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49話 水掛け論はいつまでも

 あまりにも面倒ではあるけれど今のフィリアを落ち着かせるには一つ一つ意見を聞いて都度理路整然と、論理的に否定を続けていくほか無さそうである。

 それ以外聞く耳を持ってくれなさそうだし。

 彼女……チェーニには悪いが一旦この場に同席してもらい彼女……フィリアの暴走を止めるための役の一端を担ってもらおう……。

 結局チェーニのことはチェーニにしか分からないし。

 そんなチェーニはフィリアのテンションについていけないからか岩の陰に隠れてしまっている。フィリアには懐いていた筈だったのに……。


「一旦、フィリアの言う俺に惚れているという話が事実と仮定して、惚れるタイミングがそもそもないと思うんだけど」

「そんなもの、チェーニさんにここまで心つくしたとなれば、遅かれ早かれ……というやつだと思いますよ。その上で、モンスターから助けようとしたものが最後の一押しです」

「それは流石に短絡的過ぎじゃないかな……」

 ここまで惚れるまでがチョロいとなると不安しかないし、そこまで簡単だったら元の世界で恋愛経験ゼロで生きてないハズだろが。


「チェーニさんはそもそも男の人となるとシデロスさん以外ロクに関わりがないですから、距離感が分からないという前提を設けるならあり得る話ですよ」

 確かに、異性と関わりがないとそう言った感情感覚がバグるというのは遠い噂というか電子の噂で聞いたことはあるけれど……。


「いや、そういう人もいると思うけど……チェーニさんがそういう類とはとても……そもそも話すことすら困難だったんだぞ」

「それがミヤトさんの頑張りでもって解れていったという事ですよ。自分のトラウマを解消してくれた相手を惚れるなという方が私個人としては無理な話かと……少なくとも私なら惚れます」

 サラりと変な言葉をつけ足すんじゃないよ。

 というか、それがまかり通るなら俺より先にシデロスに惚れてそうなもんだけど……。


「……じゃあ話を変えて。チェーニさんに聞きたいけど、男性に対する恐怖心って今どんな感じ? 難しければ俺個人でもいいけど」

 チェーニが内容ではなく無意識下に現れるモノ、で惚れていると定義づけしたのであればそれに倣おう。


「え……と、み……ヤトさん……も、ま、ま、まだ……た、多分怖い……です」

 確かに怖いと言っている……けれどこれはあくまで内容。肝心なのはその言葉に付随する感情。

「ええと、可能ならその時の感情というか……こう、言い表しにくいと思うけど心臓とか脳がどんな感じだった……とか」

 凄くボヤッとしたお願いにはなってしまうが、これこそが無意識下の言葉足りうるはず。あくまで抽象的だろうと何だろうと分かる形で言語化できれば……にはなるけれど。

「……となく、こ、ここ……ろの奥が、へ……んな感じが……し、しまし……た」

 俺の只管に曖昧な言葉でもちゃんと理解してそれらしい言葉を吐いてくれた。とは言え変な感じというだけではまだまだ言葉としては曖昧であり判別も判断も出来ないのでさらに細かく訊ねていく。

「変って言うのは? 例えば俺やシデロスと他の男の人と相対したときと比べてどう……とか」

「おっ……と、とこ……の人はか……かかわらっ……ないっ……のでっ……」

 ああっと、確かにそうか。あんな状態だから極限まで避けてるのか……。であれば……。

「それなら、俺と最初に出会った時、とか」

「えっ……ええ……と……さい……しょはもっとずきずき……するかんっじでっ……あ……れ?」

 やはり喋り方は覚束ないけれど、彼女の心の感じ方というものは変化しているらしいのはわかる。別に心の状態に詳しいわけじゃないが表現の仕方が違うという事は俺に対する感情も変わって……あれ。

「俺に対する感じ方、なんか想定してない方に変化してない?」

「だから言ってるじゃないですか。私の感覚で申すのであれば、その感覚はミヤトさんに対する恋ですよ」

「こっ……こっ……ぃ」

 チェーニも岩の陰から慌てふためいている。


「い、いや……表し方が曖昧だからそうとも思えるだけで案外……」

 明確に好きと分かる情報ではないのは確かだから。つまりは彼女の言う変な感じをもっと細かく分析できれば……。

「……で、も……このかん……じは……す、こし……ここ、ち……いいかも……です」

「え……いやそれは……」

「ふふふ、やはり私の目に狂いはなかったです」

 そうであってもこの場はトチ狂ってると思うけど。それにやはり、チェーニのいうその感覚もフィリアが恋だといったから、そう感じているものなのではなかろうかという感覚が拭えない。じゃないといきなり男に慣れるを通り越して惚れるとはならないだろう。

 ……というかフィリアは先程からチェーニの感情のソレが恋愛由来のものだという確信が増える度に得意気な顔をしているけれど、お前のライバルが増えるから危惧しているとかそんなんじゃなかったのかよ。


「いやこれ以上言い争い続けてると、チェーニさんの感情もそれに引っ張られかねないから、やっぱりこの話は一旦やめとこう」

「いやでもそれだと……」

 フィリアはいやに食い下がる。がやっぱりこのまま水掛け論じみたことをしていても埒が明かない。それにチェーニ自身も見ている限りだとそれが恋なのか気のせいなのか、判別出来ていなさそうだし。

 ならばもう時間使ってチェーニ自身にそれが何であるかを知覚させた方がいいだろう。

「もしもそれで、チェーニさん自身で違う、って理解できたならフィリアのそれも杞憂ってことで済むんだし……」

「しかし乙女の勘がですね……」


 そもそも男だろが。

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