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天上人  作者: 鬼木 有葉
序章 天上人
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九.壁と軋轢 ②

(つい)に火の長リアによるドラゴンとの飛行技術を(きた)える訓練が始まった。

スラウのドラゴンは(すで)に成長しているので、ある程度訓練を積んでいる者たちの訓練に編入することになった。

あからさまな嫌悪感(けんおかん)こそ示されないが、相変(あいか)わらずここでもスラウを見る目は冷たいものだった。


スラウの紹介を終えると、リアは手を(たた)いた。


「……というわけで、今日からは空に飛び立つ練習をする。まずは私が手本を見せよう」


リアは長い髪を()()げると、ひとつに束ねた。

小高い丘へ向かった彼女は両腕を広げて走り出し、勢いよく大地を()った。

細長い身体がふわりと宙に浮いた瞬間、巨大な影が彼女の後ろに迫ってきた。

彼女が脚を振り上げるとその間をドラゴンが(くぐ)り、ドラゴンは彼女を背に乗せて空へ舞い上がった。

上空で大きな弧を描いて飛んだ後、旋回して戻ってきたドラゴンはゆっくりと地面に降り立った。

その背から飛び降りたリアは赤い竜の鼻面を()でて生徒たちを見回した。


「最終的にはこれを出来るようになってもらう。まずはドラゴンに(またが)る練習だ。さあ、始め!」


その声で皆一斉に広い所へ散っていった。

跳躍してドラゴンの背に乗る。

これだけのことだが、ドラゴンと息が合わせなくてはならず、かなり難易度の高い技であることが分かった。

跳躍が間に合わずドラゴンが後ろから突っ込んでしまったり、跳躍が早すぎてドラゴンの背に飛び乗れなかったりと苦労する者がほとんどだった。

ドラゴンが幼竜だった頃から一緒に過ごしてきた者でさえそうなのだ。

つい先日、ドラゴンに出会ったばかりのスラウができるわけがない。


そもそもスラウは飛び乗る前の段階で躓いていた。

ドラゴンと息が合わせられないので、走り出すタイミングが(つか)めないのだ。

走り出した後でドラゴンが飛び立つのでは遅いが、かと言ってドラゴンがあまりに早く飛び始めてしまうと(はじ)()ばされてしまう。

スラウは幾度(いくど)となくドラゴンの鼻づらで地面に(たた)きつけられた。

もうもうと土煙を上げて地面に()()むスラウをリアは(あき)れ顔で見ていた。


「スラウ! ちょっと来な!」


髪に草が(から)まっているのも放ってスラウは(あわ)てて走っていった。


「あんたさ、根本的なことを質問するが……」


リアはひとつ息を()いた。


「ドラゴンの名前、知っているかい?」


何を言われているのか分からず、キョトンとした顔をするスラウにリアはこめかみに手をやった。


「あんたにも名前があるように、ドラゴンにも名前があるのさ。それも知らずに……よくこれができるなんて思ったね」


「じゃあ、私がしなきゃいけないことは……あのドラゴンに名前を聞くこと、ですか?」


「そうだ、(たわ)けが! 名前も知らないでどう連携するんだい?!」


一喝(いっかつ)され、思わず首をすくめるスラウに背を向けるとリアはドラゴンの背中から派手(はで)に転がり落ちた少女に向かって叫んだ。


「クララ! もっと思い切り踏み切りな! それじゃ、怪我(けが)するよ!」


スラウは後ろで翼を休めているドラゴンに向き直った。


「名前は?」


『無い』


「え? だって……」


『名前をつけてもらう前に別れた』


「そっか……子どもも殺されたんだっけ?」


『ゾルダークは光の天上人(てんじょうびと)絶滅(ぜつめつ)(はか)ってあの事件を起こした。子どもであろうが、誰であろうが、容赦(ようしゃ)なく殺された』


思わず(こぶし)(にぎ)りしめた。

そうだ……光の天上人(てんじょうびと)で生き残ったのはコウル様ただ1人。

つまりそれは他の人は皆殺しにされたということだ。

前のパートナーは、このドラゴンとどれくらいの時を過ごせたのだろう。


「今日はここまで!」


スラウはリアの声で我に返った。


「名前、どうしよう?」


『お前が決めろ』


「え? 王族のドラゴンなんでしょ?! 名前つけるなんてできないよ!」


ドラゴンは鼻で笑うと翼を力強く羽ばたかせ、金色(こんじき)(うろこ)をきらめかせて大空を飛び去って行った。

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