第1話 ゾンビの世界の後始末
初めまして、ミルヒコと申します。
本日、初めて作品を投稿してみました。
よろしければ、最後まで読んでいただけたら嬉しいです!
戦況は誰がどう見ても地獄だった。
「もう無理だよーー!ゾンビが!ゾンビがぁー!!」
「疲れたーーーー!!」
四十度近い砂の僻地を、かれこれ二十分も走り続けている。
「セラさん!!あとどのくらいで着きそう?!」
不恰好なゴーグルを首に吊り下げて、斥候役のクレハは叫んだ。
「あと2キロ!あと2キロです!皆さん、まだ諦めないでください!!」
大きなバッグを背負って全力疾走。振り返る余裕なんて、誰にもない。
僕――セラは額に黒髪を張り付けたまま、ただ声を張り上げた。
そう、『残り2キロを全力で走れ』と。
(いや無理だよなぁ......)
この世界は、今回ばかりは本当に駄目かもしれない。
それでも僕たちは走っている。
仲間と見つけた〝装置〟に向けて。
残り――2キロ。
あの塔の頂点にあるそれを起動できれば、この地獄は終わる。
幾重にも重なる足音が、砂を巻き上げて迫ってくる。
「あーーーーー畜生!!おいセラ!!アマチだよアマチ!!
あいつでまた、なんかできねぇのかよ!!」
「いや無理そうです!ホントにごめんなさい!
もうアマチだって、昨日ので全部の力を使いきっちゃったんです!」
いつのまにか隣にいる妖精、また、相棒のアマチ。彼女も酷く消耗しきっている。
「そうよ、無理無理!もう妖素のほとんどを使いきっちゃって、飛んでるので精一杯!」
頭上―アマチの頭に生えた電球が、薄く明滅を繰り返している。
でも、
「そこをなんとか!お願い!
なんでもするからっ!!」
もう、彼女に縋るしかなかった。
「うーーーん、もう!!分かったわよ!その代わり〝絶対に〟決めなさいよ、セラ!!あと誰か私を持って走りなさい!!」
アマチは押しに弱かった。
「いい?今から私の力の全部を使ってあなたの腕にブーストかけるから!」
よかった。腕にものすごい強化を施してくれるらしい...。
「ん?ちょっと待って!それでどうすればいいの?」
「そーんなの知らないわよ!暑くてなんも考えれないんだから、あんたが考えなさい!ほら、行くよ!!」
使い道の分からない、筋力ブーストの妖法を彼女は唱え始めた。
.........どうしよう。
「ごにょごにょごにょ、フィジックブースト!!
ラントゥー、ライトアーム!!」
彼女の手は煌びやかに光り、僕の腕と呼応する。
右腕の筋肉は独自に鼓動を始め、みるみるうちに太く、大きくなっていく。
「え?キモ」
仲間の一人が僕の腕を一瞥した。......ひどい。
でもそんなのはどうでもいい。
正直、腕が太くなったところで何ができるのかは、まったく分からなかったが、行動を起こすしかない。
果てたアマチを見ながら、僕は覚悟を決める。
―――――誰を犠牲にするか。
「ごめん!!ノーキン君!!」
「え?!おで?」
どデカい右腕で、力自慢のノーキンの、分厚い胸板を掴む。
ノーキンが装置を発動してくれる、そう信じて思い切り塔に向かって投げる。
ビュン!!
......。
.......................。
嫌な汗が背中を伝った。
ノーキンは服だけを残して、視界から消えていた。
ドガーーーーーン!!
一瞬遅れて、塔の方角から衝撃音が響いた。
「どうだ?いけたか?」
.........僕は、答えられなかった。
ただ――
ノーキンを、全力で塔に打ち付けただけだった。
「ひゃっ!」
視野の端で、いるはずの影が消えた。
(え?)
砂煙の中で、誰かが崩れ落ちる。
「まっ......て…!」
―――クレハ。
振り返った先で、彼女は砂に沈むように倒れていた。
足が、不自然に腫れている。
……立てない。
そのすぐ後ろで、砂が跳ねた。
もう、来ている。
助けに戻れば――間に合わない。
だとしても見捨てられなかった。
いや、ここで死なせたら僕がこの世界に来た意味がなくなる気がした。
気づけば足は彼女の元へ急ぐ。
右腕でゾンビを投げ払い、左手を差し伸べる。
「ゴホッ!!ありがどう!」
彼女の顔には砂が張り付き、ぐちゃぐちゃだった。
(......まずい)
そう思う暇もなく、
腕は赤白く発光し始め、次第にその大きさを保てなくなっていく。
「あぁ………、そんな」
アマチは倒れた。
ノーキンは、遥か彼方へ吹っ飛んでいった。
そして、腕の力もなくなろうとしている。
万事休す―――。
すぐに、ゾンビの腐った腕が押し寄せる。
震える彼女の手を握りながら、僕は歯を食いしばった。
―――――――ドンッ!!
