68話 テンプレートな別れと共に
「みっみっ……ミヤトさんっ!!!!」
転移してきた先はエストの街の中だろう。それは辺りを見れば何となくわかる。というか転移使ってエストの中じゃないとしたら困るし。
しかし、飛んできた先、そこから数分と待たずしてどこからともなくフィリアの姿が見えてきた。
それでもってこちらへ飛び込んできた。
思いっきり彼女の頭が俺の胸辺りに当たり、声には出さなかったけれど少しだけ痛かった。下手な創作漫画だったらその衝撃で吐血していたかもしれない。まぁそもそもそんな世界ではないし、恐らく今はフィリア伝いに魔法障壁が張られていた記憶があるから多少頑丈な筈だけど。
彼女……フィリアは俺に突撃したのち、バッと頭を上げてこちらを見つめてくる。レンの距離感がおかしいとは思ったけれど、こうして平然と顔を近づけてくるフィリアもいる訳だし実はマジョリティな話だったりするのかもしれない。
「な、なにもされてませんよねっ!??」
こちらをまじまじ見つめてはそんなことを言ってくる。恐らく貞操の危機とかそういう事なんだろうけれど、分かりやすいご都合主義などある訳がない。まぁあったら喜ばしい事かもしれないけれど、妄想も大概にしないとな。
「うん大丈夫……大丈夫だから……一旦放して」
ずっと腕全体を使って胴をホールドされている。まぁ所謂抱き着かれているという状態なんだけれども、それを街中でやられるのは中々に恥ずかしい。それに隣にいるレンもこちらを見てきていて猶更。
流石にこちらのいう事は聞いてくれるようで、ゆっくりと腕を離してはくれた。それでも若干距離間は近いような気がする。さてフィリアにはどこから何を話した物か……。
「いや待って」
「どうかしましたか?」
「フィリアなんでここに居るの」
ここがエストなのは何となく理解している。……があくまでエストである、という事のみである。にも関わらずフィリアは俺が転移してきてからものの数分程度で姿を見せた。まるで俺がどこにいるかを素早く察知できるとでも言わんばかりの何かを感じる。
……そういえば一番最初に出会ったのは彼女であったわけだけれど、あんな深い森の中で出会う事があるんだろうか……。考え過ぎだろうか。
「なんで……ってそりゃあミヤトさんが戻ってきたわけですし」
「じゃなくて……ええと何でこんな直ぐ、場所が分かったのかな……って」
「アベストルスで足速くして……」
どうやら例の足を速くして只管虱潰しに探していったらしい。それでもって俺を見つけられたのは割と豪運だとも言う。マンパワーが過ぎるだろその解決の仕方は流石に。
しかしまぁそうして俺たちを見つけてみせたらしい。俺の位置を探れるだ最初の出会ったのが彼女だ彼女がすべての黒幕みたいに疑い始めるところだったな。
「というか……貴方はミヤトさん連れ去って何してたんですかっ!」
ずっと微動だにせずこちらを見ているだけのレンに対してフィリアが噛みつくように声を上げる。
「……ちょっとね」
レンは言葉を濁した。それと同時にどこか顔というか表情が暗くなっているように見える。表情自体に変化は見られないのだがどこか陰りがある……とでも言うのだろうか。あくまで感覚値的な話でしかないから気のせいかもしれないけれど。
ただまぁ彼女が語った事からすれば、俺から古傷を抉られたような感覚だっただろう。レンからしてみれば何してくれたのかという気持ちだろうか。
だからこそフィリアの紙月に対しても言葉を濁したような対応をしたのだと思う。
「フィリア、元はと言えば俺の言葉が発端だからその辺で……」
どうどう、と荒ぶる馬を落ち着かせるかの如く。……馬に触れたことないけど。いやこの場合は犬とかかな。
「そうは言いますが!」
「いいから、行こう」
レン俺達二人の様子をずっと見つめてこそいたが、しかし何か言おうとするような様子はない。ただただ見守っているだけだった。
「……」
彼女のことが気になる、というとあまりよくない捉え方をされそうだけれど、今はそんな状態である。恋愛どうこうとう話ではなくて何というかほっとけない……とでも表現すべきだろうか。そんな感覚。
だからと言って今の自分に何か出来ると言う訳でもないが。
「レンさん、すいません。お世話に……というのも変な言い方かもしれませんけど、お世話になりました」
「こっちも、巻き込んだ側だから気にしないで」
「また会う機会あれば……」
なんて、別れ際のテンプレート中のテンプレートな言葉を並べて。実体験としてはこんな言葉で別れた際再び相まみえることは中々無い。あったとしてもお互いにスルーして終わる事だろう。
 




