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箱庭の薬術師  作者: ぷにちゃん
第5章 闇に目覚し一輪の花
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28. 扉と未来

 リグ様と会えるようになり、交換日記がなくなる――ということは、なかった。

 もう習慣となってしまっているのに、書かないとなんだか落ち着かないし、リグ様からの返事がないと少し寂しい。


 私はリグ様の領域に移り、レティスリールの家はまろたちが使っている。管理してもらってるという言い方がしっくりくるかもしれないけれど。

 イクルと鈴花さんもまだ住んでいて、目的地を決めたら世界へ旅に出るという。


「今日……家に帰る!?」


 もらった自室で起き、まっさきに交換日記を確認する。

 そしてそこに書かれたのは、今日……日本に行こうねというものだった。



 ――――――――――


 おはよう、ひな。

 よく眠れた?


 ここ数日バタバタしちゃったけど、今日一緒に日本へ行こうね。ひなのご両親に受け入れてもらえるか、ちょっと不安だな……。花ちゃんとはだいぶ仲良くなれたと思うんだけど……。

 朝ごはん食べて、落ち着いたら行こうね。


 リグリス


 ――――――――――


「え、午前中っていうこと……? 心の準備、できるかな」


 一緒に家に行くことはわかっていたけど、いつというのは聞いていない。いきなりすぎると思いながらも、忙しいなか私のために時間を作ってくれたのは嬉しかった。

 でもでも、でも! リグ様が私の家に挨拶にくるっていったいどういう状況だ! 神様だよ、普通は人間の前に姿を見せたりしないと思う……うん。


「特にお父さんが驚きそうだ」


 花はすんなり受け入れるタイプだから、問題ない。すでにもう受け入れてるし、むしろレティスリールに来たいと言うくらいだからね。

 やばい、緊張でお腹が痛くなってくる。大きく深呼吸をして、顔を洗って洋服に着替える。

 朝ごはんは、リグ様と食堂で食べるのが日課。夜はレティスリールの家に行ってみんなで食べたりすることもあって、以前の生活とそこまで大きな変化はない。


 なんだかんだで、とても楽しい毎日を送っている。




 ◇ ◇ ◇



「ひな、僕の格好変じゃないかな? やっぱりスーツの方が良かったかな……」

「そのままで大丈夫ですよ」


 朝食を食べて落ち着いてから、私の部屋――日本、花の部屋に繋がる扉の前へと来た。

 私の部屋からは誰でも扉を開けるけど、日本からは私とリグ様しか扉を開けないらしい。きっと花が扉を開けようとしてるんだろうな……なんて考えると思わず笑ってしまう。


 普段着のリグ様ももちろん好きだけど、今はいつもと違う服装。おそらく、礼服的な意味合いを持つものなのだろう。白を基調にして、金色の刺繍が丁寧にほどこされている。すらりとしたパンツ姿で、長いローブがリグ様を神秘的に見せている。

 どこかそわそわしている姿が新鮮で、変に緊張してしまう。


「…………」


 本当に、こんなすごい人が私と……?

 まだ現実を上手く受け止められそうになくて、ちょっとしたことで心臓がすぐにドキドキしてしまう。ちらっとリグ様を見ると、「どうしたの?」と首を傾げられる。


「緊張してるんです……」

「ひなの家なのに? 久しぶりだからね」

「違います!」


 いや、それも理由のひとつではあるのだけれど。


「リグ様が一緒だから、緊張するんです。リグ様、なんて挨拶するつもりなんですか……?」

「……気になる?」

「とても……」

「内緒」


 私が教えてほしいと乞えば、リグ様はくすりと笑って首を振る。


「ほら、行くよ」

「……はい」


 リグ様が私に手を差し伸べたので、それを取る。満足そうに微笑むリグ様に、ぎゅっと手を握られて恥ずかしくなる。家に着く前からこれじゃあ、最後まで持たない気がするよ……。


 まだ私も開けていない、日本へ続く扉。

 リグ様がそれにそっと触れて、ゆっくりと押し開く。扉の先は、見慣れた花の部屋ではなく、繋ぎの間だ。ここから先の扉が、花の部屋へとつながっている。

 まずは繋ぎの間で大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせよう。そう思っていたのに、リグ様は何の準備もなしに花の部屋へと続く扉をノックしてしまった!


