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みんなで遊園地

世界の終わりがやってくるかと思うほどに、目の前が暑さで歪んでいる。

熱放射がはげしく、陽炎はその凄さを見せびらかすようにメラメラとしていた。

和昭は1人、木陰のカフェにいた。

頼子(よりこ)ぉ!つぎあれっつぎあれっ!」

静子の母、頼子の手を心跳ね上がるほどにはしゃぎながらぐいぐいと引っ張っているガンダルンダ。その後を笑顔で、静子とノルンダルンは手を繋いで歩いていた。

遊園地は真夏にも関わらず、たくさんの家族連れがきていた。

滝のように流れる汗さへも、元気いっぱいに、何もかもがその遊びの一つとなる子どもたち。

体力を即効で奪われる大人と違い、なんとも無邪気で微笑ましい。

「一緒について来たのに、1人だけ涼しいところに」

聞こえるわけもないが、団体行動を乱す和昭に多少の苛立ちを静子は感じていた。

そんな心の声が聞こえたのか

「和もくればよかったのにね。すごく楽しいのに」

静子に手をひかれながら歩いているノルンダルンは、笑む顔を向けていった。

その微笑みに瞬時に胸打たれた静子は、

「本当よねぇ。和昭さんが羨ましがるくらい楽しんじゃいましょうね」と、和昭に対する微量な苛立ちを°どこかに投げ飛ばすようにいった。

2人は笑顔で顔を見合わせた。

そして、母を引くように走るガンダルンダの後を、見失わないよう歩いた。

空を飛び回る色とりどりの飛行機が、くるくると回り、子供の目を引いている。

その真下では、ガンダルンダが目をキラキラさせてそれをジーッと見ている。

「よりこ。オレ、早くあれ乗りたいぞ。まだなのか?まだなのか?」

あと2回りはするであろう位置に、4人は並んでいた。

静子母、頼子(よりこ)は見上げてくるガンダルンダの目線に合うようにしゃが見込んだ。

「そうねぇ飛行機が2回飛んだらガンちゃんの番くらいかしらね。あともう少しでお空を飛べるのよ、楽しみね」

ガンダルンダはその言葉に頷いた。

待っている間、汗が背中を伝う。

「ふぅ、あと一回まわったら、私たちの番かしらね」

静子がそう口にした時、ノルンダルンが大きく声をかけた。

「あーかず!!なにそれ!!」

何かを手に持ちながら園内を歩く和昭を、ノルンダルンはみつけた。

「おお!お前達そこにいたのか。」

皆に気づいた和昭は、静子の方に向かって歩いた。

そうして、ノルンダルンの前でしゃがみ込むと

「あーん。ほれっアーンしろ」と和昭はいった。大人しくくちをあけるノルンダルンの、その口の中に、ふわふわのかき氷を入れた。

「つめたぁ〜ぃ」

綺麗な青い色の大きなかき氷。

「うまいだろぉ、ブルーハワイというのだよ。ガンダルンダ!ほらお前も口あけろ」

オレもオレもと声をあげそうになっていたガンダルンダを察し、和昭は口を開けさせた。

「和昭ちゃん、私達には…」

暑さにうだりそうな表情で、頼子は和昭を見ていった。

「そうよ!あなた1人だけ涼しい所にいて…」

和昭はむすっとして、ん、と静子の口の中にかき氷を入れた。

驚いた静子はすかさず、かき氷のストローをグッと噛むと、それを引こうとしていた和昭をみて離した。

「なにするんっ!おまえ。使えなくなるだろうが」

静子はベーっと舌を出した。

そんなことをやっていたら、乗る順番が回ってきたので、ノルンダルンの手を引いて行ってしまった。

「なんだ?まったくわかんねえなぁ」

4人は青と赤の飛行機に振り分けられた。

「かずぅーーー!」

と、手を振るガンダルンダに、和昭は応えて手を振った。

飛行機が回り始めると楽しそうに笑う、2人の声が響いた。

和昭はそれをほっこりと見ていた。

「やっぱ普通にこーゆーのを見てると、子供の頃のこと思い出してくるもんだなぁ」

回る飛行機をながめながら、かき氷を食べた。

だんだんと低空飛行になってくると、その飛行は終わりになる。

「かずー!かきこおり!」

出口ゲートからガンダルンダが駆け寄ってきた。

「あっわり。もうあんまないや」

かき氷の入ったカップの底を見ていた2人を察した頼子は

「少し休憩しましょう」と声をかけた。

そうして、カバンからパンフレットを取り出すと、

「向こうに、園内カフェがあるから行ってみましょう」と加えて言った。

5人でそのカフェに向かって歩き出した。

園内には自然もたくさんある。

遊具の先には木々などが並ぶ、秘密基地に向かうような道があり、更にその先には蓮の池がある。

そこには小さな橋がアーチ状にかかっている。

今頃は、丁度蓮の花が見頃な時期で、それはそれは美しく咲いている。

蓮の池の側に、頼子の言っていたカフェがある。

そのカフェは和風の建物で、庭には赤い布が敷かれた、長方形の箱のような椅子がいくつも置いてある。日差しよけに赤い傘が、椅子の1つ1つに設置されている。

「やっぱり和って良いわよねぇ。」

「いらっしゃいませ。」

頼子が和の情緒にうっとりしていると、店の中からもんぺ姿の女性が出てきた。

その女性をみるやいなや

「チビ入れて5人なんですけど」

率先して和昭が口を出してきた。

頼子も静子もそれには大きく目を見開いた。

(わかりやすい…)

