7 ふたりでお買い物なんて金輪際ありえませんわ!
楽しい(?)買い物は終わり、変装から元の淑女に戻ったヒロインは、決意も新たに宣言するのだった。
南方辺境伯のタウンハウスへ戻って。
お湯を浴びさせていただいて、変装を全部落としてようやくいつもの淑女の中の淑女に戻れましたわ。
殿下は影の方達が連れ帰ってくれましたわ。
影の方々には慕われているようですから心配ありませんわね。
出されたお茶を飲んで人心地ついていると。
テーブルの反対側へマレーネがどっかりと座り。
「で、どうだった? 買い物たのしかった?」
そのニヤニヤ笑いやめて欲しいですわ。
わたくしは、ツンと済まして。
「楽しいも何もありませんわ。
唯一、良かったことは、わたくしがたまたま一緒だったおかげで、ゲテモノを贈られずに済んだことだけですわ。
買わずに済んで良かったですわ。全く、さんざんなお忍びでしたわ。二度としませんわ」
破廉恥な装束を着せられて。
模造品だらけで安物揃いの店で買い物をするはめになり。
殿下に恥ずかしい柔肌を見られ。
淑女らしくもなくいきなり逃げだし。
暴漢に襲われかけ。
目の前で殿下が気絶なさるとか!
事実を並べると最悪でしたわ。
花瓶がいきなりしゃべりましたわ。
「ちなみにこれが、お二人でお選びになったアクセサリーです。
代わりに購入させていただきました。
些少ですが、日頃、よくしていただいている影一同からの感謝の印です」
「なっ」
余計なことを! いえ、親切だと判っておりますけど。よ、余計ですわ!
後で人をやって買ってこさせるつもりでしたのに!
「へぇ。うちの故郷のヤツだな。
ほら、似た細工をオレもつけてる。故郷を思い出せるからな」
確かに彼女の襟元にも、別の種類の花をモチーフにしたブローチが飾られていますわね。
彼女は蛮人なので、その装飾品なんて気にしたことありませんでしたわ。
ですが、これもいい品ですわね。
「つけてやろうか。殿下につけて欲しいんだろうが、オレで我慢しておけ」
「自分でつけますわっ!」
わたくしは、ひったくるようにブローチを奪うと、自分で襟元へつけましたわ。
貰ったのにつけないわけにはいきませんもの。
「ほい」
彼女が、わたくしの前に手鏡を差し出してくれます。
「……」
いいですわ。
これなら学園につけていっても恥ずかしくありませんわ。
「うれしそうじゃねぇか」
「ですね。お嬢様が乙女になっています」
わたくしはニヤニヤ笑いを浮かべているマレーネと、語尾に笑いがついている見えない影の方を睨みましたわ。
「か、勝手に勘違いして欲しくないですわ!
べ、別にふたりで初めて出かけた記念とかだからつけようと思っているわけじゃありませんわ!
わたくしが、もの凄い数のダメでアレなアクセサリーの中から選んだから愛着が湧いただけでですわ!」
ニヤニヤ笑いの彼女は肩をすくめて。
「自分で選んだいい感じのアクセサリーつけて、うれしそうだなって思っただけだぜ」
見えない彼女は、平然と。
「はい、とてもいい感じに似合っています」
なんなんですの。全くなんなんですの。
「そ、それは当然ですわ! わたくしが選んだのですもの!
それだけなんですから、ニヤニヤしないでくださいませんか!?」
マレーネはニヤニヤと笑ったまま。
「で、今度はどんな変装してくんだ?」
「二度としませんわよ!」
「次もうまくやります。根回しはバッチリですから」
「根回しなんかいりませんわ!」
ああ、もう!
金輪際、殿下と買い物なんかしませんわ!
そもそも今日のことだって、殿下が余りにセンスが悪いので、どんな風にお買い物をなさっているのかを見物に行っただけですもの! 一緒に買い物したわけじゃありませんわ!
もうたっぷり見物しましたから十分ですわ!
これから先、ふたりでお買い物なんて絶対絶対ありえないんですからね!
第七話です。最後です。シリーズの連作なので。このお話はこれで完結です。
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この作品は「わたくしの婚約者殿は無能ですが、たったひとつのことだけは有能です」を書いたあとで、「ふたりは結局、買い物にいったんだろうか……」と考えて思いついた話です。