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第38話

 魔導工学科を専攻している生徒は20名。ほとんどが男子生徒だ。

 オレがいたときよりは若干増えている。

 魔導具技師は特許取得することができれば将来は安泰だからね。

 志望する生徒も増えてきているんじゃないだろうか。


 魔導工学科の授業をはじめる。

 見た感じ、大人しそうな子どもが多い。

 ときおり交える冗談で笑ってくれるが、いまいちノリが悪い。

 オレは一方通行の授業なんてしたくないんだ。

 何らかの反応が欲しい。

 ちょっと生徒からは嫌われるかもしれないが、無作為に生徒を指名して答えてもらうようにしよう。

 答えてもらう内容は簡単なモノ。

 できれば正解のない、感想のようなモノにする。


「まず、全員に聞きたい。魔導具を作るときに大切なモノってなんだ?さ、端から順番に聞いていくぞ」


 しぶしぶ答える子、当てられてから悩む子、自信なさげに答える子…。

 そんな子たちばかりだったが、意外とちゃんと答えが返ってきた。

 道具、環境、時間、発想、思い、目的…。

 まあ、この質問に正しい答えなんかないんだけど。

 もちろん答えた生徒全員褒める。

 そして絶対に否定はしない。

 大切なのは、生徒全員が魔導工学に、魔導具制作に自信を持ってもらうことなんだ。


 講師からの一方的に教えるのではだめだ。

 生徒自らが“知りたい”と本気で思い、前のめりになってくれないと。

 だから講師と生徒との距離をどんどん縮めていく。

 どんどん意見を言ってもらう。どんどん質問してもらう。

 今は間違ってもいい。いや今はどんどん間違うべきだ。

 そこから成功につながる道を見つければいい。


 …なんてことを考えながら授業していたら、生徒がどんどん懐いてきた。

 授業3日目にして魔導工学科クラス全員と仲良くなっているのを見たナーセル先生は、なぜかオレのことをショタキラーとか何とか言って羨ましそうにしていた。




 家に帰るとミカゲ、アイナ、ムツミがよく学校のことを聞いてくる。

 ミカゲは小学校以降、学校には通えていなかったから憧れがあるんだろう。

 ムツミはそもそも学校を知らないから興味津々なんだろう。

 アイナは…


「バスジャック事件のときにあった女の子、まだ見つけていないの?学院にいるはずなんだけど」

「聞いた特徴が、茶髪でツーサイドアップ、身長130センチくらいってだけだよ?そんな女の子いっぱいいるわ!自己紹介されたのにアイナが名前覚えていないのが悪い。失礼だぞ」

「仕方ないじゃない。あのあとすぐにお兄ぃが来てくれたので、うれしさのあまり頭の中から消えてしまったのよ!あたしだって悪いと思っているわ。でも思い出せないんだもの…」

「でもなんでそんなに会ってみたいんだ?そこまで親しい仲じゃないんだろ?」

「アリスくん、そこはアレだよ。『お姉ちゃん』って言われたことがうれしかったみたいなんだよう」

「ミカゲっ!何バラしてんのよ!」


 末っ子だったもんな。

 お姉ちゃんと言うことはあっても言われることはなかった。

 せいぜい男性冒険者が代名詞として言ってくれるくらいだ。


「まあ、話す機会があったら声かけてみるので気長に待ってくれ」

「お願いします…」


「話は変わるけど、学院にアリスくん好みの女の子いた?」

「・・・あ…。今気づいた。オレ、学院にいるのに女の子と一言もしゃべっていないや…。女性は先生だけ…。なんでオレの周りは男の子ばかりになるんだよ…。なんで在学中のときと同じようになっているんだよ…」

