第九十七話 アクセサリーです
フレアのワンピースに決まりまして、現在アクセサリー選びの途中です。
魂がぬけかけそうです。
さっきのドレスは何の為に着たんですかと尋ねましたら、着せたかったからとのお答え。
何ですか、そこに山があるからみたいな答えは!
確かに洋服の山はありますけどね!
全部が決まったのはディナーの十分前でした。
色々アクセサリーをあてて見ていたのに、最後に付けられたネックレスはずいぶんと可愛らしいものでした。ハートに羽根が生えています。
「可愛いですね」
「そうでしょ? これはねぇ……はや」
その時、バタンと大きな音がして速水君が血相を変えて入ってきました。
「速水君?」
「ゆ、湯江っ!」
「あらあら、ノックもなしで入ってくるなんて」
「勝手に持って行ったのは誰だ」
「ふふふ、だってあのままだと渡せずに持って帰ってたでしょう?」
「うぐっ」
バトラーさんは先に聞いていたのか、ドアの横に黙って立っていました。
「陽向さん、そのネックレスは速水君からのプレゼントよ」
「えっ?」
「忙しい陽向さんのために、首の後ろに来る金具が磁石になっていて、くっついたあとちょっと捻れば留まるようになってるの」
そのネックレスに合わせたかのようなブレスレットも付けられました。
「こっちは私たちからのプレゼント」
「どうして……」
「どうしてって昨日お誕生日だったでしょう? 当日にしようか悩んだのだけれど、やはりご家族と過ごす方が良いかしらと思って。何しろ八日間も船旅でいませんし」
誰のせいですか誰の!
シャランと音を立ててブレスレットがサラリと肌に触ります。
「湯江……何でそれ同じ色なんだ」
速水君がいう“それ”とは多分ブレスレットの事でしょう。金属の合間に等間隔に石がついているのですが一番大きな石がネックレスのハートと同じ色なのです。
「え? それはもちろん」
「み、見てたのか?」
「いいえ。さすがにそこまではしません。妹さん情報です」
「明里のやつ!」
速水君は踵を返して出て行こうとしましたので、慌てて引き留めました。
シャツの後ろを引っ張ると驚いたようにこちらを振り返ります。
「水崎?」
「あの、速水君。ありがとう」
「えっ、あ、う、うん」
以前一度だけハートに羽根が生えたモチーフが好きなんですと言ったことがありました。それを覚えてくれていたんですね。
「去年は誕生日知らなかったし……」
「夏休み中なので」
皆さん色々用事がありますから。
「陽向さんが祝ってくれるのに、こちらが祝わえないなんてズルいわよ」
「ずるいって……」
「皆、陽向さんの笑顔見たいんだから。その機会を取られるのは友人して悲しいわ。そのアクセサリー、速水君ったら、奮発してほぅ……」
奈津子さんの後半の言葉は速水君の手で封じられました。モガモガ言ってます。
久保さん、そこは奈津子さんを助けるべきでは? にこにこ見てますけど。
「皆、ありがとう」
奈津子さんが口を手で塞がれたまま、ウィンクをしてサムズアップしてます。
速水君、そろそろ離してあげてはどうですか?
ディナーの時間ぎりぎりに行くと、パーティの用意がされていました。
私の誕生日パーティだと言われて、ケーキの大きさに目を丸くしたりしました。
それ、ウェディングケーキでは?
女子全員で、特注で作ったものです^^;
陽向は知りませんが、めちゃ高い石使ってます……!