「リグ様心の準備が……っ!」

「ひなが落ち着くのを待ってたら、日が暮れちゃうよ」


 扉の向こうから「はーい」という花の返事がした。


「――っ!」


 花の声、だ。

 聞いた瞬間、どうしようと悩んでいたことが全部頭から吹っ飛んでいった。私は真っ先にドアへと手をかけて、こちらからしか開けられない扉を開いた。


 そしてすぐ、私の視界に入って来たのは――最後に見たときより少しだけ成長した、元気そうに笑う花。


「ひなちゃんっ!!」


 ぱぁっと表情を輝かせて、思わず立ち尽くしてしまった私へ花が抱きついてきた。どうすればいいのかわからなくなって、嬉しくてただただ涙が流れる。


「こういうときは、抱きしめ返してよ! せっかく感動の再会なんだから」

「う、うんっ! 花、久しぶり……!」


 二人で泣きながら笑って、しばらくぎゅっと抱きしめ合った。



「……花が元気そうでよかった。ちゃんと学校に通ってる? ――って、なにそれっ」

「え? えへへぇ」


 今まで花の部屋になかったテレビ、そしてその横には山積みにされたゲーム。

 別にゲームをするのはいいんだけど、さすがに多すぎじゃないかと思う。思わずじとっと花を見ると、「いいじゃん」と開き直る。


「だって、ひなちゃんはリアルゲームしてたみたいな感じだったのに! 私だけ仲間外れなんて寂しいじゃん!!」


 本当は一緒に冒険したかったけど、我慢したんだからね! そう力説されてしまった。確かに花と一緒に冒険をしたら楽しいだろうけど、ついていける気がしないよ。

 最初のうちは楽しいだろうけど、そのうち遅いと怒られる自信がある。


「落ち着いたみたいだな」


 泣きあっていたのに騒ぎ始めた私と花を見て、リグ様がくすりと笑う。そういえば、緊張なんてもう吹っ飛んでしまった。


「ありがとうございます、リグ様。花の顔見たら、なんだかほっとしちゃいました」

「ありがとうございます。また、こうしてひなちゃんと会えるのが嬉しいです」


 改めてお礼を伝え、さて、これからどうしようか。


「……お母さんとお父さん、いるの?」

「うん、いるよ。早く行って、ひなちゃんの顔を見せてあげなくちゃ!」


 絶対に泣いて喜ぶから! そう言いながら早く早くと急かされるけれど、まずなんて言えばいいのか。異世界に行ってました。数年ぶりに帰ってきました! と、言えばいいのだろうか……。

