第34話 ダンジョン産の魔物
魔術練習場での事件から10日後。
エルフのキュロ君も通常の授業に戻ることができた。
また、俺が学園をウロウロしていたおかげで
腕輪に関する情報をつかむことができた。
まず、キュロ君がつけていた腕輪は
王都の市民街の露店で購入したものということが分かった。
また、露天商もどこかの町で仕入れたもので詳細まではわからなかったそうだ。
だが、どこの物かは分かった。
それは、ダンジョンで見つかった宝物の1つだということだ。
それも、かなり浅い層で見つかったものらしい。
『闇魔法』が使われていることが分かってから、各地のダンジョン町などに
問い合わせてわかったそうだ。
ダンジョン町などでは、ダンジョンからの持ち帰り品は
たとえ価値がなくとも、その地の冒険者ギルドに届け出なければならない。
今回はそのおかげで、ダンジョン産ということが分かった。
ダンジョン産アイテムには、何かしらの力があるそうで今回の腕輪は
魔力を上げるというものだったようだが、仕掛けがしてあり
魔力を使いすぎることで発動、あのように腕が黒く変色したようだ。
もし、あのまま腕輪が外れないと全身が黒く変色し
大変なことになっていたと、先生たちが学園長室で話していた。
『…という話を聞いてきた』
「なるほどね、ダンジョン産のアイテムだったのね…」
俺は今、シャーロットの部屋に来て黒いゴブリンの調査結果を聞きに来た。
そのついでに、魔術練習場事件のことを話していたのだ。
『シャーロットは、黒いゴブリンについて何か分かったのか?』
「ええ、学園の図書館の閲覧制限の部屋に黒いゴブリンについての資料があったわ」
シャーロットは、机にある自分のカバンから何枚かの紙を取り出した。
「まず、あなたの遭遇した黒いゴブリンはダンジョンゴブリンだということね」
『ダンジョンゴブリン? 初めて聞いたな…』
「知らないのは、無理もないわ。
私だって初めて聞いたもの。ダンジョンゴブリンというのは、
ダンジョンにだけ出現する種族でね、全種族色で別れているそうよ」
『…それはわかりやすいな』
「そうね。まず、浅い階層で出現するのが緑のゴブリンと青いゴブリンね。
そして中階層で出現するのが赤いゴブリンや黒いゴブリン。
後、最下層辺りで出るのが一番危ない白いゴブリンだそうよ」
『ということは、俺が遭遇したのはダンジョン中階層の黒いゴブリンか…』
「しかもこの色で別れるゴブリンは、
緑を除いてダンジョン以外で見ることはないそうよ」
「…これは私の想像だけど、あなたの遭遇した黒ゴブリンは
誰かの手でダンジョンで捕まえたかテイムしたものを、放したものではないかしら」
『何のために?』
「それはわからないけど、そうしないとつじつまが合わないわよ。
ダンジョンの魔物は、自分の意志でダンジョンから出ることはないわ」
『でも、ダンジョンを放置すると魔物がダンジョンからあふれてくるとか?』
「確かにあふれるわね、でもそれは魔物の意思じゃなくて
ダンジョンの意思じゃないかしら?
ダンジョン内にあふれる魔物、それによってダンジョン自身が限界を迎える。
これ以上魔物がダンジョン内にいれば、ダンジョン自身がもたないため放出。
これでダンジョン内はスッキリ! ってことかしらね」
『まあ、外にいる者にとっては迷惑この上ないがな…』
「ああそれと、黒ゴブリンのことを調べているうちに面白い情報をつかめたわ」
『面白い情報?』
「そう、実は黒ゴブリンをはじめとしたダンジョン産魔物の目撃例が
冒険者ギルドに寄せられているそうよ。
それも、黒ゴブリンと同じく2体づつ」
『シャーロットは、冒険者ギルドに知り合いがいるのか?』
「ん? どうして?」
『いや、ギルドに寄せられた情報は知り合いでもいないと聞けない情報だろう?』
シャーロットは、ニッと笑うと
「ええ、冒険者ギルドに友達がいるのよ。
フフ、とっても美人なのよ、その人」
『まあ、美人かはともかくその情報を詳しく』
「…目撃され始めたのは、今月の初めごろね。
森の中で赤いゴブリンが見つかってから、あちこちで色違いのゴブリンが
目撃され始めたわ。
さらに、オーク、オーガ、ゴーレム、とダンジョンにしかいない色の魔物が
次々と目撃され、ついにはケガ人が出たらしいわ」
『ケガ人が…』
シャーロットは、俺の呟きに頷く。
「そしてついに冒険者ギルドでは、目撃情報に従って討伐依頼が出されたの。
ところが、目撃情報に変化が出始めたのよ。
始めは、この王都周辺だったのが今ではこの王国全体に広がって
領主軍が出て、ダンジョン産の魔物を討伐する事態になっているわ。
ついこの間、ようやく王国の上層部が重い腰を上げて本気で
事態の収拾を図ったらしいけど、どうなるかは未知数ね…」
『そういえば、魔族王がどうという話はどうだったんだ?』
「ああ、それは間違いだったわ。
ダンジョン産の魔物は、しばしば魔族や魔族王と間違われることがあるそうよ」
『闇魔法もか?』
「ええ、ダンジョンの敵が主に使うのは闇魔法らしいわ。
だから、ダンジョン産の魔物が外に出た時点で間違えられやすいということね」
「でも、ダンジョン産のアイテムに関しては情報が錯綜しているらしいの」
『何かトラブルが?』
「冒険者ギルドの友人の話では、
ギルドを通さないダンジョン産のアイテムが流通しているみたいなの。
ギルド上層部でも、いろいろ問題になっているそうよ。
秘かにその辺りに関して調べ始めているとかいないとか…」
『なんか、あやふやな情報だな~』
「仕方ないでしょ、
いくら友人とはいえギルドの機密を教えてくれるはずもないし…」
『確かに、そうだよな』
「それで、これからどう動いていくの?」
『ん~~、ダンジョン産の魔物と遭遇したら討伐ってだけだな』
「…まあ、私たちにできることって言ったらそんなものよね…」
ここまで読んでくれてありがとう。




