第09話 お決まりテンプレ?
「お嬢様、あの二人は敵です。あと後ろからもう一人来ます」
「やっぱりここで狙ってきたわね。絶対に返り討ちにして、アイツらの黒幕を吐かせてやるんだから!」
後衛職のはずなのに勇ましすぎるお嬢様の性格を、オレはこっちの異世界のタツヤ(2P)の記憶から良く知ってる。
いつもこんな場合になると常に彼女が前面に立ち、気弱だったタツヤ(2P)を守ってくれていた。でも今のオレは以前の僕とは違うんだよな。
「ここは僕に任せて貰えませんか?」
「え……っと、大丈夫なの?」
「昨日の決闘を見たでしょ? もう、以前のひ弱な僕では無い所をお見せします」
「なら任せるわ。蹴散らしなさい!」
オレが前方に居る二人に向かって駆け寄ると、お嬢様が後方から近づいて来る相手を警戒して後方へと向き直る。
これは本当にオレの事を信用して、その背中を任せて貰えたみたいでちょっと嬉しい。でも後ろの一人についても、お嬢様の手を煩わせるつもりは無いからね。
「おま、俺たちが誰か知っ──」
格ゲー厨を相手に何くっちゃべってんだよ。
二人とも抜身の剣を手に下げて、ブラブラしながら威嚇でもしてるつもりか? 地面に落ちてた手頃な大きさの石をブン投げて、それをギリギリのタイミングで剣の腹で受け止めた瞬間、オレの飛び膝蹴りがノッポの鳩尾に突き刺さる。
この膝蹴りは突進の勢いが乗ってるから、蹴られて弾き飛ばされた相手と密着した状態のまま、オレも一緒に背後にあった建物の外壁に激突する。
もちろんノッポの男がクッションになってくれたお陰で、オレの膝にダメージはない。
この時もう一人の中肉中背男は全く反応が出来ておらず、そいつが振り向いた瞬間に今度はオレの裏拳がソイツの顔の人中にヒットしていたが、ここでちょっとミスった。
素手で相手の上顎を直接ブッ叩いたんだけど、少し動いたのかヤツの汚い前歯が手の甲に食い込み少し切れてしまったようだった。
傷自体は大きくないが、ちょうど太めの静脈がある辺りに歯が食い込んだせいか、傷の割に出血の量が多く、格好つけたのにケガしたみたいでなんかバツが悪いな。
オレは倒れた男の脇腹に八つ当たりキックをお見舞いして動かないのを確認してから、両手を右の腰だめに構えて、後ろに居るグラサン男に向けて次なる技を撃ち放つ。
「覇道拳!!」
オレヤツの間にお嬢様が立ってるから、昨日の授業で大失敗した【焔覇道拳】ではなく、通常技の【覇道拳】を選んだ。
オレの両掌から射出された蒼白い精神エネルギーの塊が、強烈な衝撃波を放ちながらグラサン男を狙い撃つ。
だがオレの見え見え大振りモーションが仇となり普通に受けられてしまったが、それでも防御した相手をノックバックさせるくらいの威力はあったようで、ガードしていた両腕の衝撃を知ったグラサン男の額に冷たい汗が流れる。なかなかやるなアイツ。
「てめぇ、何モンだ?!」
これまでずっと気弱でひ弱なタツヤくん(2P)として生きてきたお陰で、こういった輩どもからマークされる事もなく、それなりに平和な人生を歩んで来たけど、それも今日でお終いだ。
「お嬢様、そこは危ないので避難して下さい」
オレはお嬢様を技の射線から避難するように声をかけてから、今度は昨日の授業と同じように両手を腰だめに構え、気力に空気を巻き込むように圧縮して次弾を放つ構えを取る。
今度は先ほどと違って、腰だめに圧縮された精神エネルギーが空気と共に更に圧縮されて紅蓮色に染まる。
もしあのグラサン男がさっきと同じ様に防御したら、今度は必ず後悔する事になるから実に楽しみだ。
先ほどは大ぶりな技のモーションから、そのまま発射したのでタイミングを読まれてしまったが、今度も回避させずに防御させるべく、そのタイミングを見定める。
すると相手の男もオレの考えを読んだのか、先に動いた方が不利だと感づいたみたいで、ここから先は心理戦に勝った方が本当の勝利者となるはずだったが──「えいっ!」
──グチャッ!!
