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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1256 おじさんちの母親は悪夢のような搦め手も使えるのかい?


 ――封建制における王とはなにか。

 雑に言えば、秩序を維持するのが役割となる。

 

 王と言えば、絶対的な権力を持ち、国家の元首たるイメージがあるだろう。

 しかし、封建制における王はそこまでの権力を持たない。

 なぜなら契約の積み重ね、その頂点にいるという存在だからだ。

 

 騎士、小貴族、大貴族、王という順の積み重ねである。

 

 おじさんの前世では朕は国家なりと宣った者もいた。

 このイメージが強いかもしれないが、封建制ではなく、その後の絶対王政に移行した段階での話だ。

 

 つまり――今、おじさんちの母親がしていることも封建制ではありなのだ。

 要はギブアンドテイク。

 その関係で成り立つのが封建制だから。

 

 ニヤニヤとした笑みをうかべる母親である。

 その隣でおじさんはニコニコとしていた。

 

「……いくら、か。そ、それは実に難しい問題だな」


 うむ、と国王はなんとか威厳を保とうとした。

 その裏では頭の中は超高速で回転している。

 

 だいたいが予想外なのだ。

 大聖樹とかオリハルコンとか。

 それにミスリルであったり、見たこともない工芸技法であったり。

 

 従来の勲章の延長線上にあるものなら、まだ予想もつけられる。

 が――見たこともないものばかりを並べられたのなら?

 

 なんとか適正価格を弾きだすとっかかりを探していたのだ。

 だが、悲しいかな、それすらもまったくわからない。

 まるで雲を掴むような話だから。

 

「ほおん……お兄様はどうかしらね? なにせ宰相だものね」


 余計な一言を付け加える母親だ。

 宰相、内務卿なのだからわかるわよね? ということ。

 その重圧に、胃がキリキリとしだす宰相だ。

 

「従来であれば、ね。勲章というのは素材などにかかった実費に加え、技術料という形で支払いをするわけだ」


 と、宰相が言葉を続ける。

 

「どの勲章を制作したか、ということにもよるのだけど、だいたいの相場としては金貨二百枚から三百枚ほどだね」


「ほおん……そんなことはどうでもいいわ。うちのリーちゃんが作った勲章の価値を宰相はどの程度だと値踏みしているの、という話だもの」


 さらにニヤニヤする母親である。

 

「そう! それは理解しているんだ、ヴェロニカ! だから聞きたい。リー、この勲章を作るのにかかった実費はいくらだろう?」


 なるほど、とおじさんは思った。

 実費と技術料が勲章の値段だと言うのなら、まずはそこを把握したい、と。

 これは筋がとおっている。


「実費ですか」


 ん~と考えるおじさんだ。

 そもそもオリハルコンは女神からのお礼である。

 女神像を作ったときの。

 

 大聖樹にしたって、おじさんが魔力供給をしたからだ。

 そのお礼に素材セットをもらった。

 

 ミスリルはおじさんが加工したものだし、宝石類はまとめて仕入れているから個別の値段というのもよくわからない。

 

「ほぼほぼかかっていないのではないでしょうか?」


 にこりと微笑むおじさんだ。

 その答えに宰相の胃が再びキリキリと痛みだす。

 

 嘘でもいい。

 そこは適当に金額を言ってほしかった。

 しかし、おじさんにはそういう話は通用しなかっただけである。


 宰相の意図を正確に把握していた父親は苦笑した。

 うちのリーちゃんも万能ではないのだ。

 

 色々と抽んでている娘ではある。

 ただ抜けているところも少なくないのだ。

 

「ところで、リーちゃん」


 母親がおじさんに話を振る。

 その視線は魔法大勲章に向いていた。

 

「この魔法陣なんだけど……かなり精緻よね。魔道具にできてもおかしくないんじゃないの?」


「むっふっふ。よくぞ、よくぞ聞いてくださいました、お母様!」


 おじさんがふんすと鼻を鳴らした。

 とてもつもなく嫌な予感がする宰相と国王だ。

 

