文化祭一日前および頓挫しかける文芸部の企画
「ふむ・・・・・・悪くはないよ」
「ほんと?コウメイ君」
部長席に座った高明が綺月の原稿から顔を上げた。
コウメイというのはあだ名で本名は諸高明という。綺月とともに文芸部に所属する高校一年生、そして文芸部部長である。
あだ名の由来は名前を音読みすると「コウメイ」になるところからだが、その頭脳はコウメイの名に恥じぬ力を秘めている。(新入生テスト学年一位、それもほぼ満点で。これがその頭脳を証明している)
「ただし、」
高明は続ける。
「問題点はいくつもある。例えばこの足跡のトリック。確かにある程度成功はするだろう。しかしこのトリック、雨が止む時間をよほど精密に予測し、その時間にギリギリ氷が溶けるようにしなければならない極めて難しいトリックだ。というか不可能だ」
高明の追求はまだとまらない。
「この体育倉庫のトリックにしても詰めが甘い。戸を固定するためには心張り棒をよほどきつく押し込む必要がある。ただ立てかけてあるものを倒したぐらいではそこまでは入らないと思うよ」
完敗だった。
文芸部誌の売上を伸ばそうと企画した「普段とは違うジャンルの物語を書いてみよう」という企画において、高明のいつも書いている”ミステリー”に挑戦した綺月。一生懸命知恵を絞って考えたのだが、どうにも欠点が多すぎる。こんな話、部誌に乗せられたものではない。
「・・・・・・まあ、そんなに落ち込むなよ。いつもと違うジャンルを書いたんだから、当然だろ?」
紀彰も励まそうとするが、そこに更に高明が追い討ちをかける。
「君も人のことは言えないよ。綺月さんの持ちネタ”ホラーサスペンス”を書いてるけど、こりゃホラーというよりコメディだね。とにかく君のも部誌には載せられるレベルじゃないよ」
持ち込む人間が倍増する。
しかし反論しようにも高明の書いた紀彰の持ちネタ”戦争小説”はどこかの新人賞に出せるほど完成度が高いものだったため、文句がつけられないのだ。
「落ち込んでいる二人には悪いんだけど、今回の企画は先送りできないと思うから。先送りにしたら今度こそ部誌が売れずに部が倒産する。早く手直ししてくれ」
そう言うと高明は部屋を出ていこうとする。
と、そこでなにか思い出したように立ち止まった。
そして振り返ると、
「綺月さん、言い忘れてた。小説に僕らをモデルにした人物を使うのは認める。しかしだとすれば、君の作中の石山先生は名前を変えるべきだ。石山先生はあんなことは決してしてくれないと思うし、もうすでに自分が顧問であることすら忘れてるかもしれないってレベルだから」
バタン、とドアがしまった。




