表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された雑用係の私、公爵様の甘々な求愛に無自覚なまま愛されすぎている件  作者: おーちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/34

1話

第1話 絶望のその先


「もう、十分でしょう?」


 レティシアは、鏡に映る自分へ問いかけた。

 まぶたは腫れ、頬はこけ、大切に育んできた恋心は、泥靴で踏みにじられたように無残だった。

 幼馴染のギルバートにしがみ付いた日、彼は冷たく言い放った。


『君のような執着心の強い女は恐ろしい。彼女の清らかさを見習ったらどうだ』と。


 無実の罪を着せられたにもかかわらず、両親さえ彼女を家門の汚点として扱い、救いの手は差し伸べられなかった。

 長年、人生のほとんどを彼に捧げ、彼の好む淑女であろうと努力し続けた時間は、何だったのか。

 ああ、馬鹿馬鹿しい。

 ぷつり、と。心の奥で何かが弾けた。

 悲しみは一瞬で蒸発し、後に残ったのは、煮えたぎるような虚しさと、執念だった。もう決めたわ。


「お父様、お話があります」


 レティシアは、書斎で青い顔のまま帳簿を眺める父・カシアンの前に立った。

 父は娘の姿を見るなり、びくりと肩を揺らす。


「レ、レティシア。ギルバート殿とのことは、その、運が悪かったとしか」


「いいえ、運の問題ではありませんわ。お父様。私は今日、この瞬間をもってアレン男爵家の令嬢を辞めます」


 カシアンは手にしていたペンを落とした。


「な、何を。破談になったからといって、自暴自棄になるな。別の縁談を」


「縁談? 一度汚名を着せられた男爵令嬢に、まともな話が来るとお思いで? 私はもう、誰かの所有物として品定めされるのは御免です。ですから」


 レティシアは、自慢だった腰までの金髪を、護身用の短剣で迷いなく切り落とした。

 床に散らばる長年の象徴。驚きで口を開閉させる父を、冷え切った瞳で見下ろす。


「私、雑用係になります」


「我が家の使用人として、修行でもするのかい?」


「いいえ。そんな生ぬるい真似はいたしません。黒鉄の獅子ラインハルト公爵家へ奉公に上がります。紹介状はすでに手配済みです」


 父の顔が、土気色を通り越して真っ白になった。

 ラインハルト公爵家。王国の盾であり、冷酷無比な家主が支配する、貴族が最も恐れる処刑人の家系だ。


「な、正気か! あそこは王家の犬と言われるほど厳格な家柄だぞ! 並の令嬢が行けば、三日で精神を病むと言われている!」


「結構なことではありませんか」


 レティシアは、春の陽だまりのようでいて、底冷えする微笑を浮かべた。


「泥水を啜る人生なら、せめて最高級の黄金の器で啜りたいのです。失恋の傷に浸る暇もないほど、地獄のような労働を与えてくださいませ」


「レ、レティシア待ちなさい、相談を」


「お父様、一つだけ忠告です。これからは私のことをレティシアと呼ばないでください。私は今日から、ただの雑用係。さようなら、無力だった私のお父様」


 淑女の礼ではなく、教本で覚えたばかりの使用人の一礼を完璧にこなし、彼女は部屋を去った。

 背中に、長年の未練は一片も残っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