 何してたのって、言われてしまう。


 悩むような私を見て、花がきょとんと首を傾げてこちらを見る。


「ひなちゃん、緊張してるの? 大丈夫、たった数年一人暮らしをしてた娘が実家に帰郷したってだけじゃん!」

「いや、言葉にしたらそうかもしれないけど……」


 花や、ちょっと軽く考えすぎじゃないだろうか。


「何も言わずにいなくなったんだし、帰郷とはわけが違うんじゃないかな……」

「そうかな? まぁ、大丈夫。行こう~! リグリス様、リビングに案内しますねー!」

「ありがとう」


 ここにいても話が進まないというように、花はドアを開けて部屋から出る。そのまま階段を下りてリビングに行き、「お母さん~」と声をあげた。

 この妹、私に容赦ない。


「あら、どうしたの花」

「ひなちゃんが返って来たよ!」


 ぐいっと腕を引っ張られて、私はリビングへと足を踏み入れた。

 見回すと、テレビを見ていたらしいお母さんとお父さんがソファに座っていた。私の姿を見て、大きく目を見開き口をぱくぱくさせているのがわかる。

 二人が顔を見合わせて、「……ひなみ?」と、おそるおそる声をあげた。


「は、はい……」

「本当にひなみなのか……? その、幼くなって……いや、自分の記憶が……?」

「そ、そうね……これだと花と同い年に見えるわね?」


 返事をすると、どうやら私をひなみであるという認識は持ってくれたらしい。そして、最後に見た私との相違に驚いている。

 自分が異世界に行くにあたり、力を得るため若くなったということをここで初めて思い出した。……忙しかったから、すっかり忘れてたよ。

 あははと笑いながら、「年齢はちょっと変わったけど、ひなみだよ」と告げた。


「……ただいま」

「ひなみ……おかえりなさいっ」


 私がそう告げると、二人がぎゅっと私に抱きついてきた。苦しいくらいに強い力が、今は心地いい。私もぎゅっと抱き着いて、またぼろぼろと泣いてしまった。

 もう会えないと思ってたのに、また会うことができた。


「元気にしてた? ひなみ」

「うん、元気だよ。出会う人みんながいい人で、たくさんお世話になったの」

「そうか。よかった、ひなみも花も、二人が元気でいてくれることが一番嬉しい」

「私もいれてようー!」


 お母さんたちと話していると、タックルばりに花も抱きついてきた。


「私だって、ひなちゃんと生きて会えて嬉しいんだからね! ありがとうひなちゃん……私の命を、救ってくれて」


 ひなちゃんがいなかったら、私は死んでたね。

 花がそう言って、泣きながら笑う。「最高のお姉ちゃんだよ」と言うから、私も負けずと「相談に乗ってくれる、最高の妹だね」と返した。


「そう、そうよね……! 花とひなみがこうして元気でいるのも、神様のおかげなのよね」

「そうだったな。花、神様はいらっしゃらないのか?」

「もちろんいるよ、ひなちゃんと一緒に来たから」


 花はそう言って、リビングのドアのところに立っているリグ様へ視線を向ける。私たちの再会を邪魔しないよう、見守ってくれていた。

 というか、お母さんとお父さんがこうもすんなりリグ様を迎え入れてくれているなんて……思ってもみなかったよ。

 以前、リグ様は花と両親にきちんと私のことを話したのだと言ってくれた。それだけでもすごく嬉しかったのに、こうして受け入れてもらえたことはもっと嬉しい。


「こんにちは」


 リグ様がふわりと微笑み、両親に挨拶をする。


「……花を救ってくださって、ひなみも元気そうで……ありがとうございます。安心しました」

「ありがとうございます」


 お父さんがリグ様にお礼を述べて、お母さんもそれにならう。私と花も慌てて頭を下げ、「ありがとうございます」と感謝を伝える。

 するとリグ様は少し困った顔になって、「頭をあげて」と告げた。


「そこまで大それたことはしてないよ。……それにね、今日は改めて挨拶をしに来たんだ」

「あいさつ、ですか……?」

「うん」


 かなり大それたことですリグ様と、私は心の中で突っ込みを入れる。

 そしてリグ様の挨拶と言う言葉を聞いて、ドキリとする。感動の再会、そしてリグ様の挨拶……! まったく気が休まらない展開に、私の心臓は壊れてしまいそうです。


 リグ様がゆっくり私のところまで歩いてきて、優しく手を取る。


「……ひなみさんを、僕にください。二人で過ごす時間が、幸せなんです」

「リグ様……」

「「――っ!」」


 両親にそう告げてから、リグ様が私を見て破顔する。とろけるくらいに甘いその笑みに、私まで思わず息を呑んでしまう。

 そんな笑顔は、反則です……。


 見て見ぬふりをしていた気持ち――好きだと、強制的に自覚させられているみたい。

 頬どころか、耳まで赤くなる。


「お母さん、お父さん。……私も、リグ様と一緒に生きていきたいと思ってるの。だからどうか、リグ様と一緒にいることを許してほしいの」

「ひなみ……」


 私の言葉に、お母さんが驚き声をあげる。

 しかしすぐその表情が柔らかくなって、「幸せそうね」と声に出した。


「ずーっと彼氏も作らないでバイトバイトバイト。花もそうだけど、私はひなみの将来も心配だったのよ。……それなのに、まさか神様をなんて……驚かされることばかりね」

「ま、まてまてひなみ、母さん……それはその、なんだ、こう……」

「お父さん動揺しすぎだよ」


 すんなり受け入れるお母さんと、慌てながら「待ちなさい」と言うお父さん。花が笑いながら突っ込んで、「私は賛成」と笑顔で告げてくれる。


「……でも、神様も結婚するんですね?」

「!」


 ストレートな花の言葉に、思わずびくっと肩が震える。

 好きだと言われて一緒にいることにはなたけれど、結婚という具体的な言葉をリグ様から直接聞いたわけではない。

 そこまでは考えてなくて、ただただ一緒にいようね……というような関係になるという可能性も多いにある。だって、リグ様は神様なんだから。

 平凡な私が結婚相手……というのは、なんというか、やっぱり釣り合いがとれていないように思えてしまうから。


 花の言葉を聞いて、リグ様は「ああ……」と考えるように声をあげる。


「僕たち神に、結婚っていう概念はないんだ。これは人間が定めた約束のようなものだからね」

「あ、なるほど……」


 リグ様の言葉に、花が納得したように頷く。


「でも、地球で例えるのであれば確かに僕とひなの関係を表す言葉は結婚になるね」

「リグ様……」

「ねぇひな、僕と〝夫婦〟になってくれる?」

「――っ!」


 繋いでた手の甲にちゅっと口づけられて、リグ様の熱い瞳がまっすぐ私を見つめてくる。

 まさかこんなところで公開プロポーズをされるとは思っていなくて、ぶわっと体が熱くなる。「ひゅぅ」という花の声とか、わなわな震えているお父さんとか、何を考えたらいいのかわからなくなってしまう。


