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「何でお前が屋敷に居るんだー!!」
はぁ、これだからお子ちゃまはダメよね。乙女に対して指さしてワナワナするなんて紳士の風上にもおけませんわ。
「あー、はいはい。ビーフシチュー様さえ食べたら出て行くから気にするな」
肉!!サラ、何ヵ月ぶりかの肉よ!!
ヤターなんぞに構ってる暇など私には無い!
「……お前なんか1人で夜に出たら襲われちゃうぞ」
ん?ライが見えないのかな?
「いや、一応コレと一緒に出てくから大丈夫よ」
「っ!!そうだ!子どもが結婚なんて出来ないんだぞ!そこの男にお前バカそうだから騙されてんだ、しょうがないから僕が叔父に頼んで保護してやる。感謝しろ」
いつも笑顔を絶やさないキャラなんて、誰が言った!どう見てもツンデレキャラじゃん。
「ご遠慮します。ライはこう見えて役に立つし、私達ヘイオーン国へ向かってますのでたんぱく源……じゃなくビーフシチュー様を食べたら出て行くわ」
地雷2号と一緒に居るなんて、破滅まっしぐらじゃん。
「僕の侍女になれば、お菓子食べ放題にしてやるぞ…」
「ヤター坊っちゃま。誠心誠意勤めさせて頂きます」
「ふん。最初から素直に言えば良かったのに」
嬉しそうな地雷2号を見て…………
はっ!!お菓子の誘惑に負けてしまった!なんたる不覚。
「サラはいつも楽しそうだね。勿論サラが残るなら僕も残るよ」
ライがニコニコして私の手を取りギュッと握る。何故かヤターも隣に座り私の手をギュッと握りしめる。
「まだ、サラはお前のモノじゃないからな!!」
「僕がお嫁さんにするって決めたんだから、覆らないよ」
目の前でバチバチ火花が散っているが、考えて頂きたい。地雷1号、2号と果たして付き合えるのか?答えはNOだ!
「私はアンタ達二人のモノにはならないよ?なーにが好きこのんで地雷の嫁にならなきゃいけないのさ」
ガーン……そんな効果音が聞こえてきそうな顔をする二人から手を引っこ抜き、ビーフシチュー様の登場を待つ。
「おや?いつの間に、そんな仲良しになったのかな?」
現れたのはヤターの叔父さんで、ノリーさんだ。
「ビーフシチュー様を頂けるなんて、何とお礼を言えば良いか。本当にありがとうございます」
満面の笑みでお礼を言えば、ククッと笑うノリーさん。
「叔父さん。サラを僕の侍女にした!いいでしょ?」
お菓子食べ放題に釣られたとは言え、ヤターが地雷2号なのは変わり無いんだよね。さて、お菓子を取るか命を取るか……
「それは良いね。兄貴には言っておくよ、サラちゃんもヤターの事宜しくね」
確かスゲー人が言ってた。口は災いのもと。お菓子に釣られたバカ者はかくして、ヤターの侍女になってしまった。
******
坊っちゃんの部屋へ向かう途中。隣に居るライへ聞いた。
「ヘイオーンまで3日って言ったのに、嘘付いたわね」
ヘラヘラしながら此方を見るライは、本当に見た目だけは完璧。
「いやー。面白い気配がしたからね」
……うん。信じた私が悪かった。
部屋へ入ると、着替えを終えた坊っちゃんが私の姿を確認すると、不意に聞いてきた。
「サラって、魔術を使えるの?」
うーん。そもそも小説では魔力量が多いって書いてあったから、今から鍛えれば破滅フラグをバッキンバキンに折れるんじゃなかろうか?
