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静かなる侵食

王都ヴェルフォートにある軍司令本部、その大理石の円卓を囲む重鎮たちの顔は、朝から強張っていた。

会議室に響いた報告は、北方国境付近に敵の小規模部隊が現れたというもの。

寒風の中に混じる鋭い刃のような情報に、ざわめきが広がる。


「偵察隊が確認したというのか?」


「間違いありません。馬印と服装から見て、近隣の小勢力――ただし、組織だった動きであることは確かです」


報告する若き将校の声は、緊張の中に確信を宿していた。

だが、円卓に並ぶ幾人かの貴族たちは眉をひそめる。


「たかが小部隊の越境行為など、過去にも幾度もあったこと。

過剰に反応すれば、こちらの士気こそ下がるわ」


「無用な出兵は、諸侯の不安と不満を煽るだけだ。冷静さを欠くべきではあるまい」


一部の軍部高官もそれに同調し、会議は早くも対処を巡って分裂し始めた。

慎重な対応を望む声と、今すぐの増援を求める声。

真っ二つに割れた空気の中で、結論は棚上げされる形となった。


その裏で、王国諜報部は動いていた。

諜報官ユリウス・グレイは数週間にわたる監視の末、ついにひとつの“通路”を突き止める。


エリザベートの侍女――クラリーチェという若い女が、王都北西にある旧修道院の地下通路を利用し、密かに国外と情報をやり取りしている形跡が見つかったのだ。


「証拠となる品は、まだ掴めていません。

ですが……頻度、動き、接触人物。すべてが一致しています」


 報告を受けた上官は険しい顔でうなずいた。


 「だが証拠がなければ、王宮に持ち込んでも揉み消されるだけだ。

ましてや……あの令嬢が関わっているとなれば」


そして何より問題だったのは、レオン王太子の反応である。

彼は忠告を真っ向から退けた。


 「馬鹿げている。エリザベートは王国に忠義を誓った者だ。

彼女の周囲に不穏な者がいるというなら、それはむしろ彼女を貶めるための陰謀だ。

排除すべきはそのような陰の声だ」


言葉には揺るぎない信頼と、どこか熱を帯びた思いが滲んでいた。

エリザベートが彼の心を完全に掌握していることは、誰の目にも明らかだった。


その晩、王宮のバルコニーに立つエリザベートは、月光に照らされる中、グラスを手にして静かに語った。


「あなたは優しい方ですわ、レオン様。でも、優しさはときに国を壊しますのよ」


彼女は王太子を思い浮かべながらその言葉をつぶやく。

だが、その口元には嘲るような笑いが浮かんでいた。


「……心配なさらないで。私に任せておけばいいのですわ。そうすれば、世界は平和に近づくでしょう」


囁きは、夜風に紛れてどこにも届かない。

そこにどれだけ大きな思惑が込められていても、エリザベートはその心を秘めている。


静かに、そして確かに、侵食は始まっていた。誰にも気づかれぬように、王都の中心から。


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