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九尾の孫 番外編【策】  作者: 猫屋大吉
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護符

陰陽師の作った符の力、それは憎悪から生まれた呪いの力。

若林が亡くなり、十日程が過ぎた。

相馬家は、一応の落ち着きを取り戻した。

聡も優子も今は、大学に会社に其々が出勤し、平穏な日々が戻っている様に思える。

家に帰る度に若林の事を思い出してしまうので2人共、家に居たくなかったと言うのが正直な彼らの心情なのだろう。

あの日、優子は病院から帰る時にバイクに乗る気力も無く、購入店に電話して病院から家まで車載車で運んで貰い、久しぶりに父の運転する車に乗って帰った。

父の車の助手席には優子は乗らない。

家族だけで乗る時、其処は、亡き母の席だと今も思っている。

父がこの車を手放さないのは、母との思い出がいっぱい詰まっているとそう考えている。

聡は優子のそんな気持ちを有り難く思い、助手席を勧めようとは決してしない。実際、聡が一人で乗る時も鞄や書類の手荷物は、後ろのシートに置き、助手席には決して物は置かないし、運転している時には、助手席に話掛ける様にしゃべっている事さえあった。この時代に笑われるかもわからないが聡は今でも妻を愛している。再婚は尽く全て断ってきたし、余程の事が無い限り呑みにも行かない。

元々、研究以外に殆ど興味を持たない聡であったが、妻が死んでからは益々拍車が掛った様になるが、其れを引き留めたのが、優子の存在に在った。妻の面影を残しながら育った優子は、聡が最も愛しい娘である。

「ただいまー」聡が家の扉に入って言い、玄関に揃えてある2足の革靴に目が行く。

(客かな)呟きながら靴を脱ぎ、玄関に上がった所で

「お帰りー、お父さん、お客さんが来てるよー」リビングの方から優子の声がする。

(誰だろう、うちの学生か、助手かな)と思いながらリビングに入ると

「お邪魔してます。相馬さん」樋口が珍しくスーツを着ていた。その横に真宮寺が小さくなって座っている。

聡がソファーに座ると、優子が

「御飯、もう直ぐ用意出来るからね、樋口さんも真宮寺さんも御飯まだなんだって、久しぶりに大勢で食べれるよ」嬉しそうに言い、

「真宮寺さんの事、樋口さんが言ってたけど・・・カッパさん何だって、お父さんは知ってるって言ってたけど、本当?」と聞く。

「あぁ、もう聞いたのか。そうだよ、河童さんだよ」聡が言う。

「御嬢さん酷いんですよ。樋口さんが河童って言ったら俺の頭をコンコン叩いて、何だ普通じゃんって言って髪の毛は避けるわで大変な目に逢ったんですよ」真宮寺が泣きそうに成りながら言う。

その表情を見て思わず、樋口も聡も大笑いし、聡が、咳き込みながら

「優子、お前、それ」と言い、笑いながら

「良いなその触診」と笑う。樋口も触診って言いながらクスクス笑う。

「用意出来ました。今日は、ミンチカツとエビフライ、其れにポテトサラダと生ハムにわかめスープ、さぁ、こっちで皆で食べよう」優子が笑いながら言った。

食卓に着く真宮寺に優子が

「カッパさんって日頃、何食べてるの? やっぱり話に聞く[あれ]かな?」

「[あれ]ってなんだい?」聡が聞くと

「え、言って言いの?・・・うーんとね、金玉」優子が言うと

樋口が横を向いて思いっきり吹き出し、真宮寺と聡は、唖然としている。

聡が、「女性がそんな事言って、ほんとにお前は」

「だって、聞いたのはお父さんだよ。其れに昔話であるじゃない」ふくれっ面をしながら言うと

「生まれてこの方、そんな物、口に入れた事ありませんし、一族で食べたって言う噂すら聞きませんよ。全くもって河童をなんだと思っているのやら・・・そもそも河童と言うのはですね、ある一種の魍魎が作り出した逃げ水を其処に定着させてですね、田や畑に供給させる役割がありまして」

真宮寺は真剣に抗議すると涙をハンカチで拭き終えた樋口が真宮司の話に割って入って

「あー、可笑しい、そうなのか、カッパは[あれ]を食うのか、あっはっはっは」大笑いする。

「じゃーさー、何食べてるの」優子がむくれながら言うと

「人の話を最後まで聞けって・・・人間と同じ物ですよ」真宮寺は、少し怒った様な口調で言った。

「最初から言えば良いじゃない。残さず食べなさいよ」優子が命令口調で言ってテーブルに着いた。

「何で俺が怒られるんだ」

真宮司が文句を言いながら茶碗と箸を持つ。

食事をしながら優子が

「樋口さん、妖怪にも悪い奴も居れば良いのも居るんだね、人と同じだね」と言うと

「そのね、難しい所何だけど、人と妖怪ってのは、基準が全く違うんだよ、人は長生きしても百歳前後だろ、彼ら妖怪は、二千年、三千年てのはごろごろいる。其れに良い悪いの判断は、人間の基準だけど彼らには無い。ただ、この人間は、好きだなと好意を寄せるとその人間が死ぬまでその好意は、続くし、助けても呉れる。彼らの社会は、力と階級だけの世界でその中でも階級は絶対的な権限を持っている。ただこの階級がミソで人間社会に著しい悪影響を与える思想や行動をした者は思想、行動をした時点の階級を生涯背負う事になる。だから良識、ここで言う人間社会における良識だね、良識を持っている者は人間社会で会社に勤めたり、重要なポストにいたり様々な形で社会に貢献しているよ」

