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大剣の冒険者 〜不格好な刃が紡ぐ英雄譚〜  作者: beck2026
第三部 〜凍てつく血肉の霊峰と、旧魔の冒涜〜

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第一一一話:雪山の隠れ家と、触れ合う鼓動

狂気の遺跡が雪山の地中深くへと崩落した後、極寒の霊峰に取り残された四人は、すぐさま猛吹雪を凌ぐための避難場所を確保しなければならなかった。

 

「いくらなんでも、この血と臓物の臭いが染み付いたままじゃ凍死する前に気が狂うわ」

 

シェリアが土魔法で山肌に即席の洞窟を造り出し、さらに火魔法と水魔法を応用して、洞窟の奥に温かい湯が張られた小さな水場――即席の岩風呂を作り上げた。

疲労困憊の彼らにとって、これ以上の贅沢はない。アレンとシェリアが気を利かせて岩の衝立で仕切りを作り、男女交代で身体にこびりついたドス黒い汚れを洗い流すことになった。

 

「……ふぅ」

 

先に入浴を済ませたアレンと交代し、レイは一人、温かい湯船に肩まで浸かって深く息を吐き出した。

狂術師や巨大な心臓との死闘で酷使した筋肉が、熱い湯に解れていく。湯船の底には、彼の身体から洗い流された赤黒い血が薄く沈澱していたが、今はただ、この温もりがありがたかった。

 

(シロも、少しは落ち着いただろうか……)

 

過酷な地獄を潜り抜け、凄惨な光景を何度も目の当たりにした彼女の心が心配だった。

その時、岩の衝立の向こう側から、パチャ、パチャ、と控えめな水音が近づいてくる気配がした。

 

「……レイ様」

 

「えっ? シ、シロ!?」

 

湯気の中からひょっこりと顔を出したのは、洗い立ての銀髪を濡らしたシロだった。

彼女はバスタオル代わりに、シェリアから借りた大きめの布を一枚だけ胸元に巻いている。白い肌は湯気でほんのりと桜色に上気しており、華奢な肩のラインと、布の隙間から覗く柔らかなふくらみが、薄暗い洞窟の中でひどく艶かしく見えた。

 

「ど、どうしたんだい? そっちの湯船は……」

「シェリア様が、レイ様のお背中を流してきなさいって……その、背中を向けて押し出されてしまって……」

 

恥ずかしそうに俯きながら、シロはもじもじと両手を組み合わせた。

(あの二人、変な気を利かせて……!)

レイが顔に熱が集まるのを感じていると、シロはとてとてと湯船の縁を歩き、レイの背後へと回った。

 

「あの、失礼します……」

 

布越しに、シロの柔らかい膝がレイの背中にそっと触れる。

そして、温かいお湯を含ませた布切れと、彼女の小さな両手が、レイの広く分厚い背中を優しく撫で始めた。

 

「……傷だらけ、ですね」

 

シロの細い指先が、レイの背中に無数に刻まれた古い傷跡や、今回の戦いで負った新しい擦り傷をなぞる。その手つきは、まるで壊れ物を扱うように繊細で、くすぐったいような、胸の奥が締め付けられるような甘い感覚がレイの背筋を駆け抜けた。

 

「……大剣を振るう前衛だからね。傷は勲章みたいなものさ」

「私が、もっと強ければ。レイ様にこんな痛い思いをさせずに済むのに……」

 

シロの声が微かに震えている。

次の瞬間、背中を拭いていた彼女の手が止まり、代わりに、布越しにシロの柔らかな胸の感触が、レイの背中にぴたりと押し当てられた。

 

「シロ……?」

 

「怖かったんです……」

シロの細い両腕が、レイの首元から胸板へと回され、ぎゅっと抱きしめられる。

「あの恐ろしいお化けたちよりも……レイ様が怪我をして、私の前からいなくなってしまうんじゃないかって。それが、一番怖くて……っ」

 

背中に密着したシロの身体から、彼女の心臓の音が直接伝わってくる。

トクトク、トクトクと、小鳥のように早鐘を打つその鼓動は、彼女がどれほどレイを大切に想い、そして今、どれほど緊張しているかを如実に物語っていた。

 

「……大丈夫だよ。僕はどこにも行かない」

 

レイは少しだけ身体を捻り、自分の首に回されたシロの小さな手を、大きな手でそっと包み込んだ。

振り返ると、すぐ目の前にシロの顔があった。

上気した頬、潤んだ銀色の瞳、そして吐息が触れ合うほどの距離。

彼女の濡れた銀髪から滴る雫が、レイの鎖骨へと落ちて弾けた。

 

「レイ、様……」

 

シロの視線が、熱を帯びたままレイの唇へと注がれる。

湯気のせいだけではない熱が、二人の間に急速に高まっていく。レイの心臓もまた、自分でも驚くほどの大きな音を立てて早鐘を打ち始めていた。

 

引き寄せられるように、レイの顔が僅かに近づく。シロは逃げることなく、ゆっくりとその美しい瞳を閉じた。

 

「おーい、二人とも! あんまり長風呂してるとのぼせるぞー! 飯の準備できたから早く上がれよー!」

 

「ひゃあッ!?」

 

外から響いたアレンの間の抜けた大声に、シロは弾かれたようにレイから離れ、顔を真っ赤にしてお湯の中に肩まで潜り込んでしまった。

 

「あ、ああ、今出るよ……!」

 

レイもまた、自分の顔が茹でダコのように赤くなっているのを自覚しながら、慌てて声を返した。

 

凄惨な血と臓物の地獄を抜け出した雪山の夜。

冷たい猛吹雪が吹き荒れる外の世界とは裏腹に、小さな洞窟の中には、若き大剣使いと銀髪の少女の、甘く、少しだけ不器用な鼓動の熱がいつまでも温かく燻っていた。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

血みどろの死闘から一転、過酷な戦いを生き延びた安堵感と、密着する肌の温もりによる「ドキドキ」な展開を描かせていただきました。シロの無自覚な大胆さと、それに翻弄されるレイの距離感を感じていただければ幸いです。

よろしければ、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

絆を深めた二人は、この後どのような旅路を歩むのか。皆様からの応援が最大の原動力となります。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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