30 だから、アレだよアレ
「それで、ドラゴンがきれい好きで手入れが大事なのはわかりました。
もうひとつの、魔力の発散というのは、どういうものなんです?
かけられたテイムの魔法を解くんですから、こっちの方が影響が大きいんじゃないですか?」
「あー……。魔力の発散な……。
うん。やめよっか、この話」
「ちょっと、旦那様!?」
「それが良いかと思いますわ。小娘のヨツミミには、まだ早い話ですもの」
「ちょっ!? 子供扱いは許さんぞ!!」
グルルと唸り、タツミに牙を剥いて威嚇するルーヴ。
しかし、実年齢は知らないが、見た目が10歳そこらの女の子にしか見えないので、全然怖くない。
と思っていたのは俺だけのようで、その放たれるオーラを察したのか、窓の外の木々に留まる鳥たちは、我先にと空へと逃げていった。
「まぁまぁ、落ち着けルーヴ。
ただなぁ、食事中にするような話でもないしな」
「そういうの、余計に気になるんですよ!」
「イーナム様、本人がここまでいうのですから、教えてもよろしいのでは?」
「えー……」
正直、気が進まないなぁ……。
ルーヴを子供扱いするわけではないが、別にルーヴなら、知らなくたっていい話だし。
だが……、期待というか、催促するルーヴの視線が、ひどく痛いのだ。
「あれだ、洞窟前での話覚えてるか?
ほら、ドラゴンの生態の話……」
「もちろん! 旦那様のお話ですから! 忘れるはずありません!」
「いや、あの時もすっごい、ドウデモイーって反応してなかったか?」
「気のせいです!」
気のせいじゃないと思うんだがなぁ……。
まぁいいか、そういうテイで話すとするか。
「で、その時話してただろ?
ドラゴンは戦って、勝った方が魔力を注入して相手をメス化させるって」
「ホント、変な生物ですよねぇ……」
チラリとタツミを見る。
そうだよ、お察しの通り、タツミも元々オスだよ。
信じられないかもしれないけどな。
「それでな。えーっとその、強い子供にするには、魔力を多く持たせる方がいいわけでだな……」
「ですね。生物として、強い子孫を残す方法を取るのが、自然な事だってあの時も言ってましたね」
「そう。それで、その……。
オスの方はだな、相手に自分の魔力を託さないといけないわけでだな……」
「なんです? じれったいですよ?
はっきり仰ってくださいよ」
「イーナム様が言いにくいのでしたら、私から。
雄は子種に魔力を宿すのですよ」
「…………。コダネ……?」
ルーヴは、一瞬頭の上に『?』を浮かべたが、その直後理解したのか、顔を真っ赤にしてうつむいた。
まさか、そんな話されるとは思ってなかったんだろうなぁ……。
あの時は、ドラゴンは首元に噛み付いて魔力を注ぐって話しかしなかったはずだし。
「いや、ほら、考えてもみな!?
その時しか魔力渡すチャンスないだろ!?」
「イーナム様、それは追い討ちになってますよ」
「へっ!? いや、これはその……。
どの動物にもある、普遍的な機能なわけでさ!!」
「雄にしかわからぬことですから、仕方ありませんわ。
イーナム様も、魔力の発散をしたくなれば、気兼ねなく私にご相談下さいね」
「ちょっ!? 何言ってんだタツミ!!
んなもん、手伝ってもらわんでも自分でやるわ!!」
「ふふっ……。イーナム様も健全な男性ですものね」
クスクスと笑うタツミに対し、完全に沈黙するルーヴ。
やっぱ、ルーヴに話すのは早かったかなぁ……。
と、少しばかり後悔していれば、微かな声が聞こえる。
「……まの」
「ん?」
「旦那様の、不潔ー!!」
「ちょっと待てー!!」
ルーヴは、そのまま勢いよく駆け出し、外へ飛び出していった。
そんなにショックだったのかな……。
てか、俺が何をしたってんだ!?
「さて、邪魔者はいなくなりましたし、魔力の発散のお手伝いいたしますよ」
「やめろ、真っ昼間っから……」
「なら夜まで待つとしましょうか」
「そういう意味じゃねぇ!!」
突然娘に『妹が欲しい!』と言われた父親の気分。
もしくは『赤ちゃんってどこからくるの?』ってヤツ。




