53話 子供の言葉は稚拙なもの
「あっミヤトさん」
シデロスの鍛冶場から武器屋の方まで戻ってきた店の裏側が鍛冶場になっていたらしい。フィリアとチェーニの二人はずっとこちらで待っていたらしく俺の姿を見て声を掛けてきた。やっぱり背中に隠れてる。
「あれ、武器は……?」
「ああ、うん。特注だから……明日か明後日にまた来いってさ」
そもそも特注ってことだからゼロベースなのだろう。そうとなればすぐに出来る訳もなく一旦こちらは待ちという状態になっている。まぁ一日二日待つくらいであればどうってことは無いしな。
「それじゃあどうしようか……」
「どうしよう……って?」
「いや単純に、この後の行動というか……ほらエストに行かなきゃって……」
この後の予定がないじゃないか、と思っていたのだけれど逆にフィリアにとってはそんな反応の俺に対してハテナマークが浮かんでいる様子である。
「? 予定がないなら丁度いいじゃないですか?」
「丁度いいって……なんでまた」
「え、ミヤトさんもしかして約束、忘れたんですか?」
……約……束?
「あ……」
■
「おにーちゃんたち、いらっしゃい!」
ミネの家にて。少女が出迎えてくれる。
約束したのはついぞ数日前だというにどうしてこうも簡単に忘れてしまっていたのだろう。異世界だと物忘れが激しくなったりするものなのかな。多分色々あり過ぎて記憶が端から抜け落ちているだけだとは思うけど……。
兎にも角にもミネたちと約束してたのだった。以前、彼女の母親の体調が芳しくなかった時にフィリアが料理を振舞った。そのお返しとして。
そんな訳でチェーニも引き連れた三人でミネの家へと向かった次第である。
シデロスについては一応チェーニが声を掛けたらしいが、完全部外者であるという事と俺の武器作成を行いたいとかで断ったらしい。
まぁ確かに俺達的にはよくてもミネ達からしたら本当に知らない大男でしかないもんな……。
「いらっしゃい」
ミネに続いて母親も。既に何か食事の用意が始まっているらしい。
「ずっとミヤトさんたちの話ばっかりで、ちょっと参っちゃったわ」
「そうなんですか? なんか、好かれてるならありがたいような……ちょっと申し訳ないような……」
「いいのよ! ミネがこんなに懐いてくれるんですもの」
ふふふ、と微笑みながら。言葉も顔色も元気そうだし、もう復調しきったと見ていいのかな。
「こっち!」
「はいはい、ちょっと裾を引っ張りすぎ」
そしてミネが俺の服の裾をぐいと引っ張りながら案内する。随分と懐かれてしまったものだ……俺には子供に好かれる才覚があったのかもしれない。
元の世界に戻れたらそういう道も考えて見るか……?
チラッと後ろの二人を見る。何故かフィリアは不機嫌そうというか膨れてる様子だった。もしかしてミネに嫉妬してる……とかそんな訳はないよないくら何でも。
食事用のテーブルに座って料理ができるまでの間、ミネの会話に付き合う。ずっとこっちに向かってこの数日であったことやらをまくし立てるように話してくれた。内容的に殆ど家から出てい無さそうなのによく話題が尽きないな……。
フィリアは一度料理の方を手伝いに行こうとしたのだけれど、
「あらいいわよ! お客さんなんだから座って待ってて!」
と突っ返されたらしい。まぁチェーニのためを思えばこっち側に必要は必要だろう。
「さぁ召し上がれ……口に合うと良いのだけれど」
そう言いながら出してくれたのは、これはキッシュとかいうやつだっけ。料理自体に明るいわけではないがなんとなく知っている。
とはいえこちらの世界でも名称がキッシュなのかは分からないので名前的な意味では口にしないでおこうか。
「美味しいですよコレ」
「そう? それなら良かったわ」
先にフィリアが食べていてそんな感想を口にする。フィリアに倣って俺も頂くとしようか。
チラッとチェーニの方を確認する。どこかやっぱり挙動不審感は否めない……がちゃんと席に座っていられるだけやっぱりマシなのかな。
食事自体も多分進められているっぽいし。
ならば一安心、と心のなかでいたたきますだけ唱えて口に運んでいく。
■
そうして続く食事の中でミネが真っ先に食べ終えて口を開く。
「ね、ね、おかーさん」
母親に話しかけたかと思えば、食器をテーブルに置き、椅子から降りている。それから隣に座る俺の右腕に抱きついてきた。何やら既視感及び危機感を覚える構図である。
シンプルに食器が持ちづらいというかスプーン動けなくなってるんだけど。
「わたし決めた! ミヤトおにーちゃんとけっこんする!」
「へ?」
「!?!!?」
驚く俺とまさかの言葉に思わず噎せてるフィリア。
そして呆然とする母親にチェーニ。
「うぇげほっ!!! うっ……!!」
「ま、待ってフィリア大丈夫!?」
食事が変な所へ入ったのか咳込んでいる様子である。
「いや……だ、大丈夫……ですっ……べ、べんなどごに入って……」
少なくともその言葉から完全に無事とはとても思えない。というか今何て言われた??確かにミネから結婚するとか何とか……。
「み、ミネちゃん……い、今なんて?」
腕に抱き着く彼女へ尋ねる。
「だから、おにーちゃんとけっこんするの!」
するとさらにぎゅっと力を強くしてそんなことを言ってきた。うん、少なくとも言葉としては結婚である。今までの人たち異常に生き急ぎ過ぎている言葉にコメントもできない。いや、待てもしかしたら結婚の意味を理解していない、雰囲気だけで言っている可能性は十二分にある。……取り敢えず様子見というかで結婚が何か理解しているかは聞いておこう。それで勘違いとかしていたら万々歳という事で……。
「ええと……結婚が何することか……って理解してる?」
頼むから勘違いであってくれと願いながら。
「??? あたしがおヨメサンっていうのになるんでしょ? 一しょのいえに住んで……それで……ええと……」
「うん、分かった、ダイジョウブ……」
全くもって大丈夫じゃあないけれど、とりあえず彼女自身の中での結婚の解釈はこちらと大して乖離がないことを確認できてしまった。
どうしよう……
 