 ――返事を、しなきゃ。

 ぎゅっとリグ様の手を握り返して、優しく微笑むその瞳を見る。


「よ、よろしくお願いします……!」

「うん。よろしくね、ひな」


「わーおめでとう、ひなちゃん、リグリス様!」


 花が盛大に喜び、お母さんと一緒にきゃっきゃはしゃぐ。

 私はもう今のでいっぱいいっぱいで、熱くなった顔を両手で抑えるしかない。


「おめでとう、ひなみ。ほら、お父さんも拗ねてないで」

「ぐ……ああ。神様、ひなみをよろしくお願いします。ただ、いくら神様とはいえひなみを不幸にするようなことがあれば、許しませんから」

「ありがとう、二人とも。扉は繋げてあるから、これからはこちらにもすぐ来られるよ」


 リグ様の言葉を聞き、お父さんがぱっと表情を輝かせた。


「そうなのか、もう一生会えないかと……」

「お父さん……」


 その言葉を聞き、お父さんが強い決意をしてくれていたんだということがわかる。

 もう私と会えなくても、それでも私の幸せを思ってリグ様の下へ送りだそうとしてくれたんだ。その気持ちに、じんわりと目頭が熱くなる。


「ありがとう、お父さん。私、とっても幸せだよ」


 ぎゅっと抱き着いて、「親孝行だってちゃんとするから」と笑って見せる。

 さすがに驚かせてしまうから、今すぐ不老不死になりました! とは言わないけれど。これからゆっくり、私がレティスリールで経験した話も聞いてほしいな。

 そんな風に思うと、これからの生活がとても楽しみで仕方がなくなった。


「そうだ! どうせならみんなで写真撮ろうよ! この日をずーっと楽しみにしてたんだぁ」


 花が私たちを集めて、スマホを長い棒にセットする。


「……花、それなに?」

「ん? 自撮り棒! これで写真が撮れるんだよ」


 カメラを内側設定にして、オッケ~とゆるい花の声。

 スマホの画面に皆が収まってるのを確認してから、カウントダウン。


「じゃあ撮るよ、はいチーズ! ぱしゃ!」

「!」


 チーズの瞬間に、花が私をぐいっと引き寄せた。思わずバランスを崩してしまいそうになったけれど、横にいたリグ様が笑いながら私たちを支えてくれる。


「ありがとうございます、リグ様。花ってば、危ないよいきなり!」

「ひなちゃんこそ、異世界で冒険してたとは思えない身のこなしだよ……!」

「そ、それ関係ないし……私は戦闘職じゃないし……」


 基本後方で慌てている係だったとは、さすがに言わないけれど。


「花、プリントアウトしたらちょうだいね」

「もちろん。二人の新居に飾ってね!」

「……! う、うん」


 新居と言われ、思わず動揺する。

 こう、住まわせてもらっている感が大きくて。でも、結婚したとなると……そうだよね、あそこが正真正銘私の家になるんだよね。


「可愛い写真たても送るからね」

「ありがと」


 また遊びにくる約束をして、私はリグ様と一緒に家へと帰った。




 ◇ ◇ ◇



「ああ、緊張した……」

「え」

「何、ひな」


 私たちの〝家〟に帰り、リグ様がふうと息をついた。

 緊張しているようにはまったく見えなかったから、純粋に驚いてしまった。すると、リグ様が少し拗ねたように私を見る。


「僕だって、緊張くらいするよ。ひなに関してはね」


 それって、私以外であれば緊張しないということでしょうか? そんなことを考えてしまって、なら緊張するリグ様を知れるのは私だけの特権だろうか……なんて。


「リグ様」

「うん?」

「その、ありがとうございます。いろいろと。実家にも扉をつなげてもらって、また家族にも会えて」


