一.プロローグ
紅い月の下、砂の道を少女がひとり歩いていた。
頭に黄色いドットのナイトキャップを被り、薄緑色の寝間着を着ている。
足取りはどこかおぼつかなく、ヒタヒタと小さな裸足が砂の道に足跡を残していた。
ぼんやりと開かれた黒い瞳は1点を見つめている。
彼女の前には、ぎこちない動きで足を踏み出すブリキのサルの人形がいた。
やや傾きながら片足を引きずるようにして歩くサルは、時折手にしたタンバリンを叩いている。
「キーちゃん、どこ行くの?」
少女の虚ろな声が響く。
ギッコン……ギッコン……
サルは答えることなく前を進んでいたが、不意に糸が切れたように地面に崩れた。
「キーちゃん……?」
彼女はサルの人形を恐る恐る抱き上げた。
塗装の剥がれかけたサルの顔を紅い光が照らす。
顔を上げた少女は思わず息を呑んだ。
「ここ、どこ……?」
小さな声は闇に吸い込まれていった。
目の前には紅い月を背に、古びた煉瓦作りの洋館が建っていた。
不意に目の前にそびえる黒く大きな門がゆっくりと開いた。
白い石の敷き詰められた道が洋館に続いている。
踏み出した裸足に石の冷たさが伝わってくる。
ガシャン――
背後の大きな音に驚いて少女は振り返った。
いつの間にか門が固く閉ざされている。
慌てて門に駆け寄り、格子を掴んで引っ張ってみるがびくともしない。
その時、玄関の木造りの扉が軋みながらひとりでに開いた。
中から温かい橙色の光が溢れてきている。
鼻をくすぐる甘く香ばしい香りに少女は吸い寄せられるように中へ足を踏み入れた。




