20 リビィの苦悩(2)
酒場の喧騒の中、私たち一行だけは、通夜のように静かだった。
そんな中でも、アンバの低く落ち着いた声は、周囲の騒々しさにかき消されることなく、私の耳へと届く。
「リビィ、これからどうするつもりだ?」
その一言は、どんな毒よりも、苦々しく私の中に響く。
私は何も言えず、押し黙る他なかった。
ハイオークに遭遇し、私たちはドラゴンの調査を断念せざるを得なかった。
幸運な事に、私たちの連れていた馬は、ハイオークの存在にパニックを起こさなかった。
おかげで、その背の荷物を全て捨て、足の遅いビリーとミランダを乗せ、私たちは逃げ切れたのだ。
だがそれは、冒険者としてのパーティの評価を、著しく落とすことになる。
調査であれば、戦闘を避け、回り込むことで実行できたはずだ。
それをしなかった、できなかったのは、警戒不足と慢心の表れ。
調査依頼とは、調査対象の危険度によってベテランに振られることもあるが、基本的に失敗を前提としていない。
失敗は、対象の危険度に関係なく、パーティーの実力不足であるという評価が下るのだ。
調査不足はあれど、失敗など初心者パーティーでもそうそうしない失態だ。
そんな依頼主の蔑む目から逃げるように、私たちは別の街へと拠点を移したのだった。
けれど、それだけで済んだのだ。私は幸運だったと思う。否、そう思い込もうとしていた。
あのまま戦っていれば、全滅は避けられなかったのだから。
「ま、待ってればいいんじゃない?
ハイオークの話がホントだってわかれば、汚名返上なんだし?」
「ミランダ、その間どうするつもりだ?
一応蓄えはあるし、低級依頼なら受けられるだろう。
けれどそれは、ほぼ活動休止と言っても差し支えない状況だぞ?」
「いいじゃん。今まで頑張りすぎたんだし、バカンスってコトで。
それに、すぐハイオークの話は上がってくるでしょ?」
「どうだか……。いくつかの調査隊が、そのまま帰らないなどということになれば、長引くぞ」
「そうなれば、それだけ強い相手だっていう証明じゃん?
あたしたちの不当な評価が覆るには、むしろ何人か行方不明になってくれた方がいいっしょ?」
「ミランダ、その発言は訂正しなさい」
「なによリビィ。アンタは、ポンコツパーティーのリーダーの方がいいの?」
「そうじゃないわ。けれど、冗談でも言っていいことと、悪いことがあるわ」
「何言ってんの? 冗談なわけないじゃない。
アタシは、ここなら世界一という名声も手に入れられると思ってんの。
だから、アタシたち以外には、踏み台になってもらうつもりよ?
有効利用してあげるんだから、感謝して欲しいくらいよね」
「ミランダ、黙りなさい」
明らかにミランダは苛立っている。
普段から尊大で、口も性格もいいとはいえない彼女だが、それでもここまで言うことは今までなかった。
それほどまでに、彼女にとっても今回の失敗は、影響が大きかったのだろう。
そんなミランダの物言いに、普段はからかわれながらも、可愛がられている弟のビリーも縮こまっている。
今、このパーティーの状態は最悪だ。
すでに、崩壊しかかっていると言ってもいい。
もし、彼がこの場にいたなら……。そんな事を思ってしまう。
しかし、多分彼を追放していなくとも、彼はこの場にいなかっただろう。だが、それだけで十分だった。
愛馬と共に過ごし、酒場に来ない付き合いの悪いテイマー。その悪口に花を咲かせ、私たちの結束は強まっていたのだ。
全ての原因を彼に押し付け、そうやって団結を維持していた。
そんな脆い団結力など、長く続くはずがなかったのだ。
皆が皆、誰かに責任を押し付け、自身を肯定したがっていた。
けれど、それをしてしまえば、決定的な亀裂を生むこともまた理解している。
だから誰も、何も言い出せずにいたのだ。
喧騒の中、再び沈黙が落ちる。
その沈黙を破壊したのは、酒場に駆け込んでくる、一人の冒険者だった。
「全員今すぐ戦闘準備を! ブラッドムーンだ!」
敵の敵は味方。敵が居なければ成り立たない関係。




