第26話 ネコの戦い
王都、深夜の市場街奴隷商エリア南側。
奴隷商兼使い魔商会『ゴリオロード』を囲むようにネコが現れる。
奴隷商になっている入り口付近には、商人街のネコたちが配置され
使い魔商の入り口には、市民街のネコたちが配置され赤ネコの親子もここだ。
屋根の上からは、市場街のネコたちが突っ込む予定で配置される。
『さて、準備は整ったぞ!』
『いつでも、あの商会に戦いを挑めるわよ』
『市民街の儂らは、救出に全力を尽くすぞ!』
『まとめ役のお三方、鐘の音を合図に飛び込んでください』
『…鐘がなるのか?』
『ええ、俺の魔法で鳴らします。まあ、1回だけですがね』
職人街のまとめ役は、ニヤリと笑うと付き添いのネコに
合図のことを知らせに向かわせた。
さて、このまま突っ込んでも所詮はネコ。犠牲が出る前に魔法で何とかしておくか。
俺は戦闘態勢に入っているネコすべてに魔法をかける。
【物理防御】
【魔法防御】
よし、これで防御はいいだろう。
攻撃力はつけないでおこう、つけたら殺しちゃいそうだからな…
『では、行きますよ!』
【ロックシュート】
俺が唱えた魔法で、コブシ大の石が時の鐘に向けて飛び出す。
そして、戦いは、始まった!
―――ゴ~~ン
『『『突撃!!』』』
まとめ役の合図と、鐘の音の合図がほぼ同時に出されてネコたちは商会に突撃した!
俺は、赤いネコの親子と一緒に突撃する。
たくさんのネコが一斉に商会の中へ突撃してくる光景は、
唯々、唖然とするしかないのか商会の職員たちは呆然としていた。
「な、な、なんだ、このネコは!!」
奴隷商になっている入り口に殺到した職人街のネコたちは、我先にと中へ入り
まず、奥の部屋を目指した。
入り口付近は人がボーと立っているだけだったが、奥の部屋に行くほど
屈強な男たちが襲ってきた。
「おい、このネコどもを何とかしろ!」
「くそ、この、ちょこまかと、待て、おい、そっちに行ったぞ!」
「任せろ!」
男の振り回した大剣が、走っているネコに当る!
が、ネコは吹き飛ばされただけで無傷だった。
大剣を振るった男は、信じられないものでも見るように剣とネコを交互に見る。
「……これは夢か? 俺は大剣を振りぬいたんだが…」
一方、剣をまともに受けて無事だったネコも
自分に何が起きたのか分からない感じで、辺りを警戒してみている。
『おい、無事なら行くぞ!』
『お、おう』
そして、何ごともなかったかのように突撃部隊に復帰する。
「おい! その部屋に入れるな!!」
商人の恰好をした男が、ありったけの声で叫んだ。
ネコたちは、そんなことお構いなしに奴隷商館の中を縦横無尽に駆け抜けていく。
「くそ、くそ! なんなんだこのネコどもは!!」
商人が入れないように言った部屋にネコたちが突撃すると、そこには
裸にされそうな女性が2人いた、しかも立派な服を着た貴族のような男とともに。
「な、何事か! ゴルドール! これはどういうことだ!」
「も、申し訳ございません、ベルキオ様。ネコがいきなり入って来まして…」
商人は、頭をこれでもかと下げて謝っている。
「早く何とかしろ! これからだったというのに!」
「わ、わかりました! おい、このネコたちを殺して捨ててこい!」
商人は、その辺で見えた用心棒の男たちに声を張り上げるが
その用心棒たちはネコたちに邪魔をされて、思うように動けていない。
また、商人も貴族の男もネコの大群に身動きがとれなくなっていた。
「くそ! 今日は何なのだ!!」
また、裸にされそうだった女性2人はネコたちについて行き
商会の外へ脱出、そのまま町の治安を維持している兵舎へ逃げ込んだ。
使い魔を扱っていた商会の入り口からは、市民街のネコたちや赤いネコ親子が
突入していく。
案の定、中に人の気配はなかったが奥へ奥へと進み
捕らえられているネコたちのもとへ駈け込んでいった。
『みんな、大丈夫か!!』
ケージの中に閉じ込められているネコたちは、この声で助けが来たと鳴きだす。
『ここだ、助けてくれ!』
『この鍵を壊せないか?』
『あなた、ここです!』
『助けて、お兄ちゃん!』
いろんなネコの声を聴き分けて、赤いネコの親子は家族の傍に駆け寄る。
『父さん! 魔法でこの檻を壊せないかな?』
『…いや、そんなことをすれば中の家族も傷つく……』
俺はすぐに名乗り出た。
『それは俺に任せろ、鍵が開いたら中のネコを助けて外に逃げろよ!』
『『わかった!』』
【アンロック】
【ディスペル】
俺が魔法を使うと、ケージの鍵が一斉に大きな音とともに床に落ちる。
『今だ、ゲージを開けて皆を救い出せ!』
ネコたちは一斉にケージに飛び掛かり、次々に蓋を開けネコたちを救出する。
『助かった!』
『ありがとう、もうだめかと何度思ったことか…』
『助かった~』
ネコたちが解放に喜んでいる中に、赤いネコたち親子の再開があった。
『あなた…』
『お兄ちゃん、ありがとう!』
『助かったなら、すぐにこの場から脱出だ! 時間がないぞ!!』
『『『おお!』』』
ネコたちが一斉に、外に向かって走り出す。
俺は、ネコたちの邪魔にならない机の上に移動し皆の脱出を見守る。
ぎゅうぎゅうにネコがいた部屋は、どんどんネコがいなくなっていき
5分ほどで、もぬけの殻になった。
俺は、一応一通り見回って救出忘れがないか確認して外へ脱出する。
屋根の上から突撃をした市場街のネコたちは、窓を蹴破って中へ侵入した。
そして、その部屋には多くの奴隷たちが鎖でつながれていた。
「な、なんだ……」
やせ細った奴隷の人族が、侵入してきたネコたちに驚く。
「……ネコか…」
すでに、しゃべる気力もないほどに衰弱しているであろう奴隷もいる。
市場街のネコたちは、ドアを蹴破り廊下に出て他の部屋のドアも蹴破っていく。
なぜかどこのドアも、ネコの蹴りで壊れるほど脆かった。
『すべてのドアを蹴破って中を確認だ!』
その合図とともに、すべてのドアにネコたちは体当たりや蹴りをして壊していく。
『まとめ役、下への階段を見つけました!』
『下の様子はどうなってる?』
下を見たネコは、暴れている職人街のネコたちの様子を知らせる。
『まったく、血の気の多い奴らだねぇ、職人街のネコは…』
『私どもは、どうしますか?』
まとめ役は、悪い笑みで他のネコに答える。
『私らは市場街のネコよ、私らがやることは決まっているでしょ』
『了解です、書類みたいなものをすべて集めてきます!』
『ここに集め終わったら、撤収よ!』
『『『おお!』』』
掛け声とともに、市場街のネコたちはすべての部屋から書類らしきものを集め
そして、撤収していった。
また、職人街のネコたちも物理的な爪痕を残して撤収していった。
こうして、ネコたちの戦いは終わった。
それぞれの街へと戻っていくネコは、
どこかスッキリとしていた表情をしていたそうだ。
勿論、この戦いの後、俺はアンナにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
……アンナの家への帰り道だったことを、すっかり忘れていたぜ。
ここまで読んでくれてありがとう。




