19 家路
「では、どうしてドラゴンは争っていたんですか?」
「ドラゴンだからだ」
「はい? 理由になってませんよ!」
「まぁ、何事もこの一言で終わっちまうんだけどな!」
「ちょっとー! 教えてくださいよぉ!」
よしよし、食いついたな。
別に興味なくとも、「待て」をさせられると欲しくなるってもんだ。
これが、テイマーの本領発揮ってやつよ。
「いいぞ。ドラゴンってのはな、オスしかいないんだ」
「あのー、話が繋がってませんが?」
「そして、戦いに負けた方のオスが、メスになるんだ」
「……はい?」
「だから、負けた方がメスになるんだよ!」
「またまた、ご冗談を……」
あ、信じてないなこれ。
まぁ、俺もにわかには信じられなかったけどな。
けど、今回の件で、これは確信へと変わった。
「世の中には、結構そういうのは多いんだぞ?
魚なんかは、卵の時の温度が数度違うだけで、オスメスが変わったりするんだ。
他にも、オスが群れにいなくなると、一匹がオスになる種類なんかもいるしな」
「うーん、想像できません……」
「まぁな。でも、この話を飲み込んだ上でないと、話が進まんな」
「はぁ……。まぁ、そうだとして、どうやって子どもをつくるんです?」
「ドラゴンってのは、さっきの魚と違って、全部がオスなんだ。
そして、戦いに負けた個体が、魔力を注入され、その魔力の影響でメスになる。
そしてその二匹がつがいになって、子孫を残すんだ」
「うーん、なんでわざわざそんなことを?」
「そりゃ、強いヤツの遺伝子を残すためさ。勝った方は、より強い個体だ。
つまり、勝ち続けるヤツの子孫が、大量に発生することになる。
次の世代は、その強い遺伝子を持つ奴ら同士で同じことをする。
そうなると、どんどん種として強くなってくって寸法さ」
「はー、なるほど? 強いのが多く残るシステムなんですねぇ……」
しかし、これはドラゴン特有のシステムだ。
大抵は、強い方を母体として、出産に耐えるようにする種が多い。
さすがそこはドラゴン、負けた方とて出産に耐えられぬほど弱くはない。
もしくは耐えられぬなら不要と割り切るのか、負けた方が母体となる。
なかなか面白い生態だ。
「ま、そういうことでな、今回の個体が、子どもができてないか見てみたかったんだよ。
なんたって、ドラゴンが子をなすのは、数百年に一度あるかないかだからな!
それに出くわせるなんて、興奮するだろう!?」
「それに興奮するのは、変態だけだと思います」
「なんだと!?」
これだから分かってないヤツは……。
珍しい現象を直接見たい、それは誰しもが持つ、知的好奇心というものだ。
それを変態などと……。
「それで、ドラゴンの卵を持ち帰ったんですか?」
「あ……。いや……、その……」
「まさか、収穫なしですか!?」
「それがだな……。メス化はしていたんだが、どうやら子どもは作ってなかったようでな……」
「えー。期待煽っておいて、そんなオチですか」
「いやいや、考えてもみろ。
こんなポンポン子どもできてたら、世界中ドラゴンだらけだぞ!?
数百年に一度ってのも、こういう不発があるからって分かっただけでだな……」
「言い訳は結構。今回の依頼も、変態の趣味も、どっちも収穫なしなのは変わらないですからね?」
「くそっ……。そう言われると言い返せねえ!!」
確かに無駄足だと言われればそこまでだ。
そりゃ、傷ついたドラゴンを治療できたから後悔はしないが、それでも空振りで残念だという気持ちは変わらない。
いつか、いつか必ず、ドラゴンの卵を調査してやる……。
「でも、旦那様が無事帰ってきてくれたので、私はそれだけで十分です。
さぁ、一緒にお家へ帰りましょう?」
「あぁ、そうだな」
そうだ、これからまだまだ時間はある。ゆっくりと探せばいいさ。
そう思い直し、俺は家路へとつくのだった。
「旦那様! どこへ行くんですか!?」
「へ? 家はこっちだろ?」
「そっちは、かんっぜんに逆方向ですよっ!
「へ? そうだっけか?」
「もう! 私がついてきてて、本当によかったですね!」
「あぁ、そうだな……」
無茶な生態しててもいいじゃない、ファンタジーだもの。




