第5章 殲滅級、降臨
【第5章 殲滅級、降臨】ーーーーーーーーーーーー
東京・新宿。
夜の街を包むのはネオンの光ではなく、炎と煙の赤だった。
フェルシア部隊が次々と降下し、ビルの屋上から光弾を放つ。
だが、その中心に現れた影は、敵兵士たちとは明らかに異質だった。
六本の鋼鉄脚がアスファルトを砕き、頭部から伸びた触手の先端が青白く輝く。
パラノイド殲滅級──《デヴォウラー》。
その存在だけで、戦場の音が一瞬途絶えたように感じられる。
「海斗、あれは……!」
通信機越しに玲奈の声が響く。
彼女は後方の臨時司令部から戦況を監視していた。
「分かってる……こいつは今までのやつと格が違う」
海斗はレールガンを構えるが、視界を覆う触手の閃光が迫る。
瞬間、彼の前に銀色の壁が展開され、光線を受け止めた。
「防御フィールド展開。地上部隊、撤退せよ」
低い機械音声と共に、フェルシアの一機が海斗の前に立ちふさがった。
操縦しているのは、ソルノイド軍少尉のミラ──彼女の冷たい視線が一瞬、海斗を捕らえる。
「殲滅級は地球の都市機能を丸ごと破壊するための兵器だ。放置すれば東京は終わる」
シア司令官の声が司令室に響く。
だが同時に、別の副官が密かに報告する。
「司令……あのデヴォウラーの中枢コアは、“それ”を持っています」
シアはわずかに目を細めた。
「……やはり地球にも残っていたか」
玲奈はその会話の一部を聞き取り、眉をひそめる。
「“それ”って……何のこと?」
シアは答えなかった。
戦場。
フェルシアと海斗の外骨格部隊が連携し、デヴォウラーの脚部を集中攻撃する。
だが敵の甲殻は分厚く、レールガン弾も表面を抉るだけだ。
触手がビルをなぎ払い、コンクリートの破片が雨のように降り注ぐ。
「このままじゃ押し切られる!」
海斗の叫びに、ミラが短く答える。
「ならば──同調するか?」
次の瞬間、フェルシアの背部が展開し、海斗の外骨格に接続ケーブルが伸びる。
脳裏に直接流れ込む膨大なデータ、戦術図、そしてミラの声。
『君の反射神経と私の演算能力を融合させる。死ぬなよ、人間』
二人の連携攻撃が始まった。
海斗が脚部関節を狙い、ミラが装甲の隙間を撃ち抜く。
連続した衝撃でデヴォウラーが体勢を崩すが、その触手が最後の力でビルの外壁を貫き、司令部方向へ伸びた。
「玲奈、避けろ!」
海斗の叫びと同時に、光が走る──
爆風と炎の中で、玲奈は倒れ込む。
視界の端で、触手の先に輝く球体が一瞬見えた。
それはまるで、星の記憶を封じた宝玉のように輝いていた。
戦いは終わっていない。
そして、プレアデスが求める“それ”こそが、この戦争の真の理由であることを、玲奈はまだ知らなかった。
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