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57 赤き月(7)

 外の世界はほの暗く、そして赤く染まっていた。

赤き月の光は、まとわりつくように俺の身体も赤く照らし出す。



「クロウ、どこが一番危なそうだ?」


「森側のが厳しいな。森の動物が魔力に当てられて、妨害してるんだ」


「よし、そっちへ行くぞ」


「けどよ、オッサンは戦えんのか?」


「何言ってんだ? 俺が戦うわけないだろ?

 俺はテイマー。相手にすんのは、魔物じゃなく動物だ」


「ならちょうどいいな、森側へ向かおう!」


「おう!」



 村の中は静かで、赤く染まる以外は何も変わらない、日常があった。

けれど、確実に崩壊が近づいている。

村と外を隔てる壁は、多くの犠牲のもとその形を保っているのだ。


 遠目に見えるは、大人三人分くらいの高さのある石壁。

遠くからはわからずとも、近づけばそれは、すでに形を保つのもやっとという様子だ。

魔物の攻撃、とくに遠距離からの魔法によって、焼け焦げ、ひび割れてきている。

そして近づくほどに、血の匂いと戦いの音が大きくなる。


 俺たちが門を抜け見たものは、魔物と暴走した動物たちの残骸のなか、懸命に村を守る冒険者の姿だった。

その中に一人、見覚えのある男がいた。ギルドで指示を出していたヤツだ。

彼も、俺たちが救護へ回っていた間に、前線へと赴いていたようだ。


 俺とクロウは剣を抜き、襲いかかる魔物を薙ぎ払いながら、ソイツの元へと向かう。



「副長! 加勢に来たぜ!!」


「なっ……! クロウ!? 戻ったんじゃないのか!?」


「悪いけどっ! 今回()命令は無視させてもらうぜっ!

 それにっ! 選り好みしてる場合じゃないだろっ!」



 クロウは言っていた通りすばしっこく、魔物の攻撃を済んでのところで避けつつ話す。

口だけではなかったと感心したいところだが、残念ながら攻撃はてんでダメなようだ。

速さに重点を置いているから仕方ないところもあるが、力が入りきらず、大きなダメージは与えられないでいる。



「下がれっ! ブラッドムーンは、普段とは違うんだ!!

 今の魔物は狩る相手じゃない! 俺たちが狩られる方なんだ!!」


「だからって! 見てるだけじゃいられねえよっ!」


「あぁ、それは俺も同感だ」


「なっ……!? イーナムさんまで!?

 いくらなんでも、テイマーには無茶だ!」


「なに、心配すんな! 俺が相手にすんのは、頭に血が上って暴れてる動物だっ!!」



 襲いかかる狼を蹴り飛ばし、副長を守る。

暴れているとはいえ、相手は動物だ。テイマーとして、命まで奪う気にはなれない。

それは魔物だって同じ。だから俺は、そっちは全部誰かに放り投げて、俺のやりたいことだけをやる。


 それが今までの俺だったし、これからも変わらないだろう。

汚れ仕事を他人に押し付けてるだけだと言われても、いまさら変えることもできねえしな。

クロウより俺の方が、よっぽどガキだな……。



「それじゃ、いっちょ暴れさせてもらいましょうかねっ!」


「何する気だ!?」


「血の気の多いヤツらにゃあ、ちょっとばかり献血してもらおうかねぇ!!」



 カバンから針を取り出し、トランプのごとく扇型に構える。

そして、我を忘れ暴れ回る狼、猪、熊などなど、森の住人たちの首元へと、ダーツよろしくぶん投げた。



「針!? んなもんで倒せるわけ……」


「ただの針じゃねえさ。献血用注射針。

 しかも袋が付いてて、勝手に採血してくれる優れもんさ!」


「血なんか抜いて、どうするってんだ!?」


「こいつらは、身体の中に魔力が溜まりすぎて暴走してんだ。

 だから血といっしょに魔力を抜いてやれば、大人しくなるって寸法よ」



 俺が説明している間にも、注射針に備え付けた袋は膨らみ、それぞれの体格に合わせた量の血を奪い取る。

その袋もまた、俺の特製魔道具なんだが、説明は要らねえな。血を抜くってことが分かればいい。



「わかった、では動物は任せよう。俺たちは魔物に集中だ!

 クロウ! いまさら帰れとは言わん! だが、無茶はすんなよ! 分かったか!?」


「あいさー!! 特訓の成果見せてやるぜー!!」



 副長の指示が飛べば、冒険者たちは一気に陣形を変える。対動物防御放棄の魔物特化陣形だ。

つまり、動物の相手は全部俺に任せるつもりらしい。これは責任重大だな。

副ギルド支部長、略して副長。

支部長不在時にブラッドムーンに当たる運の無いヤツ。

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