1173 おじさんは新しい物語に突入する
体調不良で短めです……
「おお! 冒険者様がきてくださったぞー!」
フォリオの権能だろう。
おじさんは元の場所に戻ってきた。
ヴァネッサの周囲には村人が集まっている。
そして、大合唱だ。
焦点の合わない目で。
「ひいいい! なんなのよ、もう! 燃やすわよ!」
あまりに追い詰められたのだろ。
ヴァネッサが不穏なことを口にしている。
「お祖母様、こちらですわ!」
おじさんが声をかける。
「リーちゃん! 戻ってきたのね!」
「ご迷惑をおかけしました」
と、おじさんが引き寄せの魔法を使う。
村人に囲まれていたヴァネッサが、一瞬でおじさんの隣へ転移した。
「助かったわ、リーちゃん。もういっそのこと焼き払ってしまおうかと思っていたところよ」
そう言えば、母親もよく火弾を使う。
血のつながりを感じざるを得ないおじさんだ。
「ま、この物語は攻略しましたので」
おじさんの言葉がきっかけだったのだろう。
二人は転移していた。
エントランスルームに。
水晶球が浮かんだ台座がある場所だ。
フォリオもいた。
「最短時間での攻略、おめでとうございます。お楽しみいただけたでしょうか? それでは次の物語へと進まれますか? それとも……」
もう帰る、そう言いたいヴァネッサだった。
なんだかとても疲れてしまったのだ。
一度は攻略したはずの物語である。
だけど、孫娘であるおじさんがやらかした。
ゴブリンの襲来とか関係なかったのだ。
自ら、あの物語の魔物を殲滅しにいった。
それも一瞬で。
実はあれこれと裏の物語もあったのだ。
ゴブリンの陰にいる魔物とか。
そういうのをまるっと殲滅してしまった。
という話は横に置いておく。
ヴァネッサはもう疲れていたのだ。
主に心が。
だから――。
「やりますわ! 次の物語へと進みましょう! ね? お祖母様!」
おじさんの一言で、ぎょっとしてしまった。
だが、さすがに公爵家の奥方である。
表情にはださない。
身についたポーカーフェイスが裏目にでたのだ。
「あ? え? リーちゃん?」
「すごく楽しみですの!」
きらきらとした笑顔をむけるおじさんだ。
その笑顔……守りたくはない。
が――ここに至っては仕方ないのだ。
ヴァネッサといえども人の親。
鬼ではない。
だから、言った。
「そうね、楽しみね!」
そういうしかなかったのだ。
「では、フォリオ。次の物語へ」
ぢっと二人を見るフォリオだ。
ヴァネッサは思った。
ここで気づいてくれ、と。
「……畏まりました。それではご案内いたしましょう」
だが、現実は無慈悲で残酷なのだ。
おじさんに気づかれない程度に、息を吐くヴァネッサである。
ここまできたらもうどうにもならない。
腹を括るしかないのだ。
「一刻館の迷宮へ」
次の瞬間、おじさんたちは古い古い洋館にいた。
時間は恐らく夜だろう。
燭台の頼りない灯りだけが点っている。
そこは食堂だ。
長いテーブルを囲むように人が座っている。
老人が一人、女性が一人、男性が二人。
男性、女性、いずれもそれなりの年齢だ。
遠くで落雷の音がする。
「どうにもいけませんな。こんな嵐になろうとは……」
老人が口を開いた。
どうやら、この館の主人であるようだ。
古めかしい貴族といった格好である。
「さてさて、ではお客人。お好きな席へどうぞ」
おじさんたちのことだ。
空いている席に座る。
誰が用意したのか。
テーブルの上には料理がならんでいた。
あまり豪勢とは言えない。
パンにスープにワイン。
そして――果物。
「エドガー老、そちらのお客様はいったいどなたなのかしら」
中年の女性が老人に聞いた。
少しケバケバしい女性である。
「ああ――こちらは私の古い友人の娘さんたちでね」
「エドガー老よ、マーガレット様が言いたいのはそういうことではないだろう」
今度は中年の男性が口を挟む。
少しくたびれた感じの男性だ。
「ふむ、どういうことかな、ドミトリ?」
「今夜、ここに集まったのはあの事件の話をするため。そこに関係のないお客人を呼ぶ意味はということでは?」
「私は――かまわない」
もう一人の男性が言う。
「ゼス、本当にいいのか?」
ドミトリが男性をにらみつけるようにして言う。
「私としてはどちらでもかまわないわ。ただ――」
マーガレットはおじさんたちを見て言う。
「――今宵の集まりの中には人を殺した者がいるかもしれないわよ?」
くすりと笑う。
脅しのつもりだろうか。
いや、とおじさんは思う。
これはそういう設定だ。
要はミステリーの物語である。
「お祖母様、ここは攻略済みなのですか?」
まるっとマーガレットをスルーして、おじさんが聞く。
ただ頷くヴァネッサだ。
ヴァネッサは思っていた。
既に攻略済みの物語で良かった、と。
「では、内緒にしておいてくださいね」
にこりと微笑むおじさんだ。
すっと立ち上がる。
「わたくしはリー」
ばちこんと華麗なカーテシーをキメる。
そして――言った。
「この事件、まるっとわたくしが解決してみせますわ! お祖父様の名にかけて!」
おーほっほっほと高笑いする。
なんだかんだで楽しんでいるおじさんであった。




