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天上人  作者: 鬼木 有葉
最終章 最期の王
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九.エピローグ

それから間もなく、各地で黄金色(こがねいろ)の小さな動物の目撃情報が寄せられるようになると共に、ラナン・エリオットの名は偉大な冒険家として天上界中(せかいじゅう)に知れ渡るようになった。

それを()に、僕らの隊は事実上解散し、皆、それぞれの道を歩んで行くことになった。


グロリオと結ばれたアキレアは幼い頃から憧れていた集声使(しゅうせいし)として地上界(ちじょうかい)を飛び回り、契約主となる人たちの願いの声を集めて回っている。

アイリスは自分が育った木の領域の貧民街(ひんみんがい)に戻り、そこで暮らす子どもたちの支援を始めた。

ランジアとハイドは検察官として事件や不正を犯した人の捜査(そうさ)に携わっているそうだ。

事物の過去や未来の視えるランジアと物の記憶を映像として再現できるハイドにぴったりの仕事だと僕は思う。


さて。

僕をはじめグロリオやライなど城で働いている仲間もいる。

グロリオは今は新入生の任務隊の監督官(かんとくかん)を務めている。

ゆくゆくはレーチェス家の役目である火の王の側近として領域に戻ることになっているみたいだけど、火の王から今は色々なことを経験しておけと言われているそうだ。

ライは、お兄さんのアルフレッドさんと共に病棟(びょうとう)で患者の面倒を見ている。

元々、才能があったライが優れた医者として知られるようになったのは言うまでもなく……


書いている途中で、視界が(さえぎ)られた。

温かい手が目元をおおっている。


「だーれだ?」


綺麗(きれい)な声で(たず)ねる声にチニはクスクスと笑い声を上げた。


「フォセ!」


言った瞬間、視界が晴れて金髪の少女と目が合った。

クセのある髪は肩まで伸び、白いベレー帽が頭からずり落ちそうになっている。

大きな茶色い瞳がこちらを見つめ、(やわら)らかな(ほほ)はぷくっと(ふく)らんでいた。


「何、見てんのよ」


不機嫌そうなフォセにチニは、ごめん、と笑うとペンを置いた。

びっしりと書き込まれたノートの(となり)に真新しい白い封筒が置いてある。

中から便箋(びんせん)が顔を(のぞ)かせていた。


「研究のやつ?」


肩越しに(のぞ)くフォセにチニは、はにかんだように頭を()いた。


「違うよ、こっちは記録の方」


「ふぅん」


「何、新しい郵便物でもあった?」


フォセはその言葉にむっとした表情を浮かべると、肩から斜めにかけた白い(かばん)を逆さにしてみせた。


「違いますー。今日は非番だもん」


「じゃあ、何で制服着てるの?」


思わず(たずね)ねるチニにフォセは(ほほ)をさらに(ふく)らませた。

彼女の視線を辿(たど)ったチニは慌てて付け加えた。


「あ、そっか! そうだ! 今日か! みんなに見てもらおうと……」


「それだけじゃないもん」


まだ()ねているフォセにチニは慌てて言葉を探した。


「えぇっと、その、あの……」


「ん!」


フォセはぐいと顔を近づけると、ベレー帽を指差した。

城で働く者をことを示す刺繍(ししゅう)の横に小さなバッジがついている。


「手紙だけじゃなくて、小包も運べるようになったんだもん!」


「へ、へぇ……す、凄いじゃん」


慌てて()めたが、フォセの機嫌は直りそうになかった。


「い、行こっか……」


恐々(こわごわ)椅子(いす)から立ち上がったチニをフォセはポカンと見つめていた。


「ん? 何?」


チニは椅子(いす)の背もたれにかけてあった黒いベストを(かつ)ぐと首を(かし)げた。


「チ、チニ……大っきくなった?」


言われて初めてチニは周りを見回した。

窓から地平線の向こうまで広がる芝生が見える。

木造りの窓枠に寄せられるように机と椅子(いす)が置かれ、部屋の壁にはぎっしりと本が詰まった(たな)が並んでいた。


「そうかな? あんまり考えたことなかったよ」


「絶対大っきくなった! 前はギリギリあたしの方が背高かったもん!」


「え、ホント?」


ピョンピョンと飛び跳ねるフォセと並んで歩いていたチニは部屋を出ると隣室(りんしつ)に声を掛けた。


「ソニア様。行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」


老婆(ろうば)の声がドア越しに聞こえる。

隊を解散して以来、チニは特殊能力の長ソニアの隣室(りんしつ)を借りて研究を進めていた。

楽しげな足音が聞こえなくなると、ソニアがふと部屋から顔を出し、にっこりと微笑んだ。


「気をつけてね」


***


芝生の上に並んで座っていた少年たちは城の入り口傍の石碑(せきひ)を指差した。