樋口は、そう言いながら横目で真宮寺を見る。

真宮寺は、一心不乱に食事に喰らい付いている。その真宮寺の姿を見て頭を抱える。

「そうなんだー、何だか大変な世界だね。それにしても真宮寺さん、お父さん、見て」

優子がクスクス笑いながら聡を肘で突く。

視線に気づいた真宮寺は、バツの悪そうな顔をしながらも

「美味いです。食事にありつけたのも三日ぶりっす。御飯、お替りしても良いですか」

優子に聞くと優子はクスクス笑いながら

「いっぱい有るから大丈夫だよ。十杯でもお替り出来るよ。オカズ足りなかったら海老フライなら直ぐに揚げれるからね」と言って真宮寺から茶碗を受け取るとすぐ脇のカウンターの上に置いてある炊飯器から御飯をよそって山盛りにすると真宮寺に渡す。

「お、大盛りだ、有難う御座います」嬉しそうに両手で受け取り再び箸をつけて行く。

「そんなに大変な張り込みしてたんですか」聡が聞くと

「気配を殺して佐賀県まで狐を追ってました。あ、だから間違い無く病院に現れた奴じゃありませんよ」

真宮寺が言う。

「と、言う事は」樋口が言い掛けると

「まぁ、食事が終わってからじっくり話合いましょう」聡が言い、引き続き、食事を促した。




少しくすんだ白面金色の何物かが岩の上に立って居る。

(気配が消えた、京都北部に向いて移動していた途中だったはずだが)その物は考える。

(協力者の人間を一人、裏切者として断罪し、京都南部に俺が転送させたが、その後、突然、気配が消えた。何かに逢ったのか・・・)考えても解らない。

意識をあいつにも少し残して置くべきだったか、と悔しがる。

もう一匹の九州へ行かせた狐は、無事に祖母の部下達に逢えたし、話も出来た。これでこの国の南部からの制圧は、可能になった。

(しかし、もっと力の、妖力の強い奴が欲しい、本当に強いかどうかは別として噂に聞く九尾狐の白雲や凍次郎クラスが欲しいものだ)と呟いた。

(最も、俺の妖力が完全に補充されたなら最強が手に入る。それまで此処に居なきゃならんのが腹立たしい事だが この国を守る神共に知られる訳にはいかんからな、祖母の願いと計画、この俺が達成してやる。この国を闇に沈めたら神代の時代の遺物、天の浮き船を悠久の時を超えて復活させ地上の全ての人間共に地獄を与え、妖怪の世界を作り出してやる)自分の立って居る岩を踏みしめた。




聡と優子がリビングにコーヒーを運び、テーブルに並べる。

真宮司はソファに座りお腹をさすりながら満足げにニコニコしている。

樋口は手にした鞄から封書を二通取り出してソファに座った聡と優子に其々、一通づつ手渡して

「苻と言われる物です。中身は決して見ないで下さい。印の書かれた和紙と護摩を焼いた粉が入っています。其々、常に身に付けて下さい」

「先生とお嬢、こいつね結構 腕の立つ陰陽師なんだぜ。珍しく御堂にこもってそいつを作ってた。妖術にはかなり効くぜ」

真宮司は前かがみに成り真面目な顔で言う。

「妖術って? 妖怪の持つ力の事ですよね」優子が聞くと

「ま、俺なら妖気と水を練り合わせた水槍とか、妖気で近くの池や沼から水を呼んだりとか、そう言ったもんだ」

言いながら真宮司が自分の人差し指の指先に水の玉を作って見せる。

優子が驚いて其の指先に浮いている水玉に触ろうとした時、

「触っちゃいけない。その水自体は、恐らくキッチンか何処からか呼び寄せた物で、形作っているのは、真宮寺の妖気だ。人が妖気に触れるとどうなるか解った物ではありませんよ」

樋口が言って優子を制止する。

「これをこうすると」樋口が言って 

聡に手渡した符をもう一度受け取り、真宮寺の指先にある水玉に持って行く。

「ギャー」と大きな声を上げて真宮寺が仰け反る。

水玉は、黒い煙と成って消え、真宮寺の指先が消えた。

聡と優子が目を丸くして見つめている。

「この符の効果がお分かりになりましたか? そう、技を消し去る事はおろか、術者に多大な損傷を与えます。この符を持っている限り、相馬さん、貴方達に術を行使する事は、術者に取って危険極まりない事になります。若林さんが亡くなったあの日、私は符を御渡ししようとしていました、が、この符程の相手に対する攻撃性は持たしていませんでした。ただ身を隠す事だけに特化させた符でした。若林さんの死後、私の中であの方を死に追いやった相手に対して憎悪に似た気持ちが生まれ、この二日間、御堂に籠り 私の全能力の限りを突くしてこの符を完成させました。ぜひ、忘れずにこの符を常に持って外出して下さい」樋口が頭を下げ符に対する思いを打ち明けた。

「ありがとう、樋口さん。是非、この符を持たせて頂きます」

聡が言うとその横で優子が、大きく頷いた。

「これで私の用は済みました。ほっとしました」樋口が言う。

「もう、こんな時間だし、風呂に入って酒でも付き合って貰えませんか、今日は、泊まって行って下さい」聡が言うと

「ありがとう」樋口が隣で呻いている真宮寺を見ながら、

「そうさせて頂きます」と頭を下げた。

「じゃ、お風呂の用意してきます。それと部屋は御二人 一緒の方が良いですか? それとも」

優子が問うっていると横から

「こいつと一緒、冗談じゃない」真宮寺が片手を押さえながら言う。

樋口は笑いながら真宮寺を見て

「風呂に入ったら 直ぐに治るだろ」と言った。

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