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玉座の隣、笑う者

王都ヴェルフォートの空は、冬を迎えるにはまだ早いというのに、どこか冷え冷えとしていた。

だが王宮の大広間だけは、無数のシャンデリアが光を放ち、上流貴族たちの笑顔と歓声が満ちていた。


「改めてご紹介しよう。我が王太子レオンと、その婚約者エリザベート・ド・セルヴァ嬢である」


国王の威厳ある声が響き渡ると、万雷の拍手が広がった。

玉座の隣、ひときわ目を引く立ち位置に立つ令嬢エリザベートは、真紅のドレスを身にまとい、気品を纏った微笑を浮かべていた。

金の髪を完璧に結い上げ、どこを切り取っても非の打ち所がないその姿に、社交界の貴婦人たちはため息を漏らした。


「まあ、あのレオン殿下をあそこまで夢中にさせるなんて…」


「あの令嬢、才媛とは聞いていたけれど、本物ね」


そんな囁きが会場のあちこちから漏れ聞こえる。

エリザベートはそれを意識することなく、微笑みの角度さえ完璧に保ったまま、王太子レオンと共に賓客たちの祝辞を受けていた。

レオンはと言えば、エリザベートに対してデレデレとした視線を向けている。


「殿下、光栄に存じます」


囁くように礼を述べたエリザベートに、レオンが静かに頷いた。


「君とならば、王国の未来を築けると確信している」


王国第一の知識階級・セルヴァ家の娘であり、五か国語に通じて文武にも優れる才女。

リディアという婚約者を押しのけてその座に就いたにもかかわらず、批判的な声はほとんど漏れてこなかった。

追放される際のリディアの潔さに対する称賛はあったが、だからといってエリザベートがその座に相応しくないとは誰も思わなかったのだ。


しかし、その夜――王宮の裏手にある厩舎近くの薄暗がりで、一人の若い侍女が慌ただしく足音を忍ばせていた。

エリザベート付きの侍女、名はマリアンヌ。白い外套に身を包みながら、彼女は密かに王宮の外れに立つ石碑の陰に身を隠す。


「……遅い」


低く呟いたその時、黒いフードを被った男が現れ無言で手を差し出した。

マリアンヌは内懐から小さな封筒を取り出し、そっと相手に渡す。


「今夜はここまで。次の指示は、あの方から直接下されるわ」


フードの男は頷くと、すぐさま闇の中に消えた。マリアンヌも何事もなかったかのように姿を消す。2人のやりとりを知る者は、王宮内にはいないはずだった。


その頃、遠く離れた軍部の作戦室では、年若い参謀が一枚の地図を睨んでいた。


「これを見てください、司令官。南東の補給線――敵軍が、先日設置した偽の中継拠点を正確に回避していたんです」


「なに? 本物の配置を見抜かれたというのか」


「ええ。そして、情報が洩れた痕跡は、こちらでは見つかっていません」


情報漏洩。だが、この王宮のどこから?

内部に潜む裏切り者の存在が確実になったわけではなかった。

だが、確実に“何か”が進行している。その不穏な空気は、じわじわと王都全体を蝕み始めていた。


夜も更け、王宮の高塔にある小さなバルコニーでは、ひとりエリザベートが月明かりの下に立っていた。

盛大な婚約披露の後とは思えぬ静けさの中、彼女は風に揺れるドレスの裾を押さえながら、遠くの空を見つめる。


「……あと少しですべてが動き出す」


その声は甘く、だが底冷えするような冷たさを孕んでいた。

エリザベート・ド・セルヴァ。

完璧な令嬢の仮面の奥に潜むもの――それは王国そのものを覆しかねない、深い謀略の気配だった。



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