29 強欲な王
昔、とある王国があった。
溢れる資源を元に、貴族も貧民もないほどに富み、膨れ上がるほどに豊かな国があった。
誰もが飢えに苦しむことなく、欲しいものを欲しいままに手に入れられる王国。
誰もがその王国を、地上の楽園だと羨んだ。
けれど王は、それでも満たされなかった。
世界中の全てを、その手に収めたいと願ったのだ。
そして、欲しいと願ってしまった。制御できぬ力を……。
「なんだか、子ども向けの寓話みたいな話ですねぇ……」
ルーヴは昼食のスープを飲み干し、一言そういった。
実際、そういう要素が多く残される話だ。
けれど、これは作り話でもなければ、さほど昔の話でもない。
ほんの、十数年前の事件だ。
ルーヴは、拗ねて不貞腐れてたかと思っていたが、意外にも今回はそうでもなかったようだ。
昼食時になれば、ちゃんと料理してくれていた、
それどころか、あろうことか、タツミの分も用意してあったのだ。
その様子を見たタツミと、ルーヴの間で、妙な緊張感が流れた気がするが、気のせいということにしておこう。
なんの意図もない、純粋なる良心だということにしておかないと、人間同士のめんどくさい争いに巻き込まれるだけだ。
そうして始まった静かな昼食であったが、何も話題がなく……。
いや、なくはないんだろうけど、互いの腹の探り合いのせいで、ひどく静かだったのだ。
そんな中、ルーヴが先手を打った。
「そういえば、旦那様のテイムしたドラゴンは、どうなったのですか?」
ただ、それだけの話だと思いたい。
タツミに対する当てつけではないと、俺はそう思い込むことにしたのだ。
そして、先程の寓話の話へと繋がる。
「それで、その話と旦那様のドラゴン、どういう関係が?」
「あー、その欲しがったものってのが、ドラゴンだったんだよ」
「ふふっ……。人間ごときが、ドラゴンを簡単に使役できるとでも?」
「まー、俺もそう思ったし、かなり危険だって事は、直接王に言ったんだけどさ……」
「え? もしかして、ドラゴンを売ったんですか?」
「んー、売ったというか……。
実際、俺もテイムするまでは知らなかったんだけど、ドラゴンってすっげぇ食費かかんのよ。
それに、好き嫌いも激しくて、適当に食事与えるのも無理だし。
何より、気に入ったものだと思って同じの用意しても、次の日にはそっぽ向いたりすんだよね」
「うわー。ドラゴンってのは、どいつもこいつもワガママなんですね」
ルーヴの視線は、じっとタツミの方へと向かう。
だが、ドラゴン全部がそうとも限らないようだ。
タツミは、ルーヴの用意した食事に文句を言っていないし、足りないとも言っていないのだから。
「正直、全部のドラゴンがそうなのかは分からん。
ただ、ソイツはそうだったってだけだ」
「へー。それで、困って手放したんですか?」
「まぁ、困っていたのは確かだが、それだけで手放すつもりはなかったさ。
けど、その国ってのは、経済的な余裕もあったし、色んなモン手に入る環境だったからな。
俺の元でひもじい思いするくらいならって、引き渡すことにしたんだよ」
「さすがイーナム様。自らのためではなく、相手のために泣く泣く別れを選んだのですね」
「んー。そこまで美化されると、すんげー罪悪感があるんだが……」
俺と王だけでなく、ドラゴンにとってもそれがいいと思っただけだ。
その時は、全員がこれで幸せなんだと思っていた。
だが、その選択は間違いだったと、さほど時間を置かず気付かされたのだ。
「それじゃあ、今もその国にドラゴンはいるんですか?」
「まぁ、その場にいるっちゃ居るが……」
「なにやら、歯切れの悪い返答にございますね」
「あー……。国は滅んじまったから……」
「えっ……。 あの、どうしてですか?
かなり裕福な国だったんですよね?」
「まぁ、なんだ……。そのドラゴンが暴れてな……」
どれほど豊かな国であろうとも、どれほどの強さを誇る軍隊を持っていようとも、ドラゴンを封じ込めるなど、人間には不可能だ。
テイムさえも、従わせる魔法に、ドラゴン自体が『かかってやってもいい』と思わなければ、すぐに振り解けるものなのだ。
それは、俺が麻痺と眠りの魔法をかけても、タツミが意識を保っていたのと同じように。
「一度かけたテイムの魔法を破ることなんて、できるんですか?」
「できなくはない。というか、させないために、きちんと手入れしてやったり、魔力を発散させてやらんとだめなんだよ。
俺はちゃんと、一から十まで説明したんだがなぁ……」
「つまり、手入れを怠ったため、王国は滅んだと……」
「どうだろうな。 ドラゴンってのは、鱗を磨かれるのが好きって話したっけ?
あれも、俺が一枚一枚鱗を磨いてやれば喜んだからわかった事なんだよな。
俺はそれを見てて、意外と綺麗好きなんだなって新発見に喜んでたけど」
「へー。ドウデモイー」
「ちょっ!? ルーヴ、お前が聞いてきた話だぞ!?」
まったく、ルーヴってやつは……。
まぁ、それもこれも、ドラゴンの弱みを握るために聞いてきた事だろうから、当然っちゃ当然か。




