69話 同族意識
レンと別れた後。まだ時間としては朝の部類であろうか、その程度だけれどもフィリアに頼んで宿に向かわせてもらった。ちょっとばかり宿のベッドが恋しいとかそういう理由である。
それに何となくいつもより疲れたような感覚があったから。
「昨日からここ泊まってたの?」
「はいっ! 滞在期間までは分からなかったので一週間くらいだけですけど」
フィリアが泊っている宿は二人用であった。俺が昨日時点じゃ連れ去られていなかったというに用意周到この上ないな。
……単純に帰ってくるのを信じていただけかもしれないけど。
「にしても……すぐに宿とはやはりお疲れですか? そ、それともとうとう私と共にする覚悟が……」
「そういうのじゃないから」
ひとまず彼女を落ち着かせんと、両肩をもって抑える。まあ本来の彼女の力を考えたら勝てないんだけれど、意思表示さえすれば一旦フィリアは踏みとどまってくれるのだ。
「ちょっと考え事というか……」
「考え事ですか? 一体」
「いやぁレンさんのことで」
彼女の名前を口にした途端、フィリアの顔が少しばかり曇った。
「み、ミヤトさんやはりあの人のことが……」
そういうのでもないから……と再びフィリアを諫める。下手に一日離れていた所為だろうか、彼女の情緒が何処か不安定な気がしてならない。これしきの事で変な事態になる人いう事は流石に無いと信じたいけれど。
「やはりあの人に誑かされたんですねっ!!?」
「だから……取り敢えずレンさんと何があったのかざっくりで良いから話させて……」
彼女の転移魔法で、街の外へ出てからの話を彼女にした。それこそ転移魔法自体の話も、彼女が持っている絶対防御なる力も。彼女が吐露したことも含めて。
「成程……確かにあの方、少し変わった雰囲気は感じていましたが……」
フィリアも違和感みたいなものを覚えていたらしい。彼女の場合、ソレが少し変わっている程度で済ませていいのかは分からないけれど。
「うん、まぁ……だから転移したときそっけなかったのも、俺の言葉の所為何だと思う」
「神経を逆なでされた……と?」
「そんな感じ」
それこそ、俺が血眼の形相で、藁にもすがる思いで彼女に問い詰めていたらまた反応は変わっていたのかも知れないが、たらればでしかない。それに俺は正直言ってこの世界に大きな不満がある訳でもない。勿論帰れることならば帰りたいけれど、今のまま生活を続けるとなっても言うほどの悲観的にならない……と思う。
実際どうなんだろう。少なくともレンの言葉をそのまま鵜呑みにするならば一生こちらの世界という事になる。此処で生きて、この世界に骨を埋めることになる。うーん、実感がちゃんと沸いてないかもしれない。
「この話をするために宿に戻った……という事ですか?」
「ああ……いや、それもあるけどさ。レンさんのことで、何というかあのままにしていいのかな……っていう心配が」
何となく、毎度のことながらのお節介でしかないけれど。
「まぁ不安定な方かもしれませんが、私たちにできることなんてありますかね」
「出来ること……か」
今のレンに何が出来るだろう。そもそも彼女自身、今まで出会った人たちと比べて明確に困っている人と言う訳ではない。
しいて言えば元の世界に帰りたいとのことだけれど、流石に俺達でどうにかできる問題ではないだろう。
「転移魔法ってフィリアも覚えられる?」
「まあ教われば一応は……ただその異世界?とやらに行くことは出来ないですよ。行ったことないですから」
そういえばあの転移魔法は、レンの話では見たことがある場所、行ったことがある場所に限る……とか言っていたか。だとすると異世界という概念はそもそもフィリアが知る場所ではないのだから、行ける筈もないということになる。
「そういう事です。私は残念ながらレンさんやミヤトさんのいた世界というのを知りませんから……」
「うーんもしかしたら!って思ったけど」
流石にそうそう上手くいかないか。だからと言ってあのまま放置して大丈夫なのかな。今まで問題なかったから、という話はあるけれど。
「……考えても仕方ないのかな」
「正直、私にはそこまであの人に拘る理由がよく分かりません。もとの世界?のお知り合いとかという訳ではないんですよね?」
「記憶が全く混濁してないとは言えないけれどまぁそういうのじゃないよ」
流石に彼女くらいの人間なら余程のことがない限り覚えているはずだ。……多分。
「じゃあなんでまた……」
「まぁそれでも何だろう、同族意識とかなのかな」
数少ない異世界人というだけだが。
それこそ目の前にフィリアにしたって今まで出会ってきた人にしたって人間であることには変わりないはずだ。それこそ国籍違いだと言われても信じられる程度。だからそこに大きな差異はないはず。それこそ、言語だって通じてしまっている訳だし。
ならば俺は彼女をどうしたいんだろうか。では悩みを解決して彼女のメンタルを救う……何てことは流石に壮大すぎて出来るはずがない。いくらお節介の極みにしたって異世界から元の世界へ戻るとかいう不可能な事まで抱え込む人間ではないはずだ。かといって恋愛感情の類を抱くはずがない。
それならとっくにフィリアに抱いてるだろ。
「レンさんのことも良いですけど、ミヤトさんこれからどうするんですか?」
うーん、うーんと唸る俺に対してフィリアがいう。
「え……どうするって。そりゃレンを……」
「そうではなくて……元々この旅の目的は、異世界人……なのでレンさんに会う事が目的だったじゃないですか? 一応その願い自体は叶っちゃいましたけど」
「あー……」
深く考えて無かったが確かに。俺の目的は達成してしまったことになる。今は取り敢えずレンの事情が気になるので兎も角それすら終わったらどうなるんだろう……俺はどうすべきだろう。
なんか何も考えずに4か月放置してました。ここまで放置しているとなかなか筆が重い