5人は外ではなく、店の中に案内され、6人掛けのテーブルについた。

「只今メニューとお水をお持ちします。」

軽くお辞儀をし、店員は店の奥に戻っていった。

和昭は、店員が自分に向かって歩いて立ち止まる位置を、すぐにとってそこに座っていた。

なので、受けた後に店の奥へと向かう店員の後ろ姿を眺めていた。

「変態」

静子は小さい声で囁いた。

「まぁ、静子。そのくらいにしておいてあげなさい。和君だって…。まぁいいわ」

トレーに乗った水のコップがゆらめいている。

前方から店員が近寄ってくる。

「お水です。メニューです」

ささっとテーブルに置き、また店の奥へとさっていった。

「あの店員さん美人だよなぁ。今日来た意味がわかった気がするよ」

それを聞いた頼子がいった。

「和君。セクハラもほどほどにね」

と肩を叩いた。

店は木造で、壁の色も茶色で、棒材が塗られているのだろう割と暗い印象を待つ。

「頼子ぉ、だんご食べたい。あんこのと醤油の甘いやつ」

壁側に座っていたガンダルンダがいった。

「お団子?あら、あるかしらね。メニューにあるかなぁ」

「さっき絵が書いてあったぞ」

「あらそう?だったらありそうね」

メニューを開くと、静子もそれをのぞいた。

いろいろ和のメニューがそこには載っていた。

「あんみつもあるわ」

そう静子がいうと、ノルンダルンは横に座る静子の服を小さく2度引き、「それが良い」と伝えた。注文するものも決まったので!仕方なく、

端に座る和昭に声を掛けさせた。

「すみません」と店員を呼ぶ声も、和昭の声は、偽った仮初の声だった。

可愛くも見えるその単純さに、頼子と静子は笑っていた。

店員が注文を受けに来たので、和昭は

「あんみつふたつに、お団子のセットをひとつ。それと磯部焼きと心太をお願いします。七味があったらつけてください」

と、自分なりに格好つけた。

頼子も静子もそれをみてケラケラと笑っていた。

店員が去った後、静子は今のうちにトイレに行こうと腰をあげようとした。すると、ノルン側の服の裾がつった。

ノルンダルンが服を掴んでいる。

「ノルンちゃんどうしたの?」

俯いていて返事がない。

あれ?元気がないかな?と静子が思っていると、

「静子行かないで」

と、ノルンは口を開いた。

(どうしたんだろう?うーんいてあげたいけど、トイレにも行きたいしなぁ。)

と静子は心の中で思った。

裾を持ち俯いたままのノルンを静子は抱き上げ、そのまま和昭に託した。

「おトイレね。すぐ行ってくるから和昭さんとまっててね。和昭さん、ノルンちゃん泣かすんじゃないわよ」

「し、しずこ!!行っちゃダメだ!」

なんだ?どうしたのだろうと思いながら、静子は笑顔で手を振ると、店内のトイレにささっと軽くはや足で行った。

色ボケしている和昭も、さすがにノルンの感じがおかしいので気になった。

そういえば、さっきまでまで声を張り上げていたガンダルンダの声がしない。

見れば、ガンダルンダも小さく丸まっている。

「おばさん!ガンダルンダ」

注文してからケータイを見ていた頼子は、その声に驚いた。

「どうしたの和くん」

「おばさん、なんかおかしい。ガンダルンダを抱いてやって」

当たり前に横にいるとおもっていたガンダルンダが、まぜか大人しく丸くなっている。

「ガンちゃん!気づかなくてごめんね。」

頼子も何かおかしいということを感じ取った。

横にいるガンダルンダを即座に持ち上げると、胸元でぎゅっと抱きしめた。

とても怯えているようだった。

「どうしたんだ2人とも。」

流石にこれはおかしいと、和昭は思った。

すると2人は、ガタガタと震え始めた。

「か…かずゅ…」

震える声でノルンが何かを話そうとした。

「おばさん今すぐここを出よう!」

「でも、静子がまだ」

和昭は周りを見渡した。

木陰の茶屋で、しっとりと暗い雰囲気という思い込みが、当たり前にあったはずの昼間の明るさがなくなっていることにきづかなかった。

気持ち悪い暗さだ。

どーしようかと思っていると、頼子が重そうに口を開いた。

「ねぇ、和くん。あったはずの入り口の扉がない。涼しくて分からなかったけど、よくみたら窓も…。」

未だ戻ってこない静子に、震える小鬼たち。

気づいた時には遅い程に、辺りは暗闇に包まれていた。

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