「まず魔法陣ですが、今回は勲章の図柄として利用するため、見栄えのいいものを選んでみました。お母様ならもう理解されているでしょうが、今回は転移陣を選んでいます」


「やっぱり、そうなのね」


「はい! ただし、魔道具として起動しないようにしています。敢えて術式の部分を弄っているのです」


「……それは何故かしらね?」


「これはこの場にいる皆様ならご存じでしょうが、ミスリルは魔力の吸収と伝導の効率が非常にいい金属ですわね。わたくしも話には聞いていましたが、試したのは今回が初めてでした」


 おじさんはそこで少し間をとった。

 

「何度か実験もしてみたのですが、どうにもミスリルに魔法陣を刻んだ場合、自然吸収する魔力の分だけでも、魔法が待機状態になることがわかったのですわ!」


「……それはつまり……?」


 宰相が口を挟む。

 

「魔力を流さなくても、トリガーワードさえ詠唱すれば魔法が使えるということですわね。これはミスリルの常識が変わるかもしれません。というか、あの嘘つきトカゲが全滅する可能性だってありますわ。なにせ魔道具にするのなら、うってつけの素材でもあるのですから」


「ちょ、ちょっと待った!」


 待ったをかけたのは国王だ。

 

「ミスリルってそこまでの効率の良さだったか? 確かに魔力の伝導効率が良いことは知っている。だが、リーの言うような……」


 そこまで言って、ハッと気づく国王だ。

 なぜヴェロニカがいきなりこの話を振ったのか。

 

 リーは嘘をつくような娘ではない。

 それは理解している。

 

 となると、先ほど言ったことは真実なのだろう。

 では、なぜ一般的なミスリルとはちがうのか。

 

「リーや、ひとつ確認をしておきたいんだがの」


 国王は言いながら、ごくりと唾を飲む。

 これからする質問は最悪の答えである可能性が高いからだ。

 

「その勲章に使ったミスリルはどこで入手したものかな?」


「この大勲章に使ったのは、わたくしが嘘つきトカゲから錬成したものですわ」


 あええええ! と声をあげそうになる。

 それだ。

 原因はそれ以外には考えられない。

 

「ああ――そう言えば霊山ライグァタムでやっていたものね」


 母親が思いだしたのかのように言う。


「あのときにけっこうな量が錬成できましたので」


「ふふふ。リーちゃん、いいことを教えてあげましょう」


 母親がおじさんをなでる。

 

「なんですの?」


 言うな、言うな、言うな。

 国王と宰相は事実を知りたくない。

 いや、決定的にしたくなかったのだ。

 

「私たちが一般的に使うミスリルというのはね、そこまで伝導効率が高くないのよ。もちろん他の金属とか素材に比べれば高いのだけどね。でも、自然吸収する魔力だけで待機状態になんてもっていけないわ」


「つまり……わたくしの使ったミスリルは特別だ、と?」


「そうよ。と・く・べ・つ・なミスリルなのよ」


 言ったああああ。

 さあっと顔が青ざめていく国王と宰相の二人である。

 

 正直に言おう。

 

 大聖樹とオリハルコン。

 そのどちらも王国には物語と伝わっていても、実物はなかった。

 

 つまり超希少な素材を使った勲章ということだ。

 それに比べれば、見たことがない技術が使われていたとしても、ミスリルという既知の素材を使った魔法大勲章は一枚劣ると考えていた。

 

 もちろん劣ると言っても、国宝クラスであることには変わりない。

 ただ、特別なミスリルとなれば話は別だ。

 

 それはもう肩を並べるくらいの貴重な素材となってくる。

 

 となると、だ。

 そもそも実費という部分ですら、もはや天井知らず。

 なにを基準にして値を付けていいのかわからない。

 

「リーちゃん、いい仕事をしてくれたわ」


 そっとおじさんの耳元で囁く母親である。

 わかっていたのだ。

 母親は。

 

 さっき見たときから、このミスリルは特別製だ、と。


 おじさんは意味がわからず、きょとんとしている。

 そんな顔ですら、超絶美少女だ。

 

「さて、陛下、兄上。それを踏まえて、伺いましょうか。いくらで買取してくださるのかしら?」


 実にいい笑顔であった。

 澄んだ、邪気のない笑顔である。

 

 だが――その笑みに恐怖を感じる者もいた。

 

 ――大魔王。

 宰相はこの末妹の笑顔を見て、思わずそう思うのだった。


誤字報告いつもありがとうございます。

助かります。

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無垢な回答、知らぬは本人ばかりなり。
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