23話
第23話 公爵邸、史上最大の大混乱
朝の公爵邸、平和は一秒で終わることになる。
第三勢力の影が去った翌朝。
レティシアは、久しぶりに普通の朝を迎えられると思っていた。
鳥が鳴き、陽が差しす日常に。
メイドたちの声が廊下に響き、洗濯物が山のように積まれる毎日。
(ああ平和って素晴らしい)
そう思った瞬間。
「レティーーーーーー!!」
廊下の向こうから、爆音のような声が響いた。
(平和、終了)
レティシアは洗濯籠を抱えたまま固まった。
角から飛び出してきたのは、もちろん、ヴィクトール公爵である。
「レティ。今日の朝食は食べたか? 水は飲んだか? 睡眠は? 影は? 影は来てないか?」
「閣下、影は来ませんし、ちゃんと寝ました」
「本当に? 影は? 影は?」
「だから来ません。落ち着いてください」
メイドたちが壁の陰からひそひそ声を漏らす。
「閣下、完全に壊れたわね」
「レティが狙われたのがショックだったのよ」
「恋ね」
「恋だわ」
「恋以外に何があるのよ」
「あの〜〜聞こえてますよ」
レティシアは聞こえるように言った。
◆
視察官アレクシア、朝から胃痛だった。朝から頭を抱えていたから。
「この屋敷、まともな人間がいないのでは?」
昨日の戦闘の報告書を書こうとしたが、 ペンが進まない。
理由は簡単だ。
「視察官殿、朝食をどうぞ!」
「視察官殿、昨日の影について質問が!」
「視察官殿、閣下がまたレティを探してます!」
「視察官殿、メイドたちが恋バナで盛り上がってます!」
「あああ、私は何の視察をしているのだろう」
アレクシアは深くため息をついた。当然だった。
◆
一方、メイドたちの作戦会議は混沌の極みになる。
食堂では、メイドたちが円陣を組んでいた。よくある風景。
「レティが狙われたってことは、レティは重要人物よね」
「つまり、レティを守るために私たちが動くべき」
「そうよ、レティは私たちの仲間だもの!」
「そして閣下の未来の奥様だもの」
「妄想で決めないでください!!」
レティシアは即座に否定した。
「でもさ、レティ。昨日の閣下のレティを守る!!って叫び、あれはもう」
「プロポーズよね」
「プロポーズだわ」
「プロポーズ以外に何があるのよ」
「話を進めすぎ!!」
レティシアは頭を抱えた。
ウォーレスが登場すると火に油を注ぐ結果になる。
ウォーレスが優雅に登場した。
「やあ、みんな朝から元気だね」
「ウォーレス様、聞いてくださいよ。閣下がレティの部屋の前で寝てたんです」
「それはもう恋だね」
(なぜそう言える)
「違います!!」
ウォーレスは微笑んだ。
「でも、レティシア嬢。君が狙われたのは事実だ。君の身を守るために、僕も協力しよう」
「ウォーレス様、ありがとう」
(どうもこの男は信用できんが)
「まずは、レティの護衛を決めよう。候補は」
ウォーレスは指を折りながら言った。
「閣下、アレクシア、ハンナ、僕、メイド全員」
「多すぎます!!」
「じゃあ、閣下だけで」
「もっとダメです!!」
(やはりこの男は信用ならないぞ)
いつもならハンナ、静かに全員を黙らせてきた。今回は。
ハンナが静かに歩いてきた。
「あなたたち、朝から騒ぎすぎです」
その一言で、食堂が静まり返る。
「レティシア。あなたは今日、私と一緒に行動します」
「ハンナさんと?」
「あなたを狙う者がいる以上、私が守ります」
メイドたちがざわめく。
「ハンナさんが動いた!」
「最強の護衛だわ!」
「影でも勝てないわ!」
ウォーレスが小声で言う。
「ハンナが本気なら、王宮の騎士団でも勝てないね」
「ウォーレス様、聞こえてますよ」
「すみません」
ウォーレンは一秒で黙る。
そこへ、ヴィクトールが再び現れた。
「レティはいるか」
「閣下、またですか」
「今日は私の執務室で過ごせ! 危険だからだ」
「執務室で何をするんですか」
「見ている」
「見ているだけですか」
「見ているだけだ」
「仕事します」
その時、アレクシアが割って入る。
「閣下。あなたの見ているだけは信用できません」
「なぜかな、どんな理由があるか聞かせて」
「昨日、レティシアの部屋の前で寝ていたからです」
「違う。あれは見張りだ」
「寝ていました」
「えっと」
メイドたちがざわめく。
「閣下、かわいい」
「寝顔見たかった」
「レティと並んで寝てたら最高だったのに」
「妄想が!!」
◆
第三勢力の影がまさかの事態になっていた。
その頃、屋敷の外では、第三勢力の刺客が、木の上で頭を抱えていた。
「おかしい。昨日はここから侵入したはずだが」
彼は地図を広げた。
「この屋敷、構造が変わっている?」
そう、メイドたちが毎日のように家具を移動するせいで、屋敷の内部構造は日替わりなのだ。
「罠か?」
刺客は真剣に悩んでしまう。なんと迷子になっていた。
◆
レティシアは、ついに限界を迎えることになる。
その日の午後。
レティシアは、廊下の隅で膝を抱えていた。
(私、何でこんなに騒がれてるの?)
第三勢力に狙われ。
伯爵家に狙われ。
王宮に狙われ。
そして屋敷の全員に過保護にされる。
(単に雑用係なのに)
ハンナがそっと隣に座った。
「レティシア。あなたは雑用係である前に、ここで生きる一人の人間です」
「ハンナさん」
「あなたがここにいることを、みんなが喜んでいる。それは、あなたが必要とされている証拠です」
先輩の意見を聞いて、レティシアの胸が温かくなった。
「ありがとうございます」
(先輩、ありがとうです)
◆
一方、公爵は決意を固めていた。
その夜。
ヴィクトール公爵は執務室で拳を握っていた。
「レティを守る。影だろうが王宮だろうが伯爵家だろうが、全員まとめてかかってこい!!」
部屋にいたウォーレスが紅茶を飲みながら言う。
「閣下、声が大きいよ」
「うるさい!!」
「でも、レティの部屋の前で寝るのはやめた方がいいと思う」
「構わないだろう。気にしない」
「メイドたちが写真を撮ろうとしてるから」
「やめさせろ」
「無理」
「注意でもいい」
「無理」
◆
レティシアは、そっと微笑んだ。
(閣下を守りたい。私が影だろうがなんだろうが)