 それにそれに――リグ様に選んでもらえたというか、プロポーズしてもらえたことが嬉しかった。まっかになりながらもそう伝えると、「うん」と嬉しそうな声。


「でも、僕はひなの弱みに付け込むようにしたのに」

「よわみ?」

「花を助ける代わりに僕のものになれ、なんて。酷い交換条件だとは思わなかったの?」


 もっと僕に対して怒ってもいいのに。そうリグ様は言うけれど、私からしてみれば怒るなんてとんでもない。むしろ私一人の身で花を救ってくれた恩人ともいえる。

 ――それに、その後の扱いだって丁寧だったのに。

 十分すぎる支援に、たくさん甘やかしてもらった自覚はある。


 これが、神様の基準なんだろうか。

 人間からしたらささいなこと、神様からしたらささいなこと。その価値がひっくり返っているように思えて、思わず私は噴き出して笑ってしまった。


「ちょ、ひな?」

「リグ様は考えすぎです。酷いなんて、思わなかったですしこれから先も思いません。だからずっと一緒に、いてください」

「……うん」


 私の言葉に頷いたリグ様は、「じゃあ……」続ける。


「今後は様付けて呼ぶの、禁止ね」

「うぇっ!?」


 なんだか生活のハードルが上がりました!!

 私がぶんぶん高速で「無理です」と首を振ると、リグ様はそれをすぐに却下する。そのまま抱きしめられて、「夫婦になったんだよ?」と正論を叩きつけられる。

 確かに夫婦で様はおかしいかもしれないけれど……!


「……ぜんしょします」

「期待してる」


 まだまだ時間はたっぷりあるから、二人のペースでゆっくりやっていこうねと笑いあう。


「交換日記も、続けたいです。いいですか?」

「もちろん、いいよ。直接言いにくいことを書いてくれてもいいしね」

「ありがとうございます」


 ちょっとしたこととか、日ごろの感謝とか、そういったものを文字で伝えるというのはやはりいいものだと……思う。

 ――それに。

 リグ様の綺麗な字が好きなので、見るだけでも嬉しい。


 あ。


「そういえば、このポイント交換のアイテムとかは……?」

「ああ、それ? 別にほしいものがあれば、そこにありなし関係なく言ってくれればいいよ。全部用意するから」

「え」


 さすがは神様と思うべきなのか、申し訳なく思うべきなのか。

 とはいえ、このポイント交換にはずいぶん助けてもらった。


「……私が貯めてたポイントって、何かに使えるものだったんですか?」

「…………」


 ふと、思った疑問を素直に口にしてしまった。

 にこりと笑ったリグ様が、まるでその話題を避けるように「お茶でも入れようか」と立ち会がった。


「え、リグ様……?」

「しー、だよ。ひな」

「……っ!」


 綺麗に笑ったその瞳が、それ以上は駄目だと私に告げる。

 キッチンへ行くためリグ様が部屋を後にするのを見ながら、私は知ってしまった――気付いてしまった事実に赤面する。


 だってつまりは、私のために必要ないポイント制度を作ってくれていたってことでしょ?


「……うぅ、大好きです」


 小さな声で呟いて、私もリグ様の後を追ってキッチンへと向かった。

 これから毎日、ずっと一緒にお茶を飲むために。

これにて完結です!

長い間お付き合いいただきまして、ありがとうございます。



また、現代恋愛&薬術師系の新連載を始めました。

こちらもよろしくお願いします~!


『過去の君が未来の私を好きにならない方法、その結果』

自分の余命をしった女の子が、タイムリープをして彼氏と付き合わない未来を作ろうとするお話です。

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