「今、気づいたんだけどさ、グロリオ・レーチェスって、あの……」


天上界(てんじょうかい)の危機を救った隊の隊長の名だよ。ほら、隊員の名もその下にある」


「長たちは急襲されて、指導者はいなかったんだっけ? それで、その時に名乗りを上げたのが、その人だったよな?」


「あー! 俺もこんな風に名前が残ったら良いのになぁ!」


「馬鹿言うんじゃないよ」


ふと背後で聞こえた声に振り返ると、赤髮の女性が立っていた。


「リア様?!」


思わず声を上げる彼らを制し、火の長はやれやれと首を振った。


「そう何人もいたらたまったもんじゃないよ。各領域の王を始め、全世界の天上人(てんじょうびと)に「死ぬな」って司令を出して本当にそれを守らせちまうなんて……相当のウツケじゃなきゃできるもんじゃないだろ?」


「はぁ……」


気の抜けた声で頷く少年たちを一瞥(いちべつ)したリアは空を仰いだ。


「そんなことをしでかせるのは、後にも先にもアイツらだけだろうさ」


***


草木を掻き分け、黄金色(こがねいろ)の髮の男性が歩いている。

時折混ざった茶髪が歩く(たび)に揺れていた。

木立を抜けた彼は琥珀色(こはくいろ)の目を細めた。

昔と変わらない宿舎(しゅくしゃ)の前に女性がひとり立っていた。

陽の光を受けて輝く(しろがね)の髪、斜めに裂けた白いローブ……


「スラウ」


名前を呼ぶと彼女が振り返った。


「久しぶり、ラナン」


再会の抱擁(ほうよう)を交わしたラナンはスラウと並んで宿舎(しゅくしゃ)を見上げた。


「……懐かしいな」


「うん」


「もう1年経ったのか……」


ラナンが(つぶや)いた時、後ろから話し声が聞こえてきた。


「おーい」


振り返ると、チニとフォセが並んで歩いてきたところだった。


「今年は2人が先だったんだね」


「おう」


チニの言葉に(うなず)いたラナンはふと首を(かし)げた。


「あれ、お前。背伸びた?」


「え、やっぱり?」


「うん、伸びたよ」


スラウも(うなず)くと手を前に出した。


「去年はこれくらいだったもん」


「あたしも伸びたもん!」


ピョンピョンと飛び跳ねるフォセの頭に手が乗せられた。


「ん。本当だ。大きくなったな」


「ライ!」


フォセはくるりと後ろを振り向くと、白衣の男性に飛びついた。


「久しぶり!」


「久しぶり」


ライオネルはフォセに抱擁(ほうよう)を返すと、スラウと視線を交わして微笑んだ。


「元気そうだね」


「うん」


話し始めたスラウとライオネルを見ていたラナンの(となり)(だれ)かが並んだ。


「お、ハイド。久しぶり」


我に返ったラナンが手を挙げると、彼も同じように手を挙げた。

いつのまにかランジアも来ていて、スラウとライオネルの会話に混じっている。


「あら、みんなもう集まっているのね」


おっとりとした声に振り返ると、茶色い髪を丁寧に編み込んだ女性が立っていた。


「アイリス! 久しぶり!」


スラウやフォセがアイリスに駆け寄っていく。

皆、何となく1つの輪を作って並ぶと互いの顔を見合った。


「グロリオとアキレアはまだかな?」


ちらりと懐中時計を取り出すチニにアイリスが片目を(つむ)った。


「大丈夫。来るわよ。ユッカちゃんの面倒を見てから来るって言っていたから、少し遅れるんじゃないかしら」


「あの子、もう歩けるようになったのか?」


「また遊びに行きたいよね」


皆が2人の間に生まれた赤ん坊の話に花を咲かせていると、当の本人たちがやってきた。


「どーも、天上界一(せかいいち)の美少女ユッカのパパでーす」


茶化すように言うグロリオにアキレアが照れたようにツッコミを入れた。


「もう……」


「だって、ユッカがさー、パパ、パパってヨチヨチ歩いてくるんだぜ? もう可愛くてしょーがねーよ」


早速、惚気話(のろけばなし)を始めるグロリオにライオネルが咳払いで合図をした。

グロリオは照れ笑いを浮かべると、一同に集まった仲間たちを見回した。


「さて、行くか!」


グロリオの言葉に皆、笑顔を浮かべて(うなず)いた。


「これより任務隊の救助に向かう! 久しぶりの地上界(ちじょうかい)だ。心してかかれよ?」


「了解!」


次の瞬間、10匹のドラゴンが隊員たちを乗せて大空へ舞い上がっていった。

最後までご愛読ありがとうございました。

本編は全部で99話ですが、グロリオたちはこれからも活躍していくことだと思います。

筆者として、彼らの話を追うのはここまでではありますが、100話以降はみなさんの中で作っていって欲しいと思います。


何度読んでも新しい発見があるのが長編の面白いところです。

是非、また本作を楽しんでいただければと思います。

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