ここでオレの事ばかり警戒していたグラサン男(の股間)に悲劇が訪れる。
オレとグラサン男の射線から避難したはずのお嬢様が、何故か相手の後ろからこっそりと忍び寄り、繰り出された『七年殺し』と呼ばれる蹴り技が男の股間に炸裂していた!
大切な何かが押し潰れるような音が辺りに響くと同時に、自身の体重を支える事が出来ず崩れ落ちたグラサン男の身体が地ベタへと倒れ込む……ホントに情け容赦が無いな。
せっかくのグラサンが外れて、彼のつぶらな瞳からは滂沱の涙が溢れ落ちていた。
あれはかなり痛かっただろう。声を上げる事も出来ず両手で患部を押さえて背中を丸めた相手に【焔覇道拳】はもう必要ない。でも、そんな愚か者に対してお嬢様の攻撃はまだ続いていた。
「私を拉致ってどうするつもりだったの? ほら何か言いなさいよ!」
グラサン男が両手で守っているゴールドなアレの残り1つを、防御してる手の上からゲシゲシと蹴り続ける貴族令嬢の勇姿は、やはりオレ(2P)が子供の頃から知っているお嬢様の姿だった。
ただ相手もそれなりに体力があって防御が固いと感じたお嬢様は、両腕の間から無防備な鳩尾を狙って爪先を蹴り込む。
「グファッ!!」
蹴られた激痛による身体の反射によって、それまで頑なに守っていた股間から鳩尾へとつい右手が動いてしまい、局所への防御が左手一本になってしまったタイミングを狙って更なる踵落としが決まる。うん、控え目に言って鬼かな。
やがて口端から泡のような涎を垂らした男が白目を向いたのを見て、ようやくお嬢様の怒りの炎が収まったのだが、願わくば彼が新たな扉を開いてしまわない事を切に願う。
ちょっとヤリすぎた感じもするけど、貴族のご令嬢を誘拐しようとした性犯罪者には相応しい最後となった。
でもこれで3人とも気絶してしまったから、尋問する為には誰か起こさなくてはいけない。
「ほら、これを見て」
お嬢様が倒れている男のムサい首元に手を突っ込んで、細いチェーンに通された軍の認識票を引っ張り出す。
「コイツやっぱり国軍の従士だったみたいね。どうりで、しぶとかった訳だわ」
お嬢様の執拗な金的攻撃に耐え続け、少なくとも片方の息子を無事に守り通すだけの実力をこの男は持っていた。
そこから察するに街のゴロツキ程度では無いと考えてはいたのだが、まさか本当に国軍の兵士だったとはな……。
理由としてはいくつか考えられるけど、黒幕は恐らくお嬢様に決闘を申し込んだフォルティス公爵家あたりだろうな。
そもそも論だが、オレが昨日の決闘を受ける事になった経緯は以前にも聞いたと思うけど、王女派閥のエストラーデ辺境伯爵家の令嬢であるアリーシャお嬢様と婚約する事で、財政的に厳しい王子の支持母体である軍閥貴族どもの派閥に辺境伯爵家を取り込み、経済的な支援を引き出すのが目的だったのだろう。
だが、どれだけ婚約を申し込んでも一向に良い返事をしない辺境伯爵家に対し、アリーシャお嬢様を直接拉致して既製事実でも作ろうと策謀したけどこれも失敗。
それで、せめて最後はお嬢様に無実の罪を着せて学園から追い出そうと決闘裁判を仕掛けたけどオレに敢え無く退場させられてしまい、今は軍閥貴族の看板に泥を塗ってしまった形になっている。
ここまで来るとオレが決闘で肋骨を折ってやった、リアンの実家であるフォルティス公爵家の犯行としか思えないけど、果たしてそれほど簡単な話で収まるのだろうか?