「まだだ!!まだ諦めるな!!」
横から銃声が弾けた。
「お前もさっき、そう言ってただろ!」
でも勢いは止まらない、ゾンビは無尽蔵に供給されていく。
「ここが最後の正念場だ!!
ここで弾薬をすべて使いきるぞ!」
血が飛び散る。
弾丸が次々に打ち込まれ、銃声だけが途切れることなく響いていた。
いつの間にかゾンビたちは、僕らを四方八方から攻め立て、退路すらも断っている。
―――カチャン、カチャンッ。
弾切れの音...。一周回って笑えて来てしまう。
「...弾切れですか。」
「いえ!違いますよセラさん!!あれ!」
つられて顔を上げる。
塔の頂――
巨大装置の先端から、青白い光が溢れていた。
柳の枝のように垂れ下がるそれは、どこか現実離れした美しさで。
よかった...。
装置の隣で、ノーキンのガッツポーズが小さく見える。
光に触れたゾンビたちは、形を失い、静かに溶けていく。
この世界も救われた―――――。
「やったよアマチ!!」
僕は掌の上に眠る彼女にそう伝える。
「うぅ......、よかった。...よかった」
「もう!いつまで泣いてんのさ!!」
白い光が解けると、二年二ヵ月ぶりの部屋が広がる。
「ほーら!ただいま!!」
「......?」
「!?」
「あーーーーーー!?ただいまーーー!!」
声を響かせ、飛びついてきたのは――言わば元凶。
優しい言葉で言い表すなら、不器用な創造神。
名を、アンドロメダ。
「ねぇ、大丈夫だった?ゾンビ怖かったよねー?
でも最後のシーンは感動したなーー!!
しかもセラ君、めっちゃかっこよかったじゃーん!」
金色の髪を横に揺らしながら、女神は肘で軽く小突いてくる。
「あ、ありがとうございます…」
苦笑いをして、半歩だけ後ろに下がった。
「アマチもかっこよかったよーー!
妖素を使い果たしたときなんて痺れたなー!」
女神はわざとらしく淡紫色の目を輝かせている。
「へっへーん!
……...って、ちっがーーーーう!
何なのよあの世界は!めちゃくちゃすぎじゃない!!」
(よく言った!)
「そうです!今回ばかりは本当に死ぬかと思ったし、
どうしてあんな人間を危険にさらすような世界を創ったんですか!」
女神様の役目は1つ。
『人間が存続できる完璧な世界を創る』こと、
らしい。
(真逆じゃねぇか!)
「今までの3つの世界に比べて、今回のは特に酷かったですよ!」
「だって世界創んのって難しいんだもーーん!
でもちゃんと少しずつ改善してるからぁー、そこは安心して!ね?」
聞き飽きた言葉に、溜め息を吐いた。
「って!違う違う!!ちょっとこっち来て!」
白く、無機質な部屋の壁際には、台座がいくつも並んでいる。
その上に浮かぶのは、地球儀のような球体―――すなわち、完成された世界。
「うわっ!!見たことない世界が二つもあるーーー!!」
「そそ。そしてぇ、こっちの世界が特にやばいんだよねー」
女神は軽く言って、指先でその一つを弾いた。
球体の表面に、淡く数字が浮かび上がる。
『人類存続率 38%』
「てことはまた、ですか…?」
女神はにこっと笑った。
紹介された小型の世界を見たとき、僕たちは口を押えた。
空は薄黒くどよみ、得体のしれない鳴き声が、どこからともなく轟いている。
そのおぞましい外観と響音に、気が滅入る。
「できるだけ早く解決してくれたら嬉しいけど…。まあ無理よね」
・・・・・・
「どうやったらこんな世界で人間が生き残れると思ってるのよ!!」
「いやいやいけるって!多分、多分だけど……」
汗の滲む手を振って、必死に弁明している。
「ちなみに。何が原因で、ここまで追い込まれてるんですか?」
一拍の沈黙のあと、女神はあっさりと口にした。
『悪魔ね』
第1話、ここまで読んでくださりありがとうございました!
続いて、第2話のシナリオも制作中です。
不定期更新とはなりますが、月に1話を目安に投稿していく予定です。
ちょっとした隙間時間に、また読んでいただけたらとても嬉しいです!




