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強制的に転生させられたおじさんは公爵令嬢(極)として生きていく  作者: 鳶丸
本編

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1161/1263

1127 おじさんの意味ある一日が始まる


 明けて翌日のことである。

 蛮族たちは部屋から出てこなかった。

 おじさんちにお泊まりしたのである。

 

「まったく……なにをしていますの?」


 蛮族たちの部屋を訪れたおじさんだ。

 二人は寝台の上で横並びになり、ピンと身体を伸ばしていた。

 

「リ、リー……」


 聖女が弱々しい声で言う。

 

「た、たしゅけて……」


 ケルシーもだ。

 元気のいい蛮族とはかけ離れた姿に、おじさんは侍女をちらりと見た。

 

 侍女がこくりと首肯する。

 かなり厳しくやったのだろう。

 

「仕方ありませんわね。治癒魔法を使ってあげますから」


 と、指を弾くおじさんだった。

 

「ふっかーつ!」


 蛮族たちがむくりと身体を起こす。

 

「げえええ!」


 しかし、元気がいいのはそこまでだった。

 侍女を見たからだ。

 

「し、師匠! こ、これは……ちがうんです! こいつがやれって」


 聖女がケルシーを指さす。

 

「なんだとー! 一号がやれって言ってた!」


 なんとも醜い責任のなすりつけあいをする蛮族たちだ。

 

「……二人ともまだ蛮族が抜けないようですわね」


 ぺきりと拳を鳴らす侍女である。

 

「躾けますか」


「ひいいいい!」


 一号と二号が抱き合った。

 

「はいはい。そこまでですわ」


 リー! とおじさんに縋る蛮族たちである。

 

「仕方ありませんわね。お嬢様に免じて許してあげましょう。さっさと着替えなさい。もう朝食の時間ですわよ」


 はい、師匠! ととてもいい返事をする蛮族たちであった。

 

 朝食の席である。

 いつもとはちがって背すじを伸ばした蛮族たち。

 

「ええと……これはどうやるんだっけ?」


 いつもなら賑やかに食べている二人だ。

 しかし、今日は目がぐるぐる回っている。

 

「ねーさま。けるちゃんとえーちゃんがおかしいよ?」


 きっちり作法に則って食べている妹だ。

 

「しばらくはあんな感じになりそうですわね」


「えー!? なんからしくないねー」


「そうですわね」


 と、妹の口元を拭ってやるおじさんだ。

 微笑ましいやりとりをする姉妹。

 

「あ……そろそろ限界みたいですわ」


 おじさんの目には二人の頭から、ぷすぷすと煙が上がるのが見えていた。

 直後、蛮族たちの動きがとまる。

 

「……デンパジュシンチュウ……デンパジュシンチュウ……」


 ケルシーの口から無機質な声が漏れる。

 

「おおっと。おほほほ……」


 クロリンダがケルシーに一撃をいれた。

 同時に、担ぎ上げる。

 

「ちょおっとうちのお嬢様の調子が悪いようですので失礼させていただきます」


 ささっと食堂から出て行くクロリンダだ。

 

「……カイデンパジュシンチュウ……カイデンパジュシンチュウ……」


 聖女が譫言のように呟く。

 スッと侍女がその首筋に手刀を落とす。

 

「お嬢様、エーリカ殿も調子が悪いようですわ」


 首肯するおじさんだ。

 

「学園に行くまで休ませておきます」


 聖女もまた強引に退出させられるのであった。

 

「ねーさま?」


「おほほほ……まぁそういうこともありますわね」


 妹に対して、笑って誤魔化すおじさんなのだ。

 

「そっかー、そーゆーこともあるんだねー」


 妹も笑う。

 色々と耐性が身についているのだろう。

 

「リーちゃん、今日ね」


 空気を変えたかったのか。

 母親がおじさんに問う。


「そうですわね。お母様との約束はしっかり果たしてまいります」


「……任せたわよ」


 にやりと犬歯をむきだして笑う母親だ。

 それは捕食者さながらである。

 

「もちろん」


「ほどほどにね」


 そんな母と娘に対して、父親は若干だが頬をひくつかせた。

 

 父親は母親の思いを知っている。

 王国において最強の位置を占める者は、後継者と戦う。

 

 母親は自らが、その後継者という自負があった。

 もちろん自己評価だけではない。

 客観的に見ても、母親が最有力の候補だったわけだ。

 

 しかし――そこへおじさんが現れた。

 

 母親をもしのぐ圧倒的な才能を持つ御令嬢である。

 母親とて王国においては、比類なき才能を持っているのだ。

 

 だが、おじさんは母親すら軽々と上回っている。

 

 本当は自分が戦って引導を渡したかった。

 母親はそうするだけの自信もあったから。

 

 ただ、今回は間が悪かった。

 妊娠しているのだから。

 

 客観的に見ても、王国最強の座はおじさんで揺るぎない。

 

 事実であったとしても、まだ十四才なのだ。

 そんな重荷を背負わせたくはない。

 

 母親の本音はそこにあった。

 

 それでも、だ。

 学園長は母親ではなく、おじさんを指名した。

 

 例え重圧を背負わせることになったとしても、だ。

 最強の座は揺るがないのだから。

 

 おじさんならと信じている。

 

 だって、学園長は知っているのだ。

 おじさんが神子であるということを。

 

 ことりとカップを置いて、立ち上がった。

 おじさんの髪がなびく。

 

「ほわー」


 弟が声をあげた。

 なんだかおじさんが輝いているように見えたから。

 

 朝日を浴びて、その銀色の髪が光ったのか。

 あるいはにじみ出るものか。

 

 いずれにしろ弟は姉であるおじさんに見惚れていた。

 

「姉さま、がんばってね!」


 そう絞りだすのがやっとなほどに。

 

「ありがとう、メルテジオ」


 ふわりとおじさんが微笑む。

 弟の頭をなで、妹を抱き上げてぎゅうとする。

 

「お父様、お母様。それでは後ほど」


 と、挨拶をして学園に向かうのだった。

 

「リー!」


 蛮族たちがてててっと走ってくる。

 

「もう大丈夫ですの?」


 おじさんの周りをぐるぐる回る一号と二号だ。

 

「大丈夫だもんに!」


 その手にはハンバーガー。

 朝食があまり食べられなかったから持たせてもらったのだろう。

 

 蛮族たちは厨房の料理人からは人気なのだ。

 よく食べるから。

 

 そして、感想もきちんと伝えてくれる。

 まぁたいていが美味しかったで終わるのだが。

 

「今日の講義はなにをしましょうかね」


「なんでもいいわよ、リーの講義は面白いから」


 聖女が答える。

 

「だよねー。リーのは面白い」


 ナハハハと笑うケルシーだ。

 蛮族たちを伴って、馬車から降りたおじさんは歩く。

 

「お待ちしておりました」


 アルベルタ嬢以下、薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)たちだ。

 おじさんの後ろにすっと並ぶ。

 

 今日は全員が薔薇乙女十字団(ローゼンクロイツ)のマントだ。

 

「さぁいきますわよ! 今日は学園長に引導を渡します!」


 その言葉を聞いた一般学生は思った。

 なんて物騒なことを言うのだ、と。

 

 頭を下げながら、通り過ぎていくのを静かに待つ。

 

 君子危うきに近寄らず。

 そんな言葉が頭をよぎるモブ学生たちであった。


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