1213 おじさんは決闘の話を聞く
――王城にある騎士の訓練場。
そこに立つのはヴェロニカであった。
美少女である。
優雅なたたずまいに、凜とした表情。
決闘をするなど微塵にも感じさせない泰然と構える。
その姿は美しくも、どこか威厳を感じさせた。
国王を初め、列席する貴族たちも決闘の開始を待っている。
が、未だにその相手は姿を見せていない。
そろそろ定められた刻限かという頃である。
ラムザウアを先頭にフィルノート家が姿を見せた。
決闘の当時者であるザリオ。
その後ろに控えるのは騎士と魔法士たち。
「ふむ……どういうことか」
国王がおもむろに口を開いた。
対して、ラムザウアがにやりと口角をつり上げる。
「そこの娘は昨日、フィルノートに対して決闘を申し込みました。つまり我が家を敵に回したということでございますな。陛下、我が家も面子を潰されてはどうにもこうにも……ですから、こういうことでございます」
騎士たちが十人。
魔法士が五人。
ザリオとラムザウアを含めれば、総勢で十七人。
「ヴェロ……」
国王が口を開こうとしたときであった。
凜とした少女が笑みをうかべ、言い放つ。
「なんの問題もございませんわ、陛下。誇りを捨ててでも勝ちを拾いにいくというのも、また貴族らしいかと。ま、潰しますけど」
その返答に、思わずクククと笑ってしまう国王だ。
隣に座っている王太子は、どこか心配そうな目で見ている。
「とは言え、だ。ここでそなたに一人、推挙したい者がいる」
国王はちらりとハリエットを見た。
元王族であり、今回の件をねじこんできた張本人だ。
ただ、その言に理がないわけではなかった。
フィルノートが多勢で押してくることを予測していただけではない。
主家として明確な敵対に対する報復を、ということだ。
姿を見せたのはスランであった。
ただし、けっこうボロボロである。
「皆も知るようにカラセベドの跡継ぎである。今回の一件、カラセベド公爵家は何も聞かされていなかった。つまり、越権行為ではあるな。故にヴェロニカの側に加勢したいという話があった」
今だ青年と呼ぶには少しあどけない顔立ちの少年だ。
その少年はつい数年前までは、殿下と呼ばれていたわけである。
「余はそれを認めようかと思う。どうか?」
列席する貴族たちに問う国王だ。
対して、肯定だという意思を返す貴族たち。
当時者であるフィルノートも肯定だと声をあげた。
これが自分たちのように、魔法士や騎士たちを集めてきたのなら抗議していただろう。
だが、姿を見せたのは、たった一人の少年なのだ。
それも数年前までできない子扱いされていた、その人なのである。
ならば断る道理もない。
そう判断したのである。
「……ふん。私の足を引っ張ったら許さないわよ」
「ま、怒られない程度にはがんばるよ」
ヴェロニカの隣に立つ少年だ。
革製の防具は既にボロボロである。
血色はいいが、身体中に生傷があった。
「……いいでしょう。潰すわよ」
「賛成だね」
スッとヴェロニカの前に立つスランだ。
腰から片手剣を抜く。
今回は決闘である。
だから、本身の真剣だ。
いつもの木剣ではない。
が、そこに気負うような様子はまるでなかった。
「ちょっとさ、がんばってきたんだよね」
「ほおん……」
二人の短いやりとり。
その直後に、国王から決闘の開始が告げられた。
――瞬間。
魔法士たちから魔法が飛んでくる。
人数をいかした飽和攻撃だった。
だが、それを見てスランもまた口角をあげた。
「遅いなぁ。それに精度も低い。まったく養母上のお陰だね」
――魔纏。
一瞬にしてムラなく魔力を操作してみせるスランだ。
それを見たヴェロニカは微笑む。
ようやく見れた、と。
「ヴェロニカ、ボクがいく。キミは……」
「指示しないで! わかってるんだから」
そう――と残してスランはさらに前へ出た。
魔法を斬ったのだ。
次々と襲いくる魔法を前に怯むこともない。
ただ、ただ、斬った。
舞うように身体を動かし、血路を開いていく。
自分と後ろのヴェロニカにさえ当たらなければいいのだ。
精度が低いということは狙いも曖昧である。
落ちついて対処すれば、どうということもなかった。
問題はその次。
魔法の切れ間からスランはしっかり見ていた。
騎士たちが徒党を組んでツッコんできているのを。
さて、どう捌くか。
思考した瞬間であった。
【深緋蔦蔓】
ヴェロニカが魔法を発動したのである。
一瞬にして、魔力で編まれた茨の蔓が騎士たちに絡みついた。
全身鎧ではなく、動きやすさを重視した軽鎧。
それが仇となった。
騎士たちの身体が緋色に染まっていく。
悲鳴とともに。
同時にスランは駆けていた。
騎士たちのもとへ。
魔法を巧みに避けながら、騎士たちの動きを止めるべく斬る。
手足の筋を断つように、だ。
高い魔法の精度と威力。
ヴェロニカの魔法から逃れられた騎士はいなかった。
つまり、スランがあっという間に騎士たちを制したのである。
「はん! 手応えがないわね。少しくらいは反撃できるような魔法を使ってあげたのだけど」
ヴェロニカの言葉に頷くスランだ。
あれは蔦を魔纏で斬ればいい。
それだけで拘束から解けるタイプだ。
だが――それに対処できる者がいなかったという話である。
「な、なんだと!? お前ら、どうなっている? やれ! やれ!」
驚いていたのは余裕の表情だったラムザウアだ。
騎士たちがあっという間に制圧されてしまったのだから。
残っている魔法士たちが口を開こうとしたときである。
【因果欠落】
ヴェロニカは軽口を叩きながらも魔法の用意をしていたのだ。
同時に、がっと喉を押さえる魔法士たち。
いや、自分で自分の首をしめているのだ。
なぜそうなっているのか、理解できないのだろう。
恐怖に染まった表情になっている。
「その魔法は効果が短いわよ」
それだけで十分であった。
スランは身体強化を利用して、あっという間に接近する。
そして――魔法士たち五人を無力化した。
「で、残ったのは二人だけだね」
切っ先をザリオにむけるスランだ。
「ふん。最初からこんな雑魚どもに期待はかけていなかったさ、私はね」
立派な装飾が施された剣を抜くザリオである。
「父上はね、お前が気に入らなかったのさ」
言いながら、斬りつける。
だが、スランは表情を変えずに、その剣を躱す。
「私が公爵家の後釜になればと考えていたのさ。だから――」
またもや剣を振るうザリオだ。
それを冷静に見極めるスランである。
「なら、ボクを殺しにくればよかった。こんなまどろっこしい手を取らずにね」
「ふはは。もちろんそう言ったさ。だが、父上は――」
連続で剣を振るうザリオだ。
スランは回避する。
剣を打ち合わせるようなことはしない。
「ま、私はね、どちらでも良かった。だが、あの娘を見て気が変わったんだよ」
げすい目だ、とスランは思った。
「あの娘を私のものにできるのなら、その方がいい、と!」
ふぅと息を吐く。
スランはまたもや剣を躱す。
だけ、ではなかった。
躱すと同時に、空いた腹に膝を入れたのだ。
ぐふぅと息を吐くザリオ。
「ヴェロニカはね、ボクがもらう」
スランの言葉は真意だったのか。
あるいは挑発だったのか。
真っ先に反応したのはヴェロニカだった。
「ば、ばばば、ばかー!」
背中にどかんと風弾をぶち当てられるスランであった。
誤字報告いつもありがとうございます。
助かります。




