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1-1 鈴木祐介、屋上からジャンプする

私の小説『ひきこもりのおうじさま』の後日譚のようなお話です。

・『ひきこもりのおうじさま』を未読でも読めるようにはなっています。

・ただし、第五話で『ひきこもりのおうじさま』のネタバレが少し含まれます。

「おいで……こちらにおいで……」


 俺の頭の中で、しつこくオッサンの声が呼びかけ続ける。俺は、声の聞こえる方向、高層ビルの非常階段を上へと向かっている。


 俺は鈴木祐介、24歳プログラマー。大学在学中に、彼女を寝取られて、振られた。また、先日にも新しくできた彼女を寝取られて、振られた。二人とも、俺が「女顔」で「弱弱しく見えて物足りない」と言った。しかも、どういうわけか、「物足りなさ」も、俺のせいにされた。すまない、俺が悪かった。


 断っておくが、たとえ女顔だといっても、男に性的な興味はない。いっそ俺が女に生まれていれば、少しは変わったかもしれないのだが。


 ああ、男女どちらに生まれても、「俺が不幸になる」のは確実だっただろう。大学在学中に父が病気で急死した。大学卒業する前に母も病気で急死した。就活で会社から内定を取ったと報告したら病床で母に笑顔で心配された、「プログラマーなんか将来苦労するわよ」と……。父は若くしてメーカーのシステム管理部門の責任者になって、プログラマーだった母とそこで知り合った、らしい。


 父方親戚と母方親戚とでは折り合いが悪かった。両親の死後に俺が入社するとき、誰が俺の後見人になるか、かなりもめた。


「俺以外の別の奴が、会社入社時の祐介の身元保証人になれ!」

「わたしだっていやよ!」


 結局、俺の身元保証人には、父の会社での元部下が見かねて、なってくれた。社則の急遽の変更を人事部と総務部に至急泣きついてくれたらしい。すまない、俺が悪かった。


「それでは」と俺は入社したばかりの会社の寮に移る。それならそれで、更に親戚たちはもめ、誰からも心配された。すまない、俺が悪かった。



 俺は非常階段を上りきり、屋上へのドアを開けた。不思議と、鍵がかかってなかった。俺は屋上へと出る。普通、転落予防のフェンスとかがあったりするはずなのだが、不思議と見当たらない。


「おいで……こちらにおいで……」


 もう、だいぶ聞きなれたオッサンの声が、屋上の外、下のほうから聞こえてくる。見ると、古代中東の衣裳風のローブを着た、髭もじゃで長髪のオッサンが両手を広げて見上げている。……どこか、その笑顔は、見覚えがあるように感じた。


「私が来たのは正しい人を招くためではない」と笑顔でオッサンが言う、「私が来たのは悪い人を招くためである」


 それもそうかな、と俺は、ビルの屋上からジャンプした。

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