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【第15話 広がる市場】

「……他の村にも、やらせてほしい」


最初にそう言い出したのは、隣村の男だった。


坂井新之助は、その言葉にゆっくりと顔を上げる。


「見ていたのか」


「ああ」


男は頷く。


「お前たちのやり方で、村が変わった」


沈黙。


「俺たちも……やりたい」


その一言に、周囲がざわつく。


「簡単じゃないぞ」


商人の男が言う。


「人も、物も、足りねえ」


だが——


「それでもだ」


隣村の男は、引かない。


「このままじゃ、先がない」


その目は、本気だった。


———


数日後。


新之助は、隣村にいた。


田は荒れ気味。


人も少ない。


(条件が違う)


自分たちの村とは、明らかに違う。


「どうだ」


男が聞く。


新之助は、少しだけ考えた。


(同じやり方は、使えない)


ならば——


「変える」


短く言う。


「何をだ」


「やり方を」


———


まず、田を見る。


水の流れ。


土の状態。


人の配置。


すべてを確認する。


(優先順位が違う)


「ここは——」


新之助は言った。


「まず、水だ」


ざわめき。


「水?」


「足りていない」


指摘する。


「これでは、何をやっても増えない」


沈黙。


「……確かに」


男が頷く。


———


次に、市場。


だが——


「いきなりはやらない」


新之助は言った。


「え?」


「量が足りない」


短く言う。


「まずは生産を増やす」


「それからだ」


空気が変わる。


(順番が違う)


それだけで、結果は変わる。


———


数週間後。


変化が出始めた。


水路を直し、流れが安定する。


田に人が戻る。


「……増えてきたな」


誰かが呟く。


新之助は頷く。


(基盤はできた)


———


だが、そのとき。


「……問題が出てる」


商人の男が言う。


「何だ」


「運びだ」


空気が変わる。


「距離が長い」


「運ぶのに時間がかかる」


沈黙。


(……そうか)


新之助は理解する。


(広げたことで、別の問題が出た)


規模が大きくなれば——


別の制約が現れる。


「どうする」


問いが投げられる。


新之助は、ゆっくりと答えた。


「拠点を作る」


「……拠点?」


「中継する場所だ」


空気が変わる。


「一度、集める」


「そこから、分ける」


「距離を分割する」


沈黙。


やがて——


「……なるほど」


商人が頷く。


「運びやすくなるな」


———


さらに。


「もう一つ」


新之助は言う。


「人を育てる」


ざわめき。


「任せる」


「全部を自分でやらない」


沈黙。


「各村に、責任者を置く」


「判断させる」


空気が変わる。


(中央だけでは、回らない)


分散させる。


それが——拡張だ。


———


数ヶ月後。


複数の村が、動き出していた。


田は整い。


物は増え。


流通がつながる。


「……すげえな」


誰かが呟く。


「ここまで広がるとは」


新之助は、静かに見ていた。


(形になってきた)


だが——


(まだ脆い)


そのとき。


「……新之助」


声がかかる。


振り向く。


役人が立っていた。


表情は、硬い。


「藩からの呼び出しだ」


空気が変わる。


「何があった」


新之助が問う。


役人は、短く答えた。


「他藩が、動いている」


沈黙。


(……来たか)


小さく息を吐く。


(次の段階だ)


「分かった」


静かに頷く。


視線を上げる。


遠くに広がる田。


動き出した人々。


(ここで止めるわけにはいかない)


「……行く」


その一言で、覚悟は決まった。


——戦いは、藩を越える。


――続く

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