「ヤター坊っちゃん。教えて下さい」
悪役令嬢(小説ヒロイン)もヤターに魔術を教えて貰ってたし、教え方は上手いはず。
「まだ、人に教えられるまで僕も上手く無いし、そして坊っちゃんは止めてヤターって呼んでよ!」
初日からしつこく言ってくるけど侍女が呼べる訳ないじゃん。
「ムリです。坊っちゃん」
「ヤターもめげないねー」
ケタケタ笑っているのはライ。ヤターの専属執事になった。
「ライはちゃんとヤター様って呼べよ!なんで呼び捨てするんだ」
始まった。この地雷1号2号は、暇さえあればじゃれて遊んでる。それでも執事の仕事はきっちりこなしているから、屋敷のみんなは何も言わない。てか、友達が出来たと喜んでいる節すらある。
「ふむ。では、坊っちゃんは誰に教わってるのでしょうか?」
「叔父さんだよ。僕は魔力量が少ないから、父上は僕より弟の方が大切なんだ…」
シュンとするけど、ライはニタニタ笑っている。こそっと私へ耳打ちした内容に心の中はパニック。
『サラが殴ったおかげで、ヤターの魔力回路が正常になってるよ。聖女の力は偉大だね』
何?その裏設定。作者もしかして私がお亡くなりになった後で小説再開していませんか?
もしかして流行りのifストーリー?
「だから、僕がサラへ教える事はムリなんだ。10歳の時にサラも調べた?」
ムムっと思考の旅に出ていたけど、肩をゆさゆさされて舞い戻ってきたぜ。
「んにゃ。調べてないし調べる予定も他人に指図されるのも、もっと言えばさっさと攻撃魔術と身を守る魔術とケガしてもパッパと治せる癒し魔術と逃げ足がものすっげぇ早くなる身体強化を軽く教えて欲しいですね。あ!あと…」
「わ、分かったから!!サラも叔父さんから習うと良い。僕と一緒なら侍女としても大丈夫だよね」
地雷2号、おぬし中々やりおる。誉めてつかわすのじゃー。
この有難い申し出のおかげで、私もノリー様から教えて頂けるようになった。
「サラは筋が良いね。身体も鍛えてたのかな?」
初級魔術を淡々とこなしている私に微笑まれるノリー様は、一族でも過去最高レベルの魔力量と技術があり。ヤターがココに来たのも魔力量が少ないヤターでも魔術を使えるようにする為なんだって。
「ヤターもう一度、魔力検査をした方が良さそうだ。兄貴から聞いていた以上の魔力を感じる」
「本当ですか!?僕はお荷物じゃ無くなるんでしょうか!」
ヤターの言葉にノリー様が、怒りとも悲しみとも取れる微妙な顔をしたが、見事なアッパーをやっちまった身としては、喜ぶべきか知らん顔するべきか悩む。
「おい!今の話。聞いたか!?僕はライより強くなって、サラを奴から救ってやるからな!」
…………うん。黙ってる事に決定。
あんなにも嬉しそうな顔をされちゃったら、殴って良かったと思う。しかーし!
「ライとも坊ちゃんとも、私は結婚しませんよ。モブなら考えても良いですが、ガッツリ地雷との恋愛なんて恐ろし過ぎ」
ガクブルである。そして地雷2号が王都へ帰るまでとノリー様と約束してあるし、地雷達とおさらばすれば私の命は救われる……はずだ!
「サラってたまに変な事を言うよね。僕の事を地雷2号って呼ぶし、ライの事は地雷1号だっけ?」
うーん。と悩み出したから、練習中の水の中級魔術をライとヤターへぶつけた。
「サラちゃん。完全に当てに来たでしょう」
「サラはもう中級が出来るんだ!!」
ノリー様の鑑定で、私は水魔術に適正があるらしい。今ぶつけたのは杖から大量の水を出して相手を水浸しにする技だ。
「二人共、その位で倒れないでしょ。それより駄々漏れの色気で屋敷のメイドさん達が次々倒れてンぞ」
水浸しなのにニコニコ笑っているヤターは嬉しそうな顔をして。
髪をかき上げ、水に濡れたシャツを脱ごうとするライに、思わずドキドキするのは気のせいだ。