谷底
小妹はそうつぶやいて谷底へ向かって降りて行った。
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その頃、亮は美咲と電話で話をしていた。
「美咲さん、熱海で見つかった三人の
死体の身元を調べてもらえますか?」
「あら、どうしたの?今度の事件に関係あるの?」
「ええ、逃げた小針茂蔵の足取りが熱海で消えたものですから」
「えっ!そこまで追跡したの?」
美咲は警察以上に捜査能力を持っている亮に
驚いていた。
「はい」
「分かったわ二井物産機械北米輸出部
高麗雄二32歳、外務省北米局金野博37歳、
J.I.Mアメリカ支店長赤尾紀夫45歳」
美咲はパソコンのモニターに出たデータを見て亮に返答した。
「三人の繋がりはアメリカですね。他には?」
「無いわ、大学も出身地も別」
「死因は?」
「三人とも服毒、首つり、首つりの自殺と言う事になっているわ」
「えっ?三人とも同じ場所で自殺ですか?司法解剖は?」
「司法解剖は監察医のいる東京23区、大阪、
名古屋、神戸、横浜だけ。死体が発見されたのが
静岡県で遺書もあったし行政解剖もしなかった」
「ひょっとしたら司法解剖の無い静岡県まで運んで
死体を遺棄した可能性が高いですね」
「亮は三人が殺されたと言うの?」
「はい、たとえの話です。茂蔵がある人間に頼まれ三人を
拉致し殺害して遺棄した可能性があります」
「その依頼人って・・・」
「一文字大介です」
一文字のストレートホールディングスが持っていた
ゴルフ場が怪しい事を説明し茂蔵のアジトがある可能性が
ある事を使えた。
「分かった、ゴルフ場の家宅捜査をしましょう」
「それは大丈夫です。そのゴルフ場熱海国際カントリークラブを
買ったのですぐに乗り乗り込めます」
「買った?!」
美咲は亮の答えに声が裏返った・
「はい、それでお願いが」
「なに?」
「それで熱海国際カントリークラブの回りに
非常線を張って茂蔵の逃亡を阻止して欲しいんです。
遺体が発見された場所が静岡県、ゴルフ場があるのが神奈川県と
跨っているのでそれが出来るのは警察庁だけです」
「分かったわ、すぐに手配をする」
亮は車の車種と車のナンバーを伝えた。
「非常線が間に合えば良いんだけど・・・」
亮は美咲の力に期待していた。
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ゴルフ場に着いた仁木と三雲はクラブハウスに駆け込み
支配人の緒方を呼んだ。
「ランド不動産團の代理の者です」
それを聞いた緒方はこっそりと携帯電話を開き
亮から送られてきた写メを見た。
「お持ちしていました。こちらへ」
急ぐ二人をなだめ緒方は支配人室に案内した。
緒方は鍵をかけカーテンを閉めた。
「ちょっと待ってください」
周りを気にしている様子の緒方に気づき
三雲はスマートフォンのアプリを開いて部屋の隅を歩いた。
すると支配人のデスクの後ろのコンセントから
ハウリング音が聞こえた。
「盗聴器です」
三雲は緒方の耳元で小声で話。ポケットからドライバーを取り出し
コンセントの蓋を開け盗聴器をライターの半分程の
盗聴器を外した。
「もういいですよ」
「そうか、盗聴されていたのか」
緒方は悔しそうな顔をした。
「そのようです。それで加山有蔵の話を伺いたいんですが」
仁木が緒方に質問をした。
「奴らは9番ホールの隣の煉瓦作りのハウスに住んでいます」
「住んでいる?」
「はい、オーナーの命令で彼らに
クラブハウスで食事を食べさせています。
あそこは昔、軽食や飲み物を売っていたんですが
今では我々クラブの従業員ですら出入り禁止です」
「それで何人ほどいるんでしょうか?」
「私もはっきりした人数は分かりませんが
加山有蔵なる人物以外に
5~6人でしょうか」
「そんなに!」
仁木が答えると突然ガラス窓が割れ
缶ビール大の物が床を転がった。
「三雲、爆弾だ!」
仁木は緒方を連れて部屋を飛び出した。
缶ビール大の爆弾は大きな音と閃光を放ちすべての窓ガラス
とドアを吹き飛ばした。
「大丈夫ですか?」
仁木は床に伏せている緒方をかばって上に覆いかぶさり
そこに両手を広げて三雲が立っていた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
緒方が礼を言うと三雲の頭から血が流れ出していた。
「大丈夫か!三雲」
「頭にドアが当たった・・・」
「頭から血が出ているぞ!」
「えっ!」
仁木が外へ飛び出すと三雲は止血のタオルを持って外へ出た。
すると目の前を黒いワゴンがタイヤを鳴らして走り去って行った。
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「亮さん、車が一台ゴルフ場から出ました」
「分かりました、追尾してください」
「了解です、済みません。発見できなくて」
「良いですよ。奴らは後ろめたい事が有るから
車を空から見えないように隠していたんですから」
「後方120m仁木さんと三雲さんの車が追跡しています」
「おお」
亮が体を乗り出してその様子を見た。
「こちら三雲、謎の車追跡中。クラブハウスに爆弾を
投げ込まれ支配人部屋が破壊されました。客にも
職員にも怪我が無し俺の頭から血が出ている」
「大丈夫ですか?」
亮は炭素繊維ウエアの防御力を身を持って感じていたが
頭部だけは別な方法で防御しなければならなかった。
「はい、飛んで来たドアとガラスの破片が
刺さったくらいですから」
「今、亮さんにいただいた止血剤を傷口に塗って、薬も飲みました」
「そうですか?終わったら念のために頭部のレントゲンを
撮った方が良いですよ。僕はニューヨークの飛行場で頭を打って
記憶障害になりました」
※亮の開発した止血剤は昔ベトナム戦争で傷の止血に使われたと言う
田七人参(三七人参)をベースに作っており
三雲の頭の出血はあっという間に止まった。
「はい、そうします。それとその記憶障害の話、後で聞させてください」
「了解です」
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亮が電話を切ると雪はモニターを指さした。
「美咲さん、対象車両はゴルフ場の支配人室を破壊して
芦ノ湖に向かっていて仁木さんと三雲さんが
120m後方から追尾しています」
「了解、いま緊急配備しましたわ、芦ノ湖方面だと神奈川県ね」
「そうですね。もう一度逃走車両の確認です。N社、2018型の
黒のライトバン、品川303-2○7○です」
「了解です」




