第39話 ダンジョンの洗礼
ジャスタール王国にある迷宮都市『ダルニア』
ここにあるダンジョンに今、ブロトール学園の生徒であるアンナたちの班が
進入していく。
入り口にいる冒険者ギルドの職員の人と学園の先生に、
「気をつけていくように」とか、「無理はしないように」とか言われて
中へ入っていく。
中へ入ると、四角い石でできていた入り口とは違いいかにも洞窟なつくりで
大きな広場になっている場所に入った。
「ここが、ダンジョンなの?」
キョロキョロと周りを見ながらサラが、護衛の冒険者に質問する。
「ここは、まだダンジョンじゃあありませんよ。
ここは入り口へ行くための待合所みたいなところですね」
「待合所?」
「ええ、ここは普段は冒険者たちがパーティーメンバーと
待ち合わせて、ダンジョンに出発する場所なんですよ」
護衛2人から、ダンジョンの説明を受けるアンナたちは
しきりに「へぇ~」とか「はぁ~」とか声を出して感心していた。
護衛の冒険者のフローラが、5メートル先の階段を指さして
「ほら、あの階段を降りたところが目的のダンジョン地下1階ですよ」
「では、出発しましょうか」
エリザベスの合図で、出発するアンナたち。
下へ降りる階段は横幅5メートルもある大きさだ。
アンナはみんなとこの階段を降りながら、護衛の冒険者に質問する。
「フローラさん、なぜ、この階段はこんなに幅があるんです?」
「それはですね、けが人などを運ぶためにとってあるんですよ。
重症のけが人は、寝かせて運びますからね」
「そうなんですか…」
アンナはフローラの答えに少し怖がっているようだ。
「でも、治癒魔法やポーションで治るのでは?」
今度はエリザベスが、質問してくる。
「冒険者の中で、治癒魔法が使えるものはごくわずかです。
それに重症ともなると、ポーションでは命をとどめるのがやっとなんです」
レナの答えに、さすがのエリザベスも顔を少し引きつらせていた。
「命がけなんですね、ダンジョンって…」
クレアは、少しだけダンジョンにあこがれを持っていたようだ。
「でも、それだけの実入りもありますし
何と言っても、ダンジョンには不思議なことが多いですからね」
「不思議なことですか?」
「そうです、これから皆さんが行くダンジョン25階層もその1つですね」
クレアは「なるほど」と納得する。
これから向かう2階層には、
ダンジョンの中なのに空があり草原が広がっているという。
そういう神秘もまた、ダンジョンの魅力の1つなのだろう。
そんな話をしながら階段を降りて行くと、いよいよ地下1階に到着した。
「…アンナちゃん、気づいた?」
リニアがアンナの手を握り、質問してくる。
「…うん、何というか、空気が変わったよね」
アンナとリニアをはじめとした班の全員が、
ダンジョンの空気にのまれそうになっている。
「はい! ここからがダンジョンになります!」
アンナたちの異変を察知したフローラが、気を引き締めさせるため
大声を上げて、喝を入れる。
「…は! 危ない危ないもう少しでダンジョンにのまれるところでした」
サラの反応と同時に全員の雰囲気が柔らかくなる。
「フローラさん、ありがとう」
「わたくしも、もう少しで動けなくなるところでしたわ」
……やっぱり、どんな人でも最初はのまれそうになるんだな。
ここに入ってきた新人は、動けなくなるからパーティーもしくは
ベテランと一緒にというのが、ギルドからの通達だったみたいだ。
なるほど、こういうことがあるからなのか~
考えてみれば、ダンジョン内では魔物が殺気をこめて攻撃してくる。
俺は影魔法を使って、影に隠れて移動や攻撃をしてるから気にしなかったな。
今も、アンナたちの後方の陰に隠れて行動中だ。
……なんか俺、アンナたちのストーカーみたいだな。ネコなのに…
ダンジョンの洗礼を受けたアンナたちは、気合を入れなおし前へ進む。
目指すはダンジョン25階層。
先頭は斥候のクレア。
前衛にローリルとサラ、それと冒険者兼護衛のレナ。
真ん中にエリザベスを。
後衛にアンナとリニア、そして冒険者兼護衛のフローラでダンジョンを進む。
洞窟型のダンジョンといえど、その広さは戦闘ができるほどあり
縦4メートルぐらい、横も4メートルぐらいだ。
そこを、緊張しながらアンナたちは進んでいた。
だが、フローラとレナはそんなアンナたちを見ていてすぐに休憩を指示。
「みんな、ここで少し休憩にしましょう」
当然、アンナたちからはまだ疲れていませんよと言われるが
「ダメダメ、みんな緊張しすぎてこのままだと下に降りる前に
疲れて動けなくなるよ?」
「そうね、ここで休憩をとって肩の力を抜きましょう」
休憩がとれるとなって、アンナたちは初めて自分たちが緊張していたことに気づいた。
「…私たち、すごく力が入っていたのね」
「手に汗がすごい…」
アンナたちの反省を見ていたフローラが、声をかける。
「ダンジョンが油断ならないところなのは確かだけど、
ここには私たちもいるんだから、そんなに力を入れなくてもいいのよ。
もう少し、肩の力を抜いて私たちを頼りにしてダンジョンを進みましょう」
「「はい!」」
アンナたちは、リラックスできたようで笑顔を浮かべていた。
こうして、リラックスしたアンナたちに対抗できる敵はなく
地下1階に出てきた『ゴブリン』『ロックハンド』『蝙蝠』は難なく対処していた。
「この階層で厄介なのはいませんわね…」
などとエリザベスが言うほど、地下1階は怖くなくなっていた。
本当はこんな時の油断が怖いのだが、そこは護衛が注意していたから大丈夫だろう。
そして、下への階段を見つけアンナたちは何とか2階へ降りて行く。
…俺は陰に隠れているだけで、出番ないな……
ここまで読んでくれてありがとう。




