臆病神に出会いました
「あぁ~つまねぇ」
廃工場にて、死屍累々《ししるいるい》と積み上げ
られた人の山のてっぺんで俺は嘆息しながら呟く。そ
してその場にしゃがみこみ、ポケットから一本のタバ
コとライターを取り出し一服する。これが俺の日常で
あって、これが俺の輝かしい青春だ。
俺の名前は夜舞姓17歳。高校2年
生。職業は不良をやってます。これでも地元では“銀
髪の鬼神”と恐れられるほど有名な不良で、おそらく
地元じゃ俺に喧嘩で右に出るやつはいないだろう。ま
さに天上天下唯我独尊《てんじょうてんげゆいがどく
そん》状態だったんです俺。でも俺は出会ってしまっ
たんですあいつに。あの臆病神に・・・。
「君喧嘩強いんだね」
突然どこからともなく誰かの声が聞こえてきた。俺
はその声が聞こえてきた方向を向く。するとそこには
一人の少女が立っていた。髪は漆黒色をしていて、薄
暗い廃工場の中ではその髪の色を確認するのに少々手
間どるほどの濃い黒色をしている。そしてそれは、腰
のあたりまで伸びていて、目は大きく、瞳の色は鮮や
かな蒼色。そして俺が通っている学校の制服をきてい
た。
「誰だよお前?」
俺はドスの効いた声で半ば脅すような感じでその少
女に問いかけた。
「別に名乗る程のものではない。ただの通りすがりの
臆病神。左月右意だ」
「思いっきり名乗ってんじゃねぇか」
「あっ・・・しまった」
自らの名前を左月右意と名のったその美少女は、や
ってしまったというようなハッとした表情を浮かべ、自分の口元に手を当てた。
「お前、天然だろ?」
「うっ・・うるさい。私の名前を知ったなら次はお前
が名のる番だろ夜舞姓」
少女は顔を赤らめながら言った。
「なんで俺の名前を知ってるんだよ?」
「あっ・・」
また少女は自らの発言にハッとした表情を浮かべて
口元に手をもっていく。しばしの間があく。そしてそ
の少女は何事も無かったかのように話し始めた。
「そこらへんは気にするな今の世の中そんな情報など
たやすく手に入る。そんなことより本題に入るとし
よう。一つ問う君は今の現状に満足しているか?」
「そんなのしてるわけないだろ。どいつもこいつも弱
すぎてもう喧嘩に飽きてきてんだ」
「そうか。ならお前にハンデを背負わせてやろう」
「ハンデ?」
「そうハンデだ。君は少し強すぎるみたいだからね」
「でっそのハンデとやらを背負えば俺の現状は満たさ
れるのか?」
「あぁ極上の喧嘩LIFEがおくれることを約束しよう。
まぁ喧嘩が・・・の話だがな」
少女は不敵な笑みを浮かべニヤリと笑いながら言っ
た。最後の方は聞こえずらくて聞き取れなかったが、
とにかくこの少女は俺の退屈な日常を満足させてくれ
るらしい。
「ならそのハンデ俺に背負わせろ」
少女の言葉が俺の好奇心をくすぐり俺はハンデを背
負うことを決意した。それが後々自分を苦しめること
になろうとは知らずに・・・
「うむ。ではこの契約書にサインしろ」
といって少女は持っていた鞄から契約書らしき紙を
一枚取り出して俺に差し出してきた。それを受け取っ
てその紙を見てみると、そこにはびっしりと見たこと
もないような文字が並んでいて、いかにも契約書って
感じの契約書だった。
「何でサインすればいいんだ?」
「血だ」
「えっ?」
さらっと少女は恐ろしいことを言い放った。血文字
って・・・。俺は顔を引きずらせる。
「そんな顔をするな。別にお前が自分の血でサインを
するのが嫌なら私を殴って私から出た血でサインを
すればいいだけのことだ」
「もっと嫌だよ」
いくら俺が不良だからといってもさすがに一般人に
は手を出さない。ましてや女の子に手を出すなんても
ってのほか論外だ。俺が手を出すのはあくまで喧嘩を
売ってきた不良のみだ。一応、俺が通っている咲夜高
校で、俺はみんなから頼れる不良として通っているの
だ。だから結局俺は自分の親指の腹の部分をかるく噛
んで無理矢理血を出す。そして親指を契約書に押し当
てた。
「これでいいか?」
「うむ。ではころより契約の儀式を行う」




