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もとのせかい

「!なんでこんなところに!あっ和昭、そんな、お前ついて来たのか!」

砂利石がゴロゴロしている美しい川岸に出てしまった事に和昭を見て、拓馬はガックリと肩を落としていた。

砂利の上に横たわるガンダルンダとノルンダルンは目を覚ました。

目を開けたその先に広がる川を見つけた2人は、咄嗟に飛び起き、川に向かって走り飛び込んだ。

「あっ!おっおい!!おまえら!」

和昭は驚いて声をあげた。その声に拓馬が静かに応えた。

「大丈夫だ。人間だったら沈んでいる川だが、あいつらなら沈む事も流される事もない。遊んでいるだけだ」

驚き損に和昭はうなだれ、ホッとしていた。

「元々あいつらの世界だ。人の気も知らないではしゃぎやがって」

拓馬は、はしゃぐ小鬼を見たながらそう呟いた。

しばらくするとおかしな事に、川の流れに反して、船が何艘かのぼってきた。

流れに反して船は進んでいる為、だいぶ荒く水飛沫を上げている。

その水飛沫の中に見えた船の数は3艘。

水飛沫を浴びる度に、乗っている者たちが悲鳴をあげる。それを聞くのは気持ちのいいものではない。

生身の人間である、和昭の精神にかかる負担は計り知れない。

正直あおざめていた。

だが、来てしまった世界にも興味はある。

川を上がって来た3艘の船には船頭がそれぞれ乗っていた。

その船頭は、立ち姿から3艘とも同じ者に見えた。

スラリとした体型に、白い浴衣に藍染の帯を締めた、男性といえる佇まいをしている。

そして、美しく艶感のある黒く長い髪を、時折サラサラとなびかせて、その船の先端に長い棒を1本持って、なんとも涼しげにのっていた。

あれ程酷い水飛沫を受けながらも、船頭の3人は水一滴とかかっていない。

頭の上にちょこんと乗る竹笠が、顔は見えないが、妙におしゃれな美男子さを感じさせた。

小鬼の2人が、はしゃぐ横をうまく避けて船は進む。すると1人の先頭が

「おや、お久しぶりですねぇお2人とも」

と、声を掛けた。

ガンダルンダとノルンダルンは無邪気に遊んでいる為、その声に気づいていない。

すると、その声を掛けた船頭は、長い棒を持ち上げるといきなり、船の脇にいる2人に振り落とし突きあてた。すると先に2人を避けて登っていった2艘の船が旋回しもどってきた。

そして、先の船頭同様に棒をつきたて、参戦し始めた。

3人は同じ動きをしはじめた。

しばらくすると、

「おぇ!」「ぐぇ!」

と小鬼2人の声が聞こえてくる。

和昭はその声にたまらなく、駆け寄ろうと体を動かすと、拓馬に体を掴まれた。

「なにすっ!」

和昭はそう言うと、拓馬はちいさくも、いきおいある声で

「大丈夫だからだまってろ!」と黙らせた。

川の流れに勢いが増した。

小鬼2人の姿は見えないが、あの流れでは溺れてしまう。そう、和昭はおもっていた。

それでも船頭3人の腕の動きは止まってはいない。

拓馬の腕が未だ和昭の体を掴んで離していない。それを見ると、胸が張り裂けそうな思いでいっぱいだったが、声を上げることが出来なかった。

大丈夫だと言われても、奥歯を噛み締める思いだった。

「すっかり人間の匂いが染み付いてしまっていますねぇ。お二人ともなかなか落ちやしない。」

しばらくそんな状態が続いたが、ある時をもって川の勢いが緩やかになったようにみえた。

「ようやくこの世界のものらしくなりましたね。そこの天天狗殿。あなたがこの2人、あの方のところに連れて行きますか?それとも私どもがこのままお預かりしましょうか?」

船頭の持つ棒はまだ川の中をついたまま動かしてはいない状態で、上半身だけこちらを向いてそう言ってきた。

天天狗とはどうやら拓馬のことのようだ。

「いえ。これ以上お手を煩わせるわけには行きませんので、私が責任持ってお届けいたします」

そう言うと片膝をつき、頭を下げた。

「天天狗殿。お分かりかと思うが、そこの者を早く元の世界へ戻しなさい。この世の気をだいぶ纏ってしまっている」

「申し訳ございません。この後すぐに」

下げた頭を上げぬまま、そうこたえた。

拓馬の返事を聞いた3人の船頭は、改めてまた、激しくなった川の流れに反して登っていった。

3人が見えなくなった頃、拓馬は和昭の体から手を離した。

それがわかった和昭は、すぐさま川岸に駆け寄った。川の中を見回してみてもどこにもいなかった。

「おい!ふたりがいねぇ!どうなってんだ!」

拓馬はだろうなと言わんばかりの表情を浮かべ、和昭のそばに向かった。

「よくみろ!」

対岸は霧のようなもので白く濁っていたため、気に留めてなかった。

だが、声を掛けられ、徐に背を引っ張られた目線は正面の対岸だった。

薄い霧の中にスラリとした姿で佇む、美しい2人の姿が現れた。

霧はまだ晴れてはないが、2人を隠す程ではなくなっている。

真正面を見ながら、ただただ佇んでいる2人に目が奪われて仕方がない。

なんと美しい姿なのか。

「あれが、あの2人の本来の姿だよ。そして俺は、拓馬ではなく天魔導天狗(てんまどうてんぐ)だ」

砂利の上に座り込んでいた身体を、和昭は立ち上がらせると、

「何?おまえ天狗なの?天狗の天ちゃん」と拓馬の肩を抱いた。

「ふざけてんのか!俺は魂の行き先を導く天狗様だぞ。あの2人に比べれば、私はそんなに偉い者ではないが、お前とは、人間のお前とは比べものにならん。」

「あの2人どーなるんだ?」

「もうすこしすれば、意識が戻るだろう。意識が戻る前にお前を元の世界に戻さねばならん。」

「おれ、まだいたいけど」

「安易な。このままいればお前は陰の気を纏い、死者となるぞ。しかも、あの2人が意識を戻した時、ものすごいエネルギーが放射される。お前はそれに耐えられない。それも死ぬ。どちらにせよ、お前はこのままいたら死ぬのだ。」

「………。」

「お前達をあのような感じで巻き込んでしまったことは謝る。申し訳なかった。だが、あの2人の生きるべき世界はあそこではなく、ここだと言う事は、わかってほしい。」

「離れたくねえけどしかたねぇや。おばさんと静子になんて言うかなぁ。拓…じゃなかった天狗。俺を元の世界に戻してくれ」

天狗は大きく頷くと、手を合わせてゴモゴモ言い始めた。拝む左手はそのままに、右手を和昭の頭の上に置いた。そしてまた唱え始め、一瞬意識が飛んだような気がしたところで目を開けると、そこはじぶんの家の居間だった。


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