第九十三話 ひとりのんびりしてます
「と、いう訳なのですお祖父さま。ですから……」
奈津子さんが説明している間、私はただ黙って後ろに立っていました。
ソファにどうぞとは勧められましたものの、奈津子さんが立ったままヒートアップ中です。
久保さんがトレーに冷たい飲み物を載せて持ってきてくれましたので、それを飲んでいますけど。何か発言した方が良いのでしょうか。
「やれやれ葛西にも困ったものだ。早とちりも良いところだね、まったく」
「早とちりどころじゃありませんわ! わたくし許しませんから」
仕事に関しては優秀なのだそうですけど、偏見ありのまなざしでしたよね。それに奈津子さんの人を見る目を信じていないってことです。
まぁ、私が友人として相応しいかと尋ねられると、はりきって「はい」とは言えないですけどね。
それにしても、奈津子さん。普段は“わたくし”って言うんですねえ。
「計画が全部、あの男のせいで無駄になってしまったではないですか!」
「奈津子、そんなにカリカリしないで」
「よりにもよって、今日連れてくる秘書をあの男にしなくても良かったでしょう!?」
何人か秘書さんがいるんですね。
秘書というと何となく女性をイメージしがちですけど、男性もいますよね、もちろん。
葛西さんが婚約者候補だったようなので、他にも候補がいるってことでしょう。秘書さんの中にもいるのでしょうか。ちょっと並べて見てみたいと思ってしまうのはいけませんかねえ。
「おかわりをお持ちいたしましょうか?」
久保さんが湯江家の二人の会話を邪魔しないよう小声で尋ねてきました。
「いえ、もう大丈夫です。それより、座るタイミングを逃してしまったんですけど。座っても良いでしょうか。少々疲れていまして」
「あぁ、それでしたら……」
二人でこそこそ話していたのが耳に入ったのでしょう、奈津子さんが急に振り向きました。
カッと見開いていて、怖いですよ奈津子さん。
「ごめんなさい、陽向さん。わたくしも座りますから、こちらへ座って、ね?」
腕を引かれて湯江信三郎さんの真ん前に座ることになってしまいました。
久保さんが、私が疲れていると言ったので甘いものでもとクッキーと甘いアイスティーを出してくれまして。二人の会話に相変わらず参加出来ずに、モグモグゴクゴク。完食しました。あ、別にたくさんのクッキーを一人で食べちゃったわけじゃないですよ? 久保さんはきちんと少量をお皿に分けてくださっていましたからね。
疲れた体に甘味は染み渡ります。つい、まったりとしていました。
「陽向さんも、言いたいことあるでしょう!?」
急にこちらにお鉢が回って参りまして。
「えっ、ええと……」
奈津子さんが怒ってくれましたので、自分の怒りは何処かへ行ってしまいましたし。
冷静というよりのんびりとしてしまっていました。お茶の威力侮り難し!
いえいえ、そうではなくて。
今、私が言うことは。何かありましたっけ。
あ、そうです。大事なことがありました。
「あの、お部屋交換していただいてもよろしいですか?」
「「いま、そこ!?」」
祖父と孫の声がハモりました。
後ろで久保さんが吹き出す音が聞こえましたけど。
あれ? 私、間違ったこと言いました?




