第九十二話 知らされる事実です
ここで三択です。
一、声を荒げて言い返す。
二、冷静に話す。
三、無視する。
答え、二です。
まぁ、何言ってるんだろうこの人という感じではありますので、声を荒げて言い返す事はしませんし、無視すると逆に怖いのでやはりここは二でしょう。
「どうやっても何も、同じ学年で同じクラスですから」
そうお答えしますと、舌打ちが返ってきました。
「奈津子さんと待ち合わせしておりますので、失礼します」
隣を通り過ぎようとしましたら、腕を掴まれそうになりました。
何だか最近こういうこと多すぎやしませんか。
ともかくそれを回避しまして。
振り返ると目を丸くされていました。
それはそうですよね。捕まえられると思っていたのに空ぶったのですから。
「掴まえてどうされます?」
ため息交じりに聞いてみますと、カッとなったのでしょう顔が赤くなりました。
「少なくとも、私は湯江新三郎さんに招待されてここにいますよ?」
先ほど会話していたところに乾さんもいたのだから、わかっているでしょうに。
「はっ! これだから思慮の浅いやつは嫌いなんだ」
んんっ? 思慮の浅いやつって私の事ですか?
葛西さんの顔を見ますと、完全に私を馬鹿にしている顔です。
ふむ、馬鹿にする理由をお聞きしましょうか。
「どういう意味でしょうか」
「ふん、今回の招待は名目上会長の名前にはなっている。だが、実際の招待者は奈津子様だ」
「はぁ、何となくわかってましたけど」
お土産のお礼で、こんな事までするとは思えませんもの。
何か理由があるんだろうなとは思っていました。
「最後まで黙って聞け」
高圧的ですね。面倒くさくなってきました。
「何で奈津子様がこんなことをしていると思う?」
さあ? 聞かされていないので知りません。
「全部お前の為だ。ストーカー対策のためだよ。どうせ思わせぶりな態度でも取ったんだろう?」
ははぁ……完全、勘違い野郎ですね。
ストーカーがいると知ると、世の中にはこう言う人がいるんですよ。
それじゃあ、ぜひとも思わせぶりじゃない態度というのをご教授願いましょうか。
ここは怒っても良いところのようですし、ボルテージ上げて参ります。
そう思って一歩前へ出た時でした。
「この大馬鹿ものがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
スパーンと乾さんの顔面に靴が命中していました。
靴が飛んできた方を見ると、奈津子さんが真っ赤な顔をして怒っています。
「奈津子さん!?」
片方の靴を履いていないので、ご自分の靴を投げたのでしょう。
クリティカルヒットしてますよ奈津子さん。
もしかして久保さん直伝とか言いませんよね?
葛西さんに近づいて靴を回収した奈津子さんは、唖然としている葛西さんを前に手を腰に当てて叫びました。
「正座!」
「っ!」
その場に即座に正座をした葛西さん。
素晴らしい反射神経ですが、もしかして日常的にやってます?
「訂正箇所があるので、言っておくわ。まず、ストーカーは正確には陽向さんのじゃなくて陽向さんのお父様のよ。それから陽向さんのお父様は思わせぶりな態度を取ってはいません」
「じゃ、じゃあ何故、あの小娘を!」
「発言は許していません!」
「っ……」
「今すぐ部屋に戻って許可があるまで出てこないようにして」
葛西さんは何かを言いかけた後、ショボンと項垂れて歩いて行ってしまいました。
「奈津子さん」
「ごめんなさいね、陽向さん。でも、今回の事で決心がついたわ。お祖父さまに言って婚約のお話なかったことにしてもらいます」
「……はい? 葛西さん、奈津子さんの婚約者候補だったの!?」
「その説明は後、今からお祖父さまのところへ行くわよ」
手を繋がれたかと思うと、お祖父さまがいる部屋へと一緒に向かうことになってしまいました。
その部屋はグランドスイート。
えーと。ロイヤルはグランドスイートのランク一つ上の部屋です。
私、会長さんより上の部屋に泊まるようです。
いやいやいやいや、ダメでしょう!
お部屋交換してもらわないと!




