第1130話 おじさんは学園長との戦いに備える
冬というのは存外に日が落ちるのが早い。
気が付けば、あっという間に暗くなっている。
今、蛮族一号と二号はミグノ小湖の湖畔だ。
「ど、どどどどーするの!」
蛮族二号は少し混乱しているのか。
目がぐるぐるになっていた。
「どうするって……」
一号は思いだしていた。
確か、おじさんは置いていくと言ったことを。
「リーは?」
「……いにゃいわねえ」
「のおおお!」
ケルシーが頭を抱えてうずくまる。
「歩いて帰ればいいじゃなーい!」
「ダメ、夜は歩いちゃダメ!」
ケルシーが顔の前で、大きなバッテンを作っている。
「ほおん……珍しいじゃない? あんたがそんなこと言うなんてさ」
「怒られたの! すっごい怒られたの! 三日間ご飯抜きだったの!」
なるほどね、と納得する聖女だ。
「それで夜は歩いちゃダメってこと?」
「うん! 夜は見えないし、魔物がどこから襲ってくるかわからないからって」
「そうかー。歩いて帰るのは危ないかー」
聖女もなんとなく理解していた。
それは祖母に何度も言われていたからだ。
と言うか、村にいた頃は日が暮れる頃になると、皆が家に帰った。
夜の間は出歩かないのだ。
危険だから。
「リー呼ぶ?」
んんにゃと首を振る聖女だ。
「こんなこともあろうかと!」
聖女が宝珠次元庫から天幕をだす。
おじさんにもらったものだ。
「いっつも持ってるんだもんに!」
光球をだす聖女だ。
このくらいのことならできる。
「まぶし! 消して、消して、早く!」
ケルシーが慌てて言う。
「なんでさー」
「魔物がくるから! 危ないんだって!」
「あー」
と、納得した聖女だ。
しかし光球を消すと、天幕を張れない。
遠征に同行したときだって大活躍してくれたものなのに。
「……ケルシー。ちょっとの間でいいから、魔物を警戒しておいて」
「……どうすんのさ?」
いつも五割増しで聖女のことを胡散臭そうに見るケルシーであった。
「ちょっぱやで天幕を立てる! この中から結界が発動できるし!」
「ん~わかった」
再び、聖女が光球をだす。
ものの五分とかからない内に、聖女が天幕をたてた。
「ケルシー、こっちきなさい」
入り口から手招きする聖女だ。
てててっと走って、ケルシーが天幕の中に入る。
「おおー! しゅごい!」
おじさん手製の天幕である。
空間拡張が使われていて広いのだ。
「ふふーん。今から寝台をだすわ! 今日はぐっすり寝て、朝になったら帰るわよ」
「うほほーい!」
テンションが上がる蛮族たちであった。
しかし――。
「な、なにをするだー!」
一号と二号の身体が宙に浮いていた。
いや、正確には首根っこを掴まれていたのである。
バベルに。
「主殿から言われてきたものの……なかなか逞しいでおじゃるな」
げへへと照れる蛮族たちだ。
「リーんところの人!」
ケルシーが叫ぶ。
「主殿に連れて帰るように言われておるからな。さっさとこの天幕をしまってくれんか?」
「う……そうする」
大人しく従う聖女だ。
聖女は知っている。
バベルがどんだけヤバいヤツかを。
だって、あの大怨霊と仲良しなのだから。
「では、帰るか」
ケルシーと聖女を連れて、転移するバベルであった。
少し時を戻して、おじさんである。
「リー様、よろしいのですか?」
アルベルタ嬢が確認をとった。
蛮族たちのことである。
「問題ありません。わたくしの使い魔についていてもらいますから」
「……なるほど」
「さて、アリィ。本日の野営料理訓練のことを報告書にして提出してくださいな。わたくしは少し準備をしてまいります」
学園長との一戦のことだ。
「承知しました。では、残りの時間を使って報告書の作成を致します」
「時間がくれば迎えを寄越しますから」
はい、といい返事をするクラスメイトたちだ。
では、と残しておじさんは転移する。
タウンハウスである。
大急ぎで自室にこもるおじさんだ。
ちょっと今日は特別な戦いである。
本来なら光神ルファルスラの鎧を着用してもいい。
アンドロメダもだ。
だが、あれは正真正銘、神の鎧である。
そんなものチートの塊だ。
なので、いつもよりも動きやすく、かつ格好のつく服を作りたい。
「どう思いますか?」
侍女に聞くおじさんだ。
「ん~お嬢様ならなにを着てもお似合いになります」
「でも、学園長を相手にするのですわよ? 失礼にあたるような格好は……」
「でしたら、対校戦の決勝でお使いになった衣装はどうでしょう?」
「あれはちょっと……」
と、顔をしかめるおじさんだ。
中二病がくすぐられる衣装だったことは認める。
ただ、イメージがあんまり良くない。
「こういうときにエーリカがいれば……」
言っても詮ないことを、とは思う。
だって、おじさんが置いてきたから。
「あ! お嬢様、あの格好がふさわしいのではないですか?」
「どの格好でしょう?」
「王都を襲った怪物をお嬢様があっという間に倒されたときのことです!」
ああ――と理解したおじさんだ。
聖女曰く、ラスボスである。
あのときは確か男装をしていたはずだ。
古い貴族がしそうな……とおじさんが閃く。
「そうですわ! 今回はこの衣装でいきましょう!」
素材をだして、パパッと錬成魔法を使うおじさんだ。
あっという間に服が一式できあがってくる。
「ん~これはどういうものでしょう? 帽子もセットですか?」
「セットですわね! サイラカーヤ、この横のところを細い三つ編みにしてくださいな」
「細い三つ編みですか? それだと髪がまとまりませんが?」
「いいのです。細い三つ編みをいくつか入れると雰囲気がでます!」
「お嬢様がそう仰るなら」
と、指示に従う侍女である。
「ん~もうちょっと細い方がいいですわね。あと、この飾り玉を三つ編みに通してくださいな」
「あら? いいですわね」
でしょう、と鼻息を荒くするおじさんだ。
「髪はいったんそこで止めましょう。衣装を着ます!」
なんだかんだで侍女は役得である。
超絶美少女であるおじさんのお付きだから。
こういうことも楽しめるだ。
完璧なスタイルのおじさんに衣装を着せていく。
男装は男装である。
しかし、以前の物と比べると粗野なイメージ。
ただ悪くはない。
むしろ、こっちの方がいいのではと侍女は思っていた。
最後に帽子をかぶるおじさんだ。
装飾のない黒のトリコーン帽である。
「でっででで、でっででで。でっででで、でっででで!」
ちょっとあのテーマも口ずさんでみる。
気分がのってきたおじさんだ。
「本来は指輪とかもするのですが……今日はいいでしょう。インコもいませんしね」
ばん、とおじさんが振り向く。
そこにいたのは女海賊であった。
ものすごくキまっている。
「きゃああ! ステキですわ、お嬢様!」
侍女が目をハートマークにしている。
「むふん! 今日はこの格好でまいりましょう! バルバロイを倒しに!」
はい! と上機嫌で返答する侍女である。
なお、バルバロイって誰やねんというツッコミはなかった。