「やっぱりアリスくんってショタ好きなの?」

「ちゃうわっ!」

「じゃあホm…」

「んなワケねーよっ!!」

「お兄ぃって、むかしから男には人気あったもんね。よく遊びに行くの誘われてたじゃない」

「アリスくんって、実は総受けだったんだ…。読み間違えていたよ…。リバしたら大炎上…。今さら変更できないよう…」

「ミカゲさん?違うからねっ!」




 学院内はある話題で盛り上がっていた。

 今年度入学してきた生徒の一人が飛び抜けて優秀で、第一学年、第二学年の基礎課程を修了。

 第三学年への進級試験も余裕で合格点をたたき出したらしい。

 しかもその生徒は有名な魔導具技師の子どもと発覚。

 職員会議でもその話題が取り上げられていた。

 優秀な人間をこのまま2年間基礎課程を学ばせるのは時間の無駄。

 飛び級させて専攻学科のある第三学年からスタートさせることになるらしい。

 まだ入学して1週間。

 ようやく人間関係が構築されてきた矢先に編入することになるのか…。

 第一学年といえば10歳くらいだろ?大変だよな。

 しかし有名な魔導具技師の子どもか。

 誰なのか気になるけど、この世界にも個人情報保護法みたいなのがあって、本人が公言しない限り教えられることはない。

 オレも話を聞いてみたいな。できれば紹介してほしいくらいだ。


 職員会議はそれだけでは終わらなかった。

 他にも議題があったのだ。

 ナーセル先生から近づくなと注意を受けていた魔導学術研究棟の特別資料室のあたりで不審者らしき影と誰かがいた痕跡があったそうだ。

 もちろん警備体制を強化し衛士の方にも来てもらうが、職員の方も当直で警戒にあたることになった。


「大変なことが立て続けに起こるわね。特別資料室に入ったら犯人は極刑なのよ。あそこは門外不出の禁書扱いのモノもあるらしいからね。どんなモノかは知らないけど」

「入っただけで極刑ですか…。禁書の中身を見てしまったら…」

「問答無用で死罪でしょうね。見つけ次第、殺してでも取り押さえろって王国から通達が来ているらしいわ」

「怖いね…。オレは近寄ることすらしないでおこうかと思います」

「いい心がけだけど、それはムリっぽいわね。アリス君は若いからすぐ宿直当番に加わるから、見回りで何度も行かないといけなくなると思うわ」

「うへぇ~。臨時講師でも特別扱いはナシですか…」


 さっそく明日の宿直当番に抜擢されてしまった。

 ま、見回りくらいなら問題ないだろう。


「ナーセル先生は宿直当番はないんですか?」

「私は私で大変なのよ。第一学年から第三学年に飛び級してくる生徒の受け入れとかを担当しているからね」

「あ、そっちのほうが面倒くさそうだ。ナーセル先生、頑張ってくださいね!」

「アリス君、手伝ってくれてもいいわよ」



 翌日、ナーセル先生に呼ばれた。


「アリス君、飛び級してきた生徒さんだけど、専攻は魔導工学なのよ」

「ああ。やっぱりですか。親が有名な魔導具技師と聞いていたんでね。そう来ると思っていましたよ」

「そ。だから共通過程の授業が終わったら一緒に連れて行ってほしいのよ。お願いね」

「わかりました。またそのころにこちらにお伺いさせてもらいますね」


 10歳で12歳くらいの知識を持っていることはやっぱり将来に向けて大きなアドバンテージになる。

 オレだって早くから魔導具制作してきたからこそ、卒業後すぐに魔導具技師としてデビューできたところもあるからね。

 でも魔導工学の授業を受けるのはわかるんだが、同時に冒険学科の授業も専攻しているのはなぜだろう。

 時間割は被っていないから問題はないだろうが…。

 二足の草鞋はけっこうしんどいぞ。

 現在魔導具技師と冒険者の両立しているオレが言うんだ。

 オレの場合は貯金がそこそこあって、雇われる生き方、時間に縛られる生き方をしていないことが大きい。

 自分の好きな時に冒険者として素材集め、アイデアが出てきたときに魔導具制作。

 考えてみれば、新しい人生を自由気ままに謳歌しているな。


 さていよいよ将来有望視されている天才児とご対面。

 ナーセル先生と一緒に現れたのは、幼女だった。

 栗色の髪のなかなかかわいい幼女だ。

 ゼルが見たら何らかの反応を示すに違いない。


「初めまして。魔導工学科の臨時講師をしているアリスt…」


 ん?このツーサイドアップの髪、身長130センチくらいのかわいらしい幼女。

 アイナが言っていた女の子の特徴と合致しているな。

 念のため聞いてみるか。


「もしかして君は先日の魔導車襲撃事件のときに居合わせていた女の子かい?」

「初めまして、アリス…先生?おっしゃる通りその魔導車に乗り合わせていましたが、なぜご存じなのですか?」

「あ…。いやウチのアイナがそのときお世話になったらしくてね。学院に入学すると聞いていたから、もし出会えたら『いつでも遊びに来てね』って伝えてほしいって言われていたんだ」

「アイナさん…。あのときのお姉ちゃんだ!じゃあアリス先生はお姉ちゃんのお兄様なんですね!」

「ま、まあ…そういう感じと言えばそうなのかもしれないな」

「なんかはっきりしない答えですね。私は“ユーファ”と言います。これからよろしくお願いしますね。アリス先生!」


 ん?ユーファ?

