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天上人  作者: 鬼木 有葉
第三章 帰郷
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十.エピローグ

黒いブーツが(くすぶ)る煙を()みつけた。

固い靴音(くつおと)()()げた広間に響く。

死骸(しがい)に群がっていた屍食鬼(ししょくき)が雲を散らすように()げていった。


「ククク……随分(ずいぶん)(あば)れてくれたじゃないか……」


仮面の下からくぐもった笑い声が()れた。

ゾルダークは暗がりから現れた部下に顔を向けた。


「……例のものは?」


「全ては我が君の(おお)せの通り、こちらに」


ゾルダークは部下に続いて歩き始めた。

獄焔(ひとやのほむら)は白い石づくりの広間を容赦(ようしゃ)なく()()くしたようだ。

あちらこちらに()げついた瓦礫(がれき)の山が見える。

その隙間(すきま)から無数の黄色い目が(のぞ)いていた。

恐らく好奇心旺盛(こうきしんおうせい)屍食鬼(ししょくき)だろう。

自分を(おそ)れて姿を隠してはいるものの、これから何が起こるのか見物せずにはいられないようだ。


前を行く男の足が止まった。

足元に赤黒い血溜(ちだ)まりができている。

ゾルダークは(ひざまず)くと血に()まった矢を拾い上げた。

手袋を(はず)し、矢尻(やじり)から先端を青白い指でなぞる。

矢から血が(したた)り落ちた。

ゾルダークは血のついた(おのれ)の指を満足気に見つめ、血溜(ちだ)まりに小瓶(こびん)をつけて何滴(なんてき)(すく)()った。

しばらく(もてあそ)んでいた矢を無造作(むぞうさ)に放り、ゆっくりと立ち上がる。


「……よくやった」


男は上気(じょうき)した声で礼を言った。


「あ、ありがとうございます!」


「クククク……そうだ、褒美(ほうび)に良いものを見せてやろう。お前のパワーストーンを寄越(よこ)せ」


男は差し出されたゾルダークの手の上に(うやうや)しく自分の石を乗せた。

赤い石が青白い手の上でぼんやりと光を放った。

ゾルダークは石を手の上で転がしていたが、不意に男の首元に細い指を()きつけた。


「我が……君……」


男は()(しぼ)るような声を出すと、仰向(あおむ)けに倒れた。

顔から()()()せ、(くちびる)は青紫色に()まっている。

ガックリと()れた首に黒い(あざ)が広がっていた。

ゾルダークはゆっくりと手を下ろした。

握られた石には大きくヒビが入っている。


「お前の石では俺の力に()えきれなかったようだな」


カンッ――

男の石が軽い音を立てて地面に落ちた。

ゾルダークは破片(はへん)となって転がっている石を粉々になるまで(くつ)でねじり(つぶ)した。

そしてマントの下に手を入れた。

彼の手の上では透き通った石が鈍い光を放っていた。


「なかなか大変だったよ。俺に見合う石を手に入れるのは……」


低く呟いて石を(ふところ)(もど)し、動かなくなっている男を無造作(むぞうさ)に踏みつける。


「食え。腹が減っただろう?」


ゾルダークの静かな声が響いた。


だが、広間は静まりかえったままだ。

彼は近くの瓦礫(がれき)の山に近づいて腕を振った。

瓦礫(がれき)が一瞬で粉々になり、隠れていた屍食鬼(ししょくき)後退(あとずさ)りしてゾルダークを見上げた。


「……食え」


声が再び響き、屍食鬼(ししょくき)の黄色い瞳が(おび)えたように(ふる)えた。

ゾルダークはそれに満足気に(うなず)くと、背を向けて歩き出した。


しばらくすると1匹、また1匹、と屍食鬼(ししょくき)が男の亡骸(なきがら)に近づいていった。

1匹が肉片(にくへん)をちぎったのを皮切りに、他のところに隠れていた屍食鬼(ししょくき)たちも群がって死肉を(あさ)りはじめた。

ゾルダークは肩ごしにその様子を見やると細く笑った。

魔界の生物を統率(とうそつ)することなど容易(たやす)い。

恐怖と少しの褒美(ほうび)を与えれば良いのだから……


宙に放られた小瓶(こびん)の中で赤黒い飛沫(ひまつ)がガラスを(おお)った。

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