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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1128 おじさんはリー先生となり、蛮族たちと戦う


 教室に着くなり、聖女が手を挙げた。

 

「どうかしましたか?」


「今日の講義はリー先生になってほしいってばよ!」


「ん? よくわかりませんわ。わたくしが講師の間は先生なのでは?」


 こてん、と首を傾げるおじさんだ。

 昨日の教育で聖女はちょっとキてしまったのだろうか。

 ――などと不穏なことを思うおじさんだ。

 

「そうじゃなくって! ほら、いつだったか忘れたけど、リーが先生の格好をしたことがあったじゃん!」


 おお、と教室がどよめいた。

 あれは一学期の期末試験である。

 

 学園長のちょっとした悪戯だった。

 おじさんもそれにのっただ。

 

 試験免除のおじさんが暇だろう、と講師役をしたのである。

 確か、そのときには先生風の衣装を着た覚えがあるおじさんだ。

 

 そう言えば、まだ王太子やその取り巻きたちがいた頃である。

 

「賛成、賛成、大賛成なのです!」


「私だって賛成ですわ! というか賛成しない方なんているわけないじゃない!」


 パトリーシア嬢に続いて、アルベルタ嬢が声をあげた。

 

「ああ――なんて尊いのでしょう」


 ニュクス嬢はもはや夢の中である。

 まだ話がでただけなのに。

 

「ああ……リー先生」


 イザベラ嬢もうっとりして、頬を染めている。

 狂信者の会は今日も平常運転だ。

 

 いや、他のクラスメイトたちも興奮していた。

 男子組も含めて、だ。

 

「……あの、わたくしは講義を始めたいのですけど」


 おじさん、ちょっとこういう空気は苦手だ。

 ふつうでいいのだ。

 小市民だから。

 

「いやああ! ご褒美ちょうだいよー!」


 聖女がごねる。

 

「ご褒美って……そもそもエーリカがサボっていたツケですし」


「ごーほーび!」


 ケルシーが腕を振って、煽りだした。

 

「ごーほーび!」


 聖女ものっかっていく。

 さすがにクラスメイトたちはのれないようだ。

 

「もう……仕方ありませんわね。このままだと講義にならないですし」


 ぱちんと指を鳴らすおじさんだ。

 きらきらと光に包まれて、一瞬で女性講師姿になる。

 

 ブラウスにタイトなスカート、ローパンプス。

 そして――レンズのない伊達めがね。

 

 きゃあああ、と女子から猛烈な声があがった。

 男子は完全に顔を赤くして、俯いている。

 正視できないのだ、おじさんを。

 

「これでいいですか?」


 くいと眼鏡のつるを押し上げるおじさんだ。

 

「はい! リー先生!」


 聖女がニコニコとしている。

 ケルシーは、ほええと口を半開きだ。

 

「では、今日はこの姿で講義をします!」


 さっさと講義に入りたいおじさんであった。

 

 

「……ということですわね」


 本日の講義は算数である。

 正確には算術ということになるが……。

 

「はい! わかりません」


 ケルシーが勢いよく言う。

 でしょうね、と苦笑するおじさんだ。


「そうですわね、ケルシーには家で教えてあげますわ。このまま講義を止めるわけにもいきませんし」


 大人しくしていてくれるのならそれでいい。

 だから、おじさんはケルシーの前に焼き菓子の小袋を転移させた。

 

「うまー!」


 もぐもぐと食べる蛮族二号だ。

 もはや餌付けは蛮族を手懐ける必須アイテムである

 

「リー!」


 聖女が期待に満ちた目でおじさんを見る。

 

「エーリカはこちらの問題を解いたら差し上げます」


 おじさんが黒板に問題を書いていく。

 

「むふふふ……」


 自信満々に前に出てくる聖女だ。

 白墨を手に、カカカッと勢いよく書いていく。

 

「これでどーよ!」


 振り向いて、ニカッと笑う聖女だ。

 どうやら自信があったらしい。

 

「エーリカ、ここ、足し算がまちがっていますわ」


「な、なんだってー!」


 ほ、ほんとだ、と崩れ落ちる聖女である。


「ま、いいでしょう。がんばりましたからね」


 手ずからご褒美の焼き菓子を渡される聖女だ。

 

 いいいぃぃぃやっふううううう!

 くるくる回りながら、席へと戻っていく。

 

 教室の中に焼けたバターの香ばしい香りが広がった。

 あちこちからぐぅと腹の虫が鳴る。

 

 令嬢、令息といっても人間だもの。

 

 食欲を刺激されてしまっては仕方がない。

 おじさんは苦笑しながら、皆の前に焼き菓子を転移させる。

 

「少し休憩としましょう」


 講師用の椅子に座りつつ、おじさんは微笑む。

 自分も袋をひとつだして、パクリといく。

 

 それをきっかけに、皆が食べだす。

 笑顔があふれる教室だ。

 

 こういう状況が好きなおじさんであった。

 

「ねぇねぇ」


 と、ケルシーが話しだす。

 

「今日のお昼からはなにをするの?」


「そうですわね、二回目の野外調理をしようかと考えていましたけど」


「そっかー! あれ、好きー!」


 蛮族たちの得意分野だから。

 

「なので、今日はお昼をあまり食べない方がいいですわよ」


 どうせ作って食べるのだから。

 特に蛮族たちにむけて言う、おじさんである。

 だが、蛮族たちはそれが自分にむけられた言葉だとは気づかない。


「リー様!」


 ジャニーヌ嬢だ。

 薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)の料理番である。

 

「食材などはどういたしましょう?」


「さすがに現地調達をしている時間はありません。ですから、今回は前回のおさらいもかねて、わたくしが用意したものを使っていただきます」


「畏まりました」


「班分けはどういたしましょう?」


 今度はアルベルタ嬢だ。

 

「エーリカ、ケルシー、ジャニーヌの三人を各班の先導者に。男子は四人ですから代わり映えしませんが……よければ女子班と一緒に混ざりますか?」


 おじさんの提案に、男子はためらいなく首を振った。

 そんなことをしたら大変だ。

 

 絶対に肩身の狭い思いをする。

 

「……そうですか」


 おじさんは男子たちの思いを正確に見抜いていた。

 もう少し仲良くしてもいいと思いはする。

 

 が、無理強いをするほどでもない。

 

「ま、追々ですわね」


 ここは時間をおくことにしたおじさんである。

 恐らく、このクラスは学年が上がっても同じだろうから。

 

「さて、講義の続きといきましょうか」


 小休止は終わりだ。

 しかし、蛮族たちが声をあげた。

 

「え~! もう雑談の時間でいいじゃーん」


「いいじゃーん」


 一号と二号はもう勉強する気がないようだ。

 だから、ツケを払わないといけなくなるのだが……。

 

「後で困っても知りませんわよ?」


「だいじょーぶだって!」


 蛮族たちが笑っている。


「なら、今学期の試験はお手伝いしませんわよ?」


 え? と蛮族たちがとまどう。

 おじさんをあてにしているのだから。

 

「どうします? 雑談? 講義?」


 とん、と踏みこむおじさんだ。

 ふわりとした笑みが怖い。

 

「うう……べ、勉強する」


 蛮族たちが折れた。

 おじさんの勝利である。


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