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【第19話 信用の値】

「……同じに見えるな」


客の一言だった。


坂井新之助は、その言葉を聞いて静かに目を細める。


並べられた米。


見た目だけでは、違いは分かりにくい。


(ここが弱点だ)


品質は違う。


だが——


(伝わらなければ、意味がない)


———


「どうする」


商人の男が問う。


「また混ぜられたら、終わりだぞ」


新之助は、少しだけ考えた。


(守るだけでは、足りない)


ならば——


「分かるようにする」


短く言う。


「……どうやってだ」


「印を付ける」


———


数日後。


新之助は、小さな板を手にしていた。


そこには——


焼き印。


「これが?」


商人が眉をひそめる。


「丹波の印だ」


新之助は言った。


「この印があるものだけを、正式とする」


ざわめきが広がる。


「……そんなので分かるのか」


「分からせる」


静かに言う。


———


市の中央。


人を集める。


「見てくれ」


新之助は、印の付いた袋を掲げた。


「これが、本物だ」


次に、印のないもの。


「これは、保証しない」


ざわめき。


「違いは?」


客が問う。


新之助は答える。


「責任だ」


沈黙。


「この印があるものは——」


一呼吸置く。


「問題があれば、必ず対応する」


空気が変わる。


「……つまり」


「信用を、付ける」


———


数日後。


変化が現れる。


「これ、印あるか?」


客が聞く。


「ああ、ある」


商人が答える。


「じゃあ、それにする」


流れが変わる。


——選ばれる。


———


「……効いてるな」


商人が呟く。


新之助は頷いた。


(見える形にした)


信用を。


———


だが、そのとき。


「……新之助」


役人が近づいてくる。


表情は、硬い。


「問題が出ている」


空気が変わる。


「何だ」


「偽物だ」


沈黙。


「印を真似たものが出回っている」


———


場の空気が、一瞬で冷える。


「……早いな」


商人が吐き捨てる。


「どうする」


問いが飛ぶ。


新之助は、静かに考える。


(予想はしていた)


印は、真似される。


ならば——


(次の段階だ)


「変える」


短く言う。


「……何をだ」


「仕組みを」


———


翌日。


再び人を集める。


「これからは——」


新之助は言った。


「人で保証する」


ざわめき。


「各商人に、責任を持たせる」


「名を出す」


沈黙。


「誰が売ったか、分かるようにする」


空気が変わる。


「逃げられない」


短く言う。


「だから、誤魔化せない」


———


さらに。


「記録を残す」


紙を掲げる。


「いつ、どこから来たか」


「誰が扱ったか」


ざわめきが広がる。


「……面倒だな」


誰かが呟く。


新之助は頷く。


「そうだ」


「だが——」


一歩踏み込む。


「それが、信用になる」


沈黙。


———


数日後。


市場。


客が言う。


「これ、誰のだ?」


商人が答える。


「俺だ」


「なら、買う」


流れが変わる。


——人で選ばれる。


———


夕暮れ。


新之助は、静かに座っていた。


(これで、簡単には崩れない)


仕組みで守る。


信用を。


だが——


(重くなる)


管理が増える。


負担も増える。


そのとき。


「……新之助」


商人が声をかける。


「他藩のやつら、動き変えてきた」


空気が変わる。


「今度は?」


「……人を引き抜いてる」


沈黙。


(なるほど)


新之助は、小さく息を吐く。


(信用の根を、切りに来たか)


視線を上げる。


「……いい」


静かに言う。


「なら——」


その目が、鋭くなる。


「人も、守る」


——戦いは、次の段階へ。


“人材”を巡る争いが始まる。


――続く

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