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50 リビィの結末【2】

 それは一瞬の出来事だった。

ただまっすぐ、目の前の倒すべき敵へと走り寄る私が見た、この一瞬を、永遠に忘れることはないだろう。


 目前の獲物から目を離し、空を見上げる魔物たち。

普段ならば好機と捉え、奴らの喉元を掻っ捌いていただろう。

けれどそれは、ただの人間でしかない私であっても気付くほどの、異様な空気を纏っていたのだ。


 魔物たちと同じように、私も空を仰いだ。

そこに映る光景は、紅蓮の月を背に、宙を舞う黒馬の姿。


 魔物も、人も、時間ときさえも魅了し、動きを止めんかとする姿に、音さえも活動を止めた。

鬣をなびかせ、地に降り立った黒馬は、月と同じ紅き瞳で周囲を一瞥し、そして声高く嘶く。


 それを合図とするように、静止した時が動き出す。

魔物たちは標的を黒馬へと変え、人間など存在しないかのように振る舞いながら、一斉にかの馬へと襲いかかった。


 しかし、身を翻し、魔物たちを嘲笑いながら、魔物を引き連れ、馬は駆けてゆく。

人から離れるように。私から離れてゆくように……。



「まっ……、待って! 行かないで!!」


「おい! リビィ! どこへ行くんだ!?」



 駆け出そうとする私の肩を、アンバが力一杯引き止める。



「追いかけないとっ……!」


「待ちなさいよ! 追いかけてどうするつもりよ!?

 馬一頭で助かったのよ!? 儲けもんじゃないの!!」


「だって……! あの馬はっ……!」




『ねえ。その子のこと、大事にしてるのね』


『ん? あぁ、そうだな。ケンタとは、ガキの頃からずっと一緒さ。

 俺がはじめてテイムしたのが、コイツなんだ』


『その子は特別なのね』


『別にテイマーとして特別扱いしてないけどな。

 けど、いまさら他の馬に浮気する気はないさ』




「彼の、大切な子だからっ……!」



 止めるアンバとミランダを振り払い、私は駆け出した。

黒馬が魔物たちを先導し、引き連れた森の中へ……。





 赤くかすかな月明かりが照らす、深い森の中、ただただ走った。

何かから逃げるように、何かを置き去りにするように。


 本当は、何から逃げたかったかなんて分かってた。

失くすことでしか、大切だと気付けない愚かな私。

彼が私にとって、どれほど大きな存在か……。

遠くに追いやってはじめて気づいたのだ。


 彼の匂いが、かすかな繋がりが、最後の希望が……。

今また、私の手からすり抜けていこうとしていたんだ。


 だから私は走った。魔物への恐怖も、一人きりの心細さも、許されぬ過ちも、何もかも抱えて。

仲間への想いも、唯一残された家族も、守り抜くと決めた使命も、何もかも捨てて。


 もう二度と、後悔なんてしたくなかったから……。


 走り抜いた先、そこは紅き月が照らす紅き大地。

木々の間に開けた空間に漂うその赤は、月の色ではなかった。


 魔物の血を吸い、生臭い鉄の臭いと、流れる肉片の海が創る、死の大地。


 その中央に、紅く濡れた元黒馬はたたずむ。

全身に血の雨を受けて……。



「なぜ、追ってきた……」


「ど……、どうして……」



 そこに立つのは、ただの黒馬ではない。

気高く凛としながらも、たなびく鬣美しい馬の姿はなかった。

馬の首の代わりに、人の半身がすげ替えられた魔物……。



「まさか……、あなた……」



 その瞬間、目を離さず見ていたはずの馬の姿は消える。

そして、気づいた時には体が浮かび上がり、無様に私は足をぶらつかせることになった。



「貴様は分かっていない……。

 なぜ主が私を置いていったのか……。

 そして、主がどれだけ貴様らを想っていたか……」


「ぐっ……、がぁっ……」



 軽々と片手て首を握られ、月へと掲げられる私に、ケンタウルスは息を荒げ語りかける。

憎々しげに、忌まわしげに……。返り血と汗にまみれた、紅い瞳でにらみつけながら。

これは当然の報いだ。なぜなら、私が彼らを引き離してしまったのだから。

ネーミングセンスぅ……。

ま、主人公のイーナムって名前自体が……。

あ、やめよっか、この話。

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