こういった異世界系ラノベあるあるでは、軍閥貴族の派閥トップであるフォルティス公爵家以外にも、その支持を受けてる王子本人も怪しいし傘下の派閥はもっと怪しい。でも、それと同時に決闘でコケにされたリアン本人は限りなく黒だけどな。
「やっぱり今日は教会へ行くのを止めておくわ」
どうやらお嬢様が急に「教会へ行く」と言って大通りから離れて歩いたのは、コイツらの尾行に気づいて、人気の少ないこの場所で対処しておく為だったのではないかなんて考えていると、近くに干してあった洗濯物から古くなったタオルを無断で拝借したお嬢様が、既に3人を後ろ手に縛ってから御者の名を呼んだ。
「ヘーゼル、出てきて。こいつらを守衛所に突き出しておいて」
「はい、お嬢様」
御者だと思ってた人は実は御庭番でしたってオチなのかな? オレのMAPには今まで表示されていなかったブルーのマーカーが、お嬢様に呼ばれた途端にもう一つ現れていた。
これって暗殺系RPGなんかで良くある【隠形系スキル】で隠れていると、MAPには表示されないって言う仕様なのかな?
もし、これを知らなかったら後で酷い目に会う未来もあっただろう。危ない危ない。
「それと守衛所を見張って、こいつらを引き取りに来るか、それとも殺しに来る奴の身元を調べておきなさい」
なんか、さっきからアリーシャお嬢様の話を聞いてると、まるで『悪役令嬢』みたいだと思った。
普段から勇ましい言動が多いお嬢様だけど、学園やそれ以外の場所でも中立派閥に属している辺境伯爵家には敵が多くて、これまで何度もこうした目に会ってきたのだろう。
あと、さっきの男たちがオレのMAPレーダーに表示される前から、お嬢様がこの人気の少ない場所を目指して行動していた理由が気になるけど、それを聞くのは彼女が授かったスキルを詳しく聞くのと同意義なので、個人のプライバシーを守る意味で聞く訳にはいかないんだろうな。
アリーシャお嬢様の職種だが、他の人たちには【聖女】と名乗っているけど、本当はもっと別の隠れ職種なのではないかと疑っている。
その証拠にお嬢様は【聖女】では考えられないほど広範囲な索敵スキルとか、数秒先の未来を知ってるような動きをする時があるから。
そもそも論だけど、肉体言語が得意な【聖女】なんて聞いた事が無いだろ?
そうでなければ、昨今の異世界系ラノベで流行りだしたタイムリープ系……所謂、時間巻き戻し系の能力みたいな何か……。
でもそんなチート能力をお嬢様が持ってるなら、既にお嬢様が魔王として世界に君臨しているはずだから多分ないな。
「さてと、これで邪魔者は居なくなったし、安心して買い物へ行けるわね」
「つい先ほど拉致されかけたのに、全然平気そうですね」
「こんなのいつもの事じゃない、それに私の事はタツヤが守ってくれるんでしょ?」
そうなんだ。オレの深層意識の底には、こっちの世界のタツヤ(2P)の想いとか願いみたいなモノがインプリントされていて、それらがオレの言動に対して一定程度の影響を及ぼしている。
なのでアリーシャお嬢様と知り合ってから、まだそれほど時間が経っていない間柄だけどオレの心の中には彼女に対する尊敬の念というか……畏敬の念というか、淡い恋心みたいなモノもあって色々と複雑なんだ。
でも彼女の身に何かあった時は自分の身を挺して守るつもりだと言うのは、どちらのオレも同じ想いを持っている。
「そうですね、愚問でした」
「その前に右手をこっちに出しなさい」
闘っている最中は、脳からアドレナリンがドバドバ分泌されて気にならなかったけど、右手の甲の傷から出た血が固まりかけて赤黒く変色しかかってるのを見ると急に痛くなってきた。
そんなオレの右手をお嬢様の両掌が包み込むと、その周囲に仄かに青白く神聖な光が灯る。
「これで痛くないでしょ? もうケガなんかしてはダメよ」
「はい、ありがとうございます」
オレはこの光景に見覚えがある。
こっちの世界のタツヤ(2P)は、この幼い頃に出会った女の子にずっと前から助けて貰っていたんだ。
まだ大した実力も無く、君の身代わりになってあげるくらいしか出来なかったひ弱だったもう一人のオレを、ずっとこうして守ってくれていたんだ……ずっと子供の頃から。
その後も『買い物へ行くわ』なんて言うから、てっきり街はずれにある反社会的な組事務所にでも行ってケンカでも買うのかな? なんて思っていたけど、オレの予想に反してその後は穏やかにショッピングを楽しんだ。
オレは荷物持ちとして連れて行かれ、徐々に増えていく荷物の多さに辟易したけど決して口には出さなかった。だって叩かれたら怖いじゃん。




