8話
オダルディと出会ったのは一体いくつの時だったか。もう思い出せない。
だけれど初めて会った時のことはちゃんと覚えている。
王宮魔術師が住んでいるという小屋の横を通る時、たまにフードの少年が本を読んでいる姿を見かけることがあった。
「貴方、いつも何を読んでいるの?」
「ま、魔導書だよ……」
顔を見られるのが嫌なのか、本で顔を隠しながら答える。
「ふーん。てか顔見せなさいよ」
「い、嫌だよ……」
無理やり少年の本を奪い取る。思い返せばなんという暴君っぷりだろうと思うが……本を奪い取れば、彼の顔が見えた。
「貴方……」
リリアナは彼の瞳を見つめる。
「気持ち悪い……違う?」
少年は辛そうな顔で目を背けた。
「ううん。わたしは綺麗だと思うわ。そのエメラルド・アイ」
宝石眼は膨大な魔力の証。だけれど、その異様さから煙たがる人は一定数いる。
「ほん、とう…?」
「ええ」
「ほんとにきれい?」
「くどいわね。綺麗だと思うわよ」
そう……と顔を綻ばせる少年に、リリアナは名を聞いた。
「オダルディ……」
「ふーん」
「どうして今日は話しかけてくれたの…?」
「今日は……だれかと話したい気分だったのよ」
どうして?とまたオダルディが聞く。
「ケンカしたの……わたしの母同然の人と。たぶんあの人はわたしを見捨てるわ。だってわたしに仕えてくれるのは仕事だからだもん」
自分の娘でもない我が儘な子供を愛せるわけがない。
「そうかな。王女さまはみんなに愛されてると思うよ?いつも……たくさんの人に囲まれていて」
「わたしが王女じゃなかったらあの人たちはきっとよっても来ないわ」
リリアナの瞳からぽろぽろと涙が溢れていく。
「うっぐっ……泣いたらもっと嫌われて––––」
「そんなことない!泣いたって誰も嫌わないし、それに王女さまの乳母の人は王女が大好きだよ。僕、話しているの聞いたんだ。我が儘だけど、可愛いくて大好きだって。本当の娘のように思っているって!」
その強い声が、リリアナの心を揺さぶる。次の瞬間、彼に惹かれたリリアナがいた。
一、二年後とある少女が二人の前に現れた。メイである。
二人はメイとすぐに仲良くなった。
ただ、楽しい日々は長くは続かないもので。
「またね。リリー」
「うん。また……会おうね」
メイと別れたことは不幸の前兆に過ぎなかったのだと、すぐ後にリリアナは思い知ることになる。
「貴族たちに俺を王と認めさせるにはどうすればいいんだ……」
国王陛下……父の書斎の前を通った時だった。リリアナは父が王座に固執しているのは分かっていた。だが、彼はこんなことを誰に聞かれるかもわからないこんなところで呟いている。
追い詰められているんだ……
父が王と認めきれないのは庶子だから。
オダルディを王と認められないのはフィリトレーンとはいえ分家だから。
今、王と認めきれない人しか王候補になっていないのだ。
だが、オダルディがいなくなれば?
父が精霊の世界への入り口を見つけたら?
背筋に冷たいものが走る。
リリアナは父の書斎から離れ、自分の部屋へ向かった。自分の部屋で彼女は紙を広げ、ガリガリと手を動かし、何かを書く。
「オドーを殺させない」
「陛下に精霊の世界への入り口を見つけさせない」
これがリリアナの勝利条件だった。
時が来たら、メイを呼ぼう。メイなら全てを見抜いてくれる。何か証拠を残しておく必要もない。
「そして、不安要素すべてをオドーから遠ざけよう」
……私と共に。
「罪状は何がいいかしら……ああ、いいものがあるわ」
リリアナは口角を上げる。自分の罪状を考えているとは思えないほどに、優しい顔だった。
◇◇◇
「リリーは元気か。とか?」
「えっと?」
「リリーはきれいになってるんだろうなぁ、とか?」
「そ、そういうのじゃない!」
では何なのか、とメイがリリアナに尋ねた。
「陛下についてよ!」
「ああ、あのくそやろうね」
メイはあんなやつどうでもいいと言わんばかりにため息をつく。リリアナはそんなメイを見て、やはり気付いていないのだ、と理解する。
――あの男は破滅させるべきなの。
「あとは……危険なことはしないでね。とか」
メイのその言葉がリリアナ心をつく。
「もう、遅いわ」
「リリアナ王女殿下。あなたを逮捕します」
衛兵がリリアナを連れて行った。
――罪状は、そう。
「黒魔法の使用」
メイはしゃがみ込み、顔を隠した。
「このくそあまが.......」
どうも〜。
定期更新はこの話でやめにすることにしました。
本当にごめんなさい.....
不定期更新になりますが、どうぞよろしくお願いします〜
涼木