 ユーファと言えば…


「もしかしてユーファさんのフルネームは、“ユーファ・スパーダ”であってる?兄にキーノと…」

「ご存じでしたか。キーノは私のお兄様です」

「オレはアリs…」

「アリス先生!そろそろ時間です!」

「え…、あ、はい」


 ユーファ。

 オレの血のつながったほうの実の妹じゃないか!

 こんなところで会えるとは思っていなかったのでビックリ。

 おかげで自分が兄だと名乗り出るタイミングを逸してしまったよ。


 魔導工学科の生徒たちにユーファを紹介した。

 瞬く間に大人気。

 12~14歳の多感な男の子の中に、かわいい10歳の女の子が入ってきたんだ。

 そりゃ誰でも興味湧いてくるわな。

 授業が終わった後もユーファの周りには人だかりができている。

 ユーファのことはもちろん、父の“ゲンセン”のことを聞いているようだ。

 親父よ。実は有名な魔導具技師だったんだね。

 オレ、実の息子なのに初めて知ったよ。


 ユーファに兄であることを打ち明けたいのに、なかなかその機会が訪れない。

 学院寮で待ち伏せするわけにもいかないし、今日は宿直当番だ。

 仕方ない。次の機会を待つとするか。



 ユーファのことはひとまず棚上げ。

 今は宿直当番のことだ。

 警備を担当している衛士さんは敷地外からの侵入対策がメイン。

 一応敷地内の警備も行っているが、学院から許可されたルートでの巡回になっている。

 敷地内警備の衛士さんたちが回れない時間帯や場所を警備するのが宿直の仕事だ。

 もちろん不審者が出たり危険が迫ってきたときは警笛で衛士の応援を呼ぶことになっている。

 でも、オレ冒険者なのよね。

 多少のことなら自分でも対処できることもありそうだ。

 それに今日は気合が入っている。

 そう!カッコいい忍者服の実戦投入だ。

 人前で着るのが恥ずかしいので着る機会がないと思っていたのに、今回は一人だけの宿直。夜間の見回り。

 この機会を逃したら二度と着る機会はなくなるんじゃないかと思う。

 ミカゲも言っていたっけ。『コスプレは身も心も強くする鎧だ』って。

 本当にカッコいい服を着ると、なんだか自分が強くなったような気がするんだよな。


 ってことで忍者服着用!

 そういえば和服のミカゲ、巫女服のアイナ、忍者のオレ…ってくればムツミは何にしようかな。

 ここまで揃ってしまったら、和のテイストは外せない。帰ったら相談してみるか。


 オレは打刀の『イトウさん』を腰に差し、巡回に回ることにする。

 今は講師じゃないのでいつもの魔導ゴーグルで、暗視モード+魔力可視モード+魔力探知モード+索敵モードの常時発動。

 忍者セットには標準装備の物理攻撃・魔法攻撃耐性、防塵・防刃・防汚機能はもちろんのこと、シノビらしく隠密性に特化した外部からの魔力波をごまかす機能も付与してある。

 魔力探知も索敵も魔力波をソナーのように飛ばし感知しているんだ。

 それを防ぐのではなく、掻い潜ることで見つからないようにする。

 要するにオレは侵入者を見付けることができるが、侵入者はオレの存在に気付かない。

 また、気配を消す魔導具や消音機能の魔導具も用意してある。

 完全に忍者だね。


 忍者気分で巡回開始!どろん。

 校舎内、異常なし。

 専門教室棟、異常なし。

 訓練場、異常なし。

 魔導学術研究棟、異常なし。

 特別資料室、異常あり。

 ふぅ。

 今日の巡回はこんなものかな…って“特別資料室、異常あり”じゃん!?


 魔力感知モードで詳細を見てみれば異常な数値を出している。

 こんな数値を出せるヤツって一人しか心当たりがない。

 もちろん“大魔法士”のチートを失ったアイナではない。

 こいつは…

 冒険学科の生徒、自称最強の来訪者“ジンガ・ナカヤマ”だ。

 

 

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