元気でやっています。 すべてサブマスターのお蔭です」
「貴方さ~。 私たちの護衛を引き受けない? 丁度今暇なんでしょ?」
「い、いや それはちょっと。 ……俺は丁度今仕事を引き受けたばかりで……」
「え? ギルドの仕事管理帳に貴方の名前は無かったわよ?」
「そ、それは、サブマスターが退職してから依頼を受けたのかもです……」
「そう? じゃちょっと、マスターに頼んで管理帳見てくるね。 待っててよ?」
「あ、ああ~~~。 すみません勘違いでした。 まだ引き受けてなかったです」
「じゃ何を引き受けるつもりだったの?」
「……ハイ。 ええと、……カインさんという方の護衛だったかと、……思います」
「よろしい! じゃぁ手続きしにいきましょう」
強面の冒険者、――スティンガさんは、フィリアさんに連れていかれてしまった。
あんな言い訳じゃ、フィリアさんには通じないだろう。 口撃力と威嚇能力を合わせ持つフィリアさんに対応できるのは、マスターぐらいなんじゃないだろうか。
そしてフィリアさんが捕まえて来た冒険者は以下の2名だ。
強面の冒険者、スティンガさん。 <STRギフト>のアタッカーで位階レベル52。
凄みのある冒険者、ヴァイタリさん。 <VITギフト>のディフェンダーで位階レベル54。
そしてフィリアさんは、まさかの<MNDギフト>の治療師で位階レベル123だった。
早速僕らは、旅の準備を整えてから、セリーナさんの見送りを受けて、スティンガさんの引く人力車で町を出た。
旅のメンバーは、僕、アスナ、フィリアさん、スティンガさん、ヴァイタリさんの5名だ。




