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来年、お母さん死んじゃうじゃん。
原因何だったか書いてなかったよね。とりあえず今は病気もしてないし、出来れば長生きして欲しいけど、11歳の私が出来る事って少ない訳で……
「サラ、なぁサラちゃーん」
「うっさい!黙れ精霊王、何でシレーっと家に居るのさ!」
あれから母に見えない事を逆手に取り、家に居着いた精霊王。タヌキは森へ帰って行ったけど、やっぱり育ち盛りにはたんぱく源が必要な訳で、泣く泣く後ろ姿を見送った。
「じゃあ、仕事に行ってくるわね」
お針子をしている母が仕事へ行くと私は教会で文字や歴史を勉強しに行く。
16歳で有名なフォーチューン学園へ入学出来るのは、確か魔力検査で聖女の素質ありって話だった。
普通は10歳で受ける魔力検査なのに、私は受けてなかったわ。うーん……
教会へ向かって歩きながら考えていたら、母が私の魔力検査を拒否したんだった。理由を聞いても教えてくれなかったけど、必ずしも受けなきゃいけないって事は無いから気にもしてこなかったけど。
「サラさん。今日は難しい顔をしてますね?」
ゲッ!ベビーイ神官!
「何でもありません。そして母に近付かないで下さい」
美人な母にぞっこんなベビーイ神官は、娘の私を懐柔しようとしてる。母はのほほんとしてるから、まさかベビーイ神官に狙われているとは夢にも思って無い。でもさ、良く良く考えると母が病気になった場合。ベビーイ神官なら全力で治そうとしてくれるよね?
「ベビーイ神官!私の父親になって!」
「サラさん!!やっと認めて下さったのですか!今すぐバーダさんにプロポーズしてきます!」
満面の笑みで走り去るベビーイ神官へ、大きく手を振りお見送りした。
ヨッシャー!!これで一先ず母の事は良し!
ベビーイ神官が居ないなら勉強も無い。来た道を引き返しながら、次は自分の事を考える。
今11歳だから5年後かー。他国へ逃亡?それとも逆に悪役令嬢に近寄らずこのまま流れに身を任す?
そうじゃん。あの精霊王に頼んで無人島生活……はっ!精霊王に頼んだ時点で倒されるフラグがバンバン立ちまくりじゃん。ふぅ、危ない。
家に帰ると、精霊王は私のベッドの上でゴロゴロしていた。
「精霊王って暇なの?」
見た目は良い。それは認めよう、しかし別に彼氏でも無いし、家族でも無い……人間ですら無いね。しかも精霊王じゃなく私にとっては地雷王だし。
「最近は、精霊を見る事が出来る人間も減ったから。動物達は我らに何か望む事もしない、だから暇」
「そうなんだ。へぇー、しかーし!私は精霊王が見えても何も望まないし、いっそ早く帰れと思ってんだけどね」
ゴロゴロしてたのが、ピタッと止まってびっくりマナコで私を凝視する。
「本当にそう思ってる?」
「うん本心。だってさ、精霊に頼っても結局は自分がどうしたいかを考えて動かなきゃダメじゃん」
パァーっと視界が開けた気がする。そうだ、自分で動かなきゃダメ!
そうと決まれば早速、家出の準備しよう。着替えをカバンへ詰め込み母が帰って来る前にレッツゴー!
『お母さんへ、ベビーイ神官とお幸せに。私を探さないで下さい。サラ』
書き置きを残して意気揚々と扉を開けた。澄みきった青空に気持ち良い風が吹き抜ける。
行ってきまーす!
テクテク歩きながら、次をどうするかを考えていると、悪役令嬢(小説ヒロイン)が魔術を使おうとした時、イメージが大切って書いてあったわ。
こちとら、イメージならわんさか沸きまくり。とりあえず隣国ヘイオーンを目指した。
******
「サラちゃーん。ねぇ何処へ行くの?」
何故だ?地雷王が何故着いて来る?
「もう、そんな態度をするなら僕の加護を「要りません!断固拒否します。もう、何なんですか?私は自分の運命を切り開きしぶとく生き延びて、ばぁさんになって孫とひ孫と玄孫に囲まれるまで生きる予定なんです!
その為には、この国とはスッパリキッパリおさらばしなきゃならないの。それなのに地雷王と一緒、しかも今は誰も周りに居ないから大丈夫だけど、1人で話続ける不審者1号になる危険を背負ってしまうのよ、だから自分のお家へお帰り下さい」
どうだ!私の計画に地雷王は必要無い!
「なーんだ。そんな事を気にしてたんだ」
ふふーん。と鼻歌混じりに言う地雷王は、ピカッと光り……そうきたか!
「どう?これなら不審者1号にならないでしょ?」
薄い緑色の長い髪は短くなり、深い緑色の瞳はそのままの美少年に変わった。
「そうまでして、着いてきたいの?」
「だってサラちゃん、面白いもん。僕が居れば旅も楽になるよ?しかも加護は嫌がるから、今はしないけど夜になれば野生動物に襲われそうになったら助けてあげる」
ニコニコ話す地雷王に、暫し考えた結果。確かに野宿予定だから野生動物に襲われ無いのは有難い。
「しょうがない。同行を許そう!」
「楽しみだね、僕に名前付けてよ。僕は精霊王って呼んで貰っても良いけど」
「ライにしよう。地雷のライ!我ながら飛び抜けたセンス」
「分かった!ライね。良い名前だねサラ」
一瞬ニタァと笑ったように見えたけど気のせいだよね?実体化したライは私の手を握り森の中をずんずん進む。
途中、野草を摘みながら歩いていたから今夜も野草スープは食べられる。暗くなる前に木の枝を集めてマッチで火を点けると家から持ってきた鍋で野草を煮て食べた。
「ライも食べる?」
「うん。食べ物って初めての体験」
器が1つしか無い為。交互にスープを飲むと、ライは食べられる事が楽しいみたいで、本当の子どもみたいにはしゃいでいた。
「火の番はしてるからサラは寝て良いよ」
ライの提案に歩き疲れたのか頷いて、私はカバンを枕にして爆睡しちまった。
お、重い……
腰にガッツリ回る腕、足も片足がドーンと乗っている。私を抱き枕状態にしているライから静かな寝息が聞こえた。
火の番はどーなった?
「起きろ!地雷王!」
バシバシ腕を叩くと、ムニャと口をモゴモゴさせてやっと解放。コヤツ見た目だけは良いから、少しドキドキしたわ。
「サラ。おはよう、もう少しだけ一緒に寝て」
上半身をやっと起こした私はライの胸にそのままポスンと引き寄せられ身動きが出来なくなった。
もういいや、寝てやる。
意外とライの胸の中は居心地が良かったのは、きっと私の